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断罪
しおりを挟む王城に入り王妃に呼ばれて部屋にはいればなぜか国王陛下もいらっしゃってクリスティーナは恐縮してしまった。いずれは父になるのだからと優しく接してくださる国王夫妻はクリスティーナにとってはもう一人の父と母だ。
クリスティーナの言葉を聞いて王妃さまは難しい表情で考え込んでいた。国王さまも苦りきった表情だ。その理由は呪われているかもしれないから次期王妃に自分は相応しくないかもしれないと告げたせいだろうか。
「クリスティーナ、この一件私が預かっても良いかしら。」
「王妃さま、私どうしたら……。」
「少しだけ時間を頂戴。何が起こっているのか調べて見ますわ。ねぇ、あなた。」
「うむ。クリスティーナ大丈夫だ。私たちが付いているからな。」
「ありがとうございます。」
その日学院に戻って見れば婚約者がアリアと街に出かけたという話を聞いてショックを受けたクリスティーナ。
だが、それでもそれを表情に出さずに耐えたのは彼女が長年耐えてきた教育の賜物。
そしてアリアのエスカレートしていく行為に頭を抱えつつも、その尻拭いと周りの者たちを宥めて必死に過ごす毎日となった。
次第に強くなっていくアレクサンデルの冷たい視線に耐えながらもクリスティーナは彼の婚約者として立ち続けた。
そして学院卒業を目前としてパーティが開催された。
今日は保護者たちも参加するので会場はかなり賑やかだ。その日、本来であれば自分をパートナーとするはずのアレクサンデルからエスコートができなくなったという知らせを受けて仕方なしに一人で会場に赴く。
その会場で見たのは婚約者にエスコートされて会場に入ってきたアリアの姿。
当然のことながら周囲はざわめいた。こそこそと話し声が聞こえる。国王夫妻への挨拶が終わるとパーティが始まるがその日はそれどころではなくなってしまった。
クリスティーナは突然騎士団長のご子息であるカイン様に押さえつけられ床に膝を付いた。
「な、なにをなさるのです!」
「もう我慢ならない。クリスティーナこれまでの仕打ち今ここでアリアに詫びるんだ。」
冷たい婚約者の視線と決め付けた物言いにクリスティーナは何のことだか分からない。
「一体何のことですの?仕打ちとは一体……。」
「しらばっくれるつもりか!お前はアリアが平民だからと言って蔑み、物を隠し教科書や机に傷を付けたそうじゃないか。おまけにお茶会に誘っておきながら彼女に紅茶をわざとかけた。」
「待ってくださいアレク様、私そんな事はしていませんわ。」
「ひどい。どうしてそんな嘘を付くの。」
アリアはアレクサンデルの腕にしがみついて涙目でクリスティーナを睨み付ける。
そしてアレクサンデルはアリアをそっと抱き寄せて頭を撫でた。
「大丈夫だアリア。私が付いている。」
「はい。アレク様。」
潤んだ瞳でアレクサンデルを見上げて頬を染めるアリアをアレクサンデルは優しく宥める。そんな二人の様子を見せ付けられるクリスティーナは堪らない。
「あ、アレク様どうして……。」
お茶会のことも調べれば分かること。なぜ決め付けるのかクリスティーナには理解できない。
「お前に愛称で呼ばれる筋合いはない。お前がやった事は全て明らかになっている。街で暴漢に襲うように指示したことも、彼女に買ってあげた指輪を盗んだのも分かっている。それに階段から突き落としたのもお前だそうじゃないか。」
「私はそんなことはしていませんわ。何かの間違いです。」
「私が憎いのも分かります。アレク様が良くしてくださっているのが気に食わなかったのでしょう。でも階段から落とすなんてひどい!下手したら怪我じゃすまないのに。」
その言葉に押さえつけられる力が更に加わって苦しげに呻いた。
「もはやお前などという者が私の婚約者など…。」
「お待ちなさい!アレクサンデル。」
アレクサンデルの言いかけた言葉を途中で止めたのはずっとその場を見ていた王妃さまだった。
「母上、なぜ止めるのです。」
「貴方、それだけ言うのだからきちんと調べたのでしょうね。」
「当然ではありませんか。きちんと証言した者がいます。」
「では連れてきなさい。」
王妃さまに言われて連れて来られた者たちは皆一様に青ざめていた。
その様子に気づかずにアレクサンデルは証言を求めた。
「お、お許しください。私はその女に金で雇われました。」
「わ、私はアリア様に脅迫されたのです。」
「な、なんだとお前たちどういうことだ!」
「ひどいです私のせいにするなんて。」
アレクサンデルとアリアが叫ぶ。
だが、周囲の視線が冷たく突き刺さっていることに気が付かないはずもなくどういうことかとアレクサンデルは王妃を見た。
「私はクリスティーナの相談を受けてずっと学院を監視させました。」
「う、嘘よ!」
アリアが叫ぶが一瞥するだけで王妃はそのまま続ける。
「報告書をここに。」
「はっ!」
近衛騎士が報告書の束を持ってくる。それを受け取ってアレクサンデルに王妃が渡した。その内容を見てみるみる青ざめていくアレクサンデル。
「いつまで私の可愛い未来の娘を床に押さえつけているつもりかしら。」
王妃の言葉に騎士団長の息子であるカインは青ざめて手を離した。
ゆっくりと立ち上がるクリスティーナ。その瞳は悲しげに揺れていた。
「どう、いうことだこれは。」
「ち、違うのこれは……あの女に命令されたの。逆らえなくてお願いアレク様信じて。」
辛うじて絞り出した声は震えている。アレクサンデルはアリアを睨み付けた。
その視線を受けてアリアは必死に弁解しようとアレクサンデルに駆け寄ってその腕に縋ろうとするがその手は振り払われた。
「すべて自作自演だったのだな。私とクリスを引き離すためにやったのか。」
「わ、私……。」
アリアは言いかけた言葉を呑み込んでキッとクリスティーナを睨み付ける。
「何よ!悪役の癖に私をいじめないから全部自分でやる羽目になったのよ。あんたがきちんと役目を果たさないからこうなったんじゃない。ふざけないで!私はヒロインなのよ。ゲームの登場人物ってだけのあんたは大人しく私を引き立てて悪役らしく退場したらいいのよ!」
叫んだ言葉はこの場の誰も理解できないことだった。
「お前なんて消えちゃえ!」
近くにいた護衛から剣を抜いてクリスティーナに切りかかった。あまりの状況に身動きがとれなかったクリスティーナは目を瞑るが何時までも衝撃は来ない。
そろりと目を開けるとずっと久しく見ていない愛しい婚約者の顔が見えた。
「く、りす…許してくれ。君を信じ切ることが出来なかった。」
「あ…あれく様?どうして……。」
震える声でアレクサンデルの頬に手を添える。
そして力が抜けたかのようにアレクサンデルがクリスティーナに倒れこんだ。真っ赤な血がクリスティーナの頬を濡らす。
「あ、あっ……いや、いやぁああああ!」
クリスティーナの叫び声が会場に響き渡り騒然となった。取り押さえられたアリアは騎士たちに引きずられて会場を去った。
ずっと私がヒロインなのになんでと口走っていたがその意味を解する人物は誰一人としていなかった。全員がアリアは気が触れたのだろうという見解だ。
王子は無事に一命を取り止めたが傷は深く今も昏睡状態だ。
そしてアリアに唆されてクリスティーナを糾弾した騎士団長の息子カイン様や魔道師長のご子息であるネーベル様、そして宰相閣下のご子息であるラース様は全員が謹慎処分を受けて教育を受けなおさせているらしい。
言葉巧みに彼らの心を掴んだアリアとろくな教育も与えないまま学院に放り込んだ男爵家も同罪とみなされ一族郎党処刑されることとなった。
王太子を殺しかけた上、公爵家の令嬢であるクリスティーナを陥れようとしたのだから当然の処置だった。
アリアは死ぬ直前までぶつぶつとヒロインなのにと呟いていたそうだが毒によってあっけなく最後を向かえた。
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