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プロローグ
プロローグ
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うなだれるような暑さと忙しい蝉の鳴き声が
鬱陶しい。
(カランッ)
「サクちゃん、麦茶飲みな。」
「うん・・・」
おばあちゃんが差し出したコップを取り、
少し飲む。
「コラッ!!探人(さくと)、ちゃんとお礼
言いなさいって、いつも
言ってるでしょ!!」
「まぁまぁ、サクちゃんも緊張してる
のよね~。」
コクリと頷き、また少し麦茶を飲む。
「はぁ~、お母さんはサクに
甘いんですから。」
そうは言われてもと、人見知りで人付き合いが
苦手な探人は思う。
そもそも、探人はクーラーが利いている自分の部屋で今日もゲームをしている
はずだったのに、親に連れられ東北の
父の実家に来る羽目になってしまったのだ。
「まったく、この子ったら折角こんな
自然の豊かなところまで来てるって
いうのに、遊びにも行かないで・・・」
母の勝手な言い分を聞いてるのにも
飽き飽きしていたそんな時、遠くから
駆けてくる音が聞こえた。
「サ~~ク~~!!」
「あらあら結(ゆい)ちゃん、
またサクのこと誘いに来てくれたの?」
「こんにちは叔母さん、
サク、借りて行っていい?」
「えっ?」
「まぁ、もちろん。ねぇサク。」
いや、嫌に決まってる!!こんな暑い日に外に出掛けて何の得になるって言うんだ!!
しかし、母さんの顔を見て探人は諦めるしかないと覚悟した。
「はぁ~、分かったよ。」
「やった~!!」
はしゃぐ結の姿によくそんなに元気だなぁ~と
感心しながら、重い腰を上げた。
「それじゃあ叔母さん、行ってきま~す!!」
「サクを頼んだわね!!」
そう言って嬉しそうに送り出す母に、
一言文句を言いたい気持ちを抑えて
僕は結と出掛けた。
「ただいま~。」
結に連れ回されクタクタになって帰って
来たのは、もう日が暮れる頃だった。
「おぅ、サク。おかえり。」
そう言ってきたのは従兄弟の
賢(ケン)兄だった。
「あぁ、もうクタクタだよ。」
「そっか、折角一緒に、いいもの見に行こうと
思ってたんだけど、その様子じゃ無理か。」
「えっ?何、いいものって?」
「ん?そうだなぁ・・・お前の人生が
変わるくらいにスゴいものって感じかな。」
「・・・何それ?」
「いや、マジでスゴいんだって!!
都会じゃ絶対見れないぜっ!!」
「う~~ん。」
探人は迷った。
賢兄は嘘をつかないし、その賢兄がスゴいって言うんだ、スゴいのは間違いないのだろう。
「分かった、いつ行くの?」
「本当か!よし、じゃあ今夜、皆が寝静まった
後でこっそり抜け出して行くぞ!!」
「えっ・・・?」
これは完全に予想外だった。
だが、今さら断ることができる訳でもなく、
無事に帰って来れることを祈るしかなかった。
深夜、父さんも母さんも寝静まった頃、
賢兄が部屋にやってきた。
「サク、準備はいいか?」
「本当に行くの?」
「あぁ、今日じゃなきゃ駄目なんだ!」
真っ直ぐな目でそう言ってきた賢兄を見て、
俺は信じて、黙ってついて行くことにした。
家を出て、近くの森に入って行った。
夜の森は暗く、木の葉の擦れる音がしていた。
虫が飛んでくるのが鬱陶しいが、仕方ない。
野獣に襲われる心配をするべきだったの
だろうが、この時の俺は賢兄の言う、
いいものへの期待で胸がいっぱいだった。
しばらく行くと、開けたら場所に出た。
「着いたぞ。」
「!!」
天の川の光が眩しく降り注ぎ、それを池が反射して光が溢れている。
俺は言葉を失った。
いや、この美しい景色をどのように言葉で
表していいか、俺には分からなかったのだ。
これは実際に見た者にしか分からない。
そう気付いて、思った。
賢兄もきっとこの美しさをどう言葉に
表していいか分からなかったのだろう。
そして、実際に連れて来るしかないと
考えたのだろう。
「どうだ、サク。」
「・・・賢兄、・・・俺、何て言っていいか
分かんないけど、一つだけ確かなことは、
今、めっちゃ感動してる。」
「だろ。」
「俺さ、今まで世界がこんなに
キレイだなんて思ったことなかった。」
「・・・なぁ、サク。俺、もっと
広い世界を知って、自分だけの
星を探しに、都会に出るよ!!」
「星?」
「あぁ、要は自分の輝く可能性って
感じかな。」
「・・・可能性。・・・俺にもあるのかな?」
「あぁ、あるに決まってるだろ!
見ろよ、この星空を!!
星は世界にこれだけ沢山あるんだ!
お前だけの星もきっとあるさ!!」
「うん!!」
この日、俺達は誓い合った。
いつか、あの輝く星のように
輝いてみせると!!
この満天の星空に。
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