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Ⅲ奏人の過去
奏人の過去・完
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「どうした、どこか痛むのか?」
「違……、ソロがすること、全部……気持ち、ぃ……から、すぐ、イク……」
少し手加減して欲しくてそう言ったのに、ソロは目を細めるだけでむしろ勢いを増した。目の前がチカチカしてくる。とにかく一突きが重い。グンと押し付けられた腰に、もはや言葉にし難い快感が乗って襲ってくる。
せめてこの、これっぽちも可愛げのない呻くような声をどうにかしようとソロにしがみ付いて両手を離して口を塞いだ。しかしすぐに両手首を掴まれて引き剥がされ、シーツの上に縫い留められてしまう。
「ひ、ぅ……ぐ、ぁ、…っ、ぁ、ぁ……も、むぃ……っ」
口を塞がれて、甘く唇を噛まれた。
我慢できずに鈴口から勢いよく白濁が散る。断続的に吐き出される精液の量がいつもより多く、色も濃い。自分でしていなかったせいだが、それを手指に取ってペロリと舐めたソロは満足そうに薄く微笑んだ。
「あぁぁぁ……ッ」
「もっとだ、もっと私を欲しがれ」
「ンンっ、ぁ、ぁ、ゆっくり……ゆっくり、してっ、イったばっかだからぁ……!」
快感も度を超すと苦しくなる。それをソロと出会って知った奏人だが、これを少しだけ我慢すると全身が震えるほどの激しい快感を浴びせられて、最終的にはグズグズになってしまうのも常だ。
今回は久しぶりだったこともあって、体も思考も溺れそうな快楽についていくことができず、訳が分からなくなっていた。
「ンンぅー……ッ、ぁ、ぐ、ぅ……! イ、ぐ、も……やだぁ!」
「逃げるな」
「あぁぁぁ……ぁ、ぁ……、なんか、……クる、やだ、これ、やだ……ッ」
低く喉の奥で笑うソロ。腰を抱かれて奥に押し付けられまま腰を使われて、泣きながら喘いだ。奥はイキっぱなしで、前の方も出し尽してしまった。鈴口は切なそうに震えるだけ。それでいてなおも何かがキてしまいそうな気配に、軽くパニックになる。
「……ようやく、私の律力と重なったか。八重の吐息の、副産物だ。存分に味わえ」
「――ッッ、っ、ッ――!!」
体を起こされて騎乗位に無理矢理変えられ、下から存分に穿たれた。声が言葉にならない。喚いていた気もするし、絶叫していた気もするし、実際は何も声には出せなかった気もする。
自分に何が起こっているのか分からぬまま、トロトロと体液が腹を濡らし続けて止まらない。それでいて内壁も蠕動しっぱなしで、奏人は瞠若したまま息をするのも忘れて小刻みに震えていた。
全身の毛穴が開いて汗が噴き出したような熱さと、当てはまる言葉が見つからない、とてつもなく大きな快感。睫毛は涙に濡れ、唖然と開いたままの口端からも唾液が零れている。
「ほら、まだ終わらんぞ」
「ひぃぃっ、……ッ、ッ、ぁ、ぐぅぅ……っ」
まるで獣。大きくかぶりを振ってイヤイヤをしても許してはもらえない。絶頂に次ぐ絶頂、そして絶頂。狂うのではないかと錯覚するほどの強い快楽が、ソロが突き上げるごとに体中を貪る。
「ふ……ぅ、ぅ……っ」
「っ……」
「ぁ、ぁああああ……っ、そ、ぉおお……っ」
奥でソロが弾けたのが、感覚的に分かった。力が抜けて一気に意識が遠のく。ソロに抱き留められたところまでは意識もあったが、その後は何もない。何も。
「おい、カナト。おい? ……マズイな」
◆◆◆
奏人の体を清めた後、念のためにシンに診せておいた。何事もなく腕の中で眠る奏人の髪を撫でながら、怖い顔をしている金糸持ちの侍従統括に息を吐く。
「……そう怒るな。詫びる」
こと奏人に関してだけは、素直に非を認めるソロだ。
フエテフォルツァの塔から連れ戻した夜も似たように謝ったが、思えば部下に非を認めて謝罪したのはあれが初めてだ。ソロのプライドはまさに天を突き破るほどであるが、奏人のことを深く思っての発言だと分かっているので気分を害することは何もなかった。未だにあれをとやかく思うこともない。
「我が君のご寵愛の深さは、矮小な我が身では到底理解が追い付かぬこと。ですが、先日申し上げました通り、カナトさんは人間です。あまりご無体はなりませぬよう何卒と、あれほどに……」
「分かってはいるが、これの愛らしさは少々おかしいと思わんか? 何故こうも愛らしいのだ。落ちて来た当初より格段に可愛さが増している。このままでは、面倒な輩に目を付けられかねん」
本気で無駄なことを心配しているソロに、シンがニコニコと嬉しそうに口を開いた。
「すべて我が君のご寵愛の賜物かと。カナトさんも、我が君がご不在の間は寝床が冷たいと寂しがるご様子でした」
「カナトが? ……そうか」
穏やかな顔をして奏人の頬を撫でるソロに、侍従たちも表情を和らげる。
今回は本当に帰館するまでに時間がかかった。奏人も表情には出さなかったが、時折ため息をつきながらボンヤリしていたのを侍従たちは知っている。
ふと、奏人を撫でていたソロの手指が動きを止めた。主の纏う空気が変化したことに気付いて、三人は表情を引き締める。
「お前たち、シキを知っているな? 今代律王が以前飼っていた、人間の名だ」
「はい。記憶しております」
答えたのはコードだ。声に苛立ちが乗っている。無理もなかった。あの人間のせいで、ソロは左目を奪われることになった。当時、コードはとにかく悔しくて悔しくて、どこにこの怒りをぶつけていいのか分からなかったほどだ。
今代律王は名君として名を馳せ、信頼も厚く最下層の民からも慕われていた。不穏な影を落としていったのは、シキを手に入れてからだ。
律王のシキへの傾倒ぶりは律界をも揺るがし、律界全体が不穏な空気に包まれていくのに、そう時間はかからなかった。日増しに強くなる律王への不満。シキから片時も離れることができぬほどの、異常な執着。離れられないだけなら、まだ良かった。律王は徐々に政への関心すら失くし、シキと日夜部屋に籠るようになってしまった。
当然、律界の政は回らない。反乱もところどころで起き始め、律王の退位が強く望まれていった。ソロが誕生したのは、その頃だ。律王を上回る律力の持ち主の誕生は、律界全体を沸かせ安堵させた。
律王の不満はソロへの期待へと変化し、ソロも周囲の期待を裏切らぬままここまできた。既にシキ以外のことに興味を失くしていた律王はあっさりと次期律王にソロを推薦。王の盾は拒んだが、他全員がその意向に沿った。
ソロが今代律王に成り代わって律界を動かすようになると、たちまち荒れていた地方の貴族らも怒りをおさめ、次期律王のもと結束を固めていった。
しかし一見落ち着いたかに思えた律界に、律界人の根幹を揺さぶる大事件が起こる。
今は黒布に覆われている、奏人にしか見せない左目。否。奏人だけが見ることのできる、左目。それは、今代律王に王命として奪われたものであった。
「隠密の上位探索方を招集し、お前の指示の元でシキの情報を集めろ」
「探索方をですか?」
「タクトを覚えているな」
「はい。もちろんでございます」
フォニックの目が鋭くなり、しっかりと首肯する。拓斗は奏人が落ちて来た当初から探し続けている、人間の青年。彼のためなら自分がどうなってもいいと本気で考えている奏人の危うさを、フォニックはずっと危惧していた。他の二人もだ。
奏人の口からは、とにかく拓斗への称賛しか出てこない。嬉しそうに拓斗のことを語る奏人には悪いが、聞けば聞くほど胡散臭い気がしてならない。侍従三人は、どうしても拓斗のことは好きになれずにいた。奏人が当然のように自らを犠牲にしようとすることが悔しいし、許せなかった。
それを奏人に伝えたところで、拓斗のためなら当然だと笑って答える。その、一点の曇りもない晴れやかな笑顔に不安を掻き立てられて、特にフォニックは嫌悪にも近い感情を拓斗に抱いていた。
「あれの名は、シキ・タクトというらしい」
「ッ?」
「……関係はないとは思うが、少し引っかかる」
「と、申されますと」
「タクトのことを語る、カナトの顔だ。……似ている。律王が、あれのことを語っている時のものとな」
忌々しげに眉をひそめるソロに、フォニックは自分の嫌悪感があながち間違いではなかったことを知る。拳を握り、改めて主を見た。
「ですが我が君、その者は既に霊界へ渡ったはず。カナトさんの言う、タクトと同一人物だとは……」
「お前はこの目が何に使われたか、知っているか?」
「……申し訳ございません。今代律王に、その……奪われてしまったとしか」
「私の力を使って他人ができることは限られている。例え律王であったとしてもだ。未だ返らぬこの目といい、離宮へ引きこもられた律王といい……シキがこの世界に留まっている可能性は、高い」
「そんな……っ。で、ですが」
「そうだ。シキは死んだ。そう報告された。だが、では何故私のもとに結晶化させた左目が戻らない? これまでは律王が崩御してからでも構わなかったが、状況が変わった」
ソロの視線が奏人へ向く。丸まって眠る彼を見つめ、そのうなじをそっと撫でた。深く馴染んできた八重の吐息。ようやく、兆候を見せてきた。だがまだまだ油断はならない。シキがタクトと同一人物であった場合、最悪の事態が予想される。それだけはなんとしてでも避けなければならなかった。
「くれぐれも慎重に動け。お前自身は表に出るな」
「御意」
「お前たちからすれば今更だろうが、伝えておく。いいか……私は、これを手放す気など更々ない」
その宣言は、最悪の事態が起こった場合の立ち位置を意味していた。
問い返すまでもない。ソロは決めたのだ。ならば、フォニックたちは主の意思のままに平伏するだけ。そこに一つの不満はなく、それでこそ我が君であると胸が満たされる思いだった。
「これの生涯が閉じるまで、これすべてが私のものだ」
力ある言霊とともに髪へキスを落とされ、奏人が小さく身じろぐ。微かに睫毛が震えたが、すぐにまた深く眠りに入っていった。ソロの方へ体を向けたままあどけない顔で寝息を立てている奏人に、ソロは微苦笑して呟く。
「まぁ、律王の気持ちも分からんではないな。フエテが忠告を寄越すはずだ」
「我が君は今代律王とは違います」
律王にいい感情を持っていないコードが、声を荒げて否定した。
「もちろん、政をおろそかにする気はない。考えてもみろ。四六時中くっついていて、これがいい顔をすると思うか? それこそ雲隠れをされてしまう」
クスクスと本当にしそうだなと笑うソロに、侍従らも表情を和らげる。
「シキのことはカナトには伏せておけ。以上だ。下がっていい」
侍従らを下がらせてから、ソロは黒布を解き低く言葉を紡ぎ出した。詠唱はどこか厳かで、奪われた力の痕跡を辿る。
「……」
やはり弾かれてしまった。腐っても律王。律力自体はソロに分があるとはいえ、繊細で綿密な術式は今代律王が最も得意としてきたものだ。巧みに張り巡らされた結界を前にしては、例えソロであってもそう簡単には突破できない。
奏人を見る。引き寄せられるようにして口づけ、寝息を散らした。ソロから否応なく起こされた奏人が、顔を顰めて背を向けようとする。それを引き戻し、ソロは柔らかな屹立に舌を這わせた。まだ半分意識のない奏人が甘く戦慄き、あっけないほど簡単に蜜を吐き出す。ビクビクと気持ち良さそうに震える体がたまらなく愛おしい。
「……眠い、ってば……」
「舐めるだけだ。後ろを向け」
「や、だ……ぁ……」
横向きになった奏人の臀部に顔を寄せて襞を弄り出すと、やはり感じてしまうのか逃げるようにうつ伏せになった。術で腰だけを高く浮かせ、清めたばかりのそこを舐め始める。
「ぁ、ぁ……、っ、……ン」
たったそれだけで敏感な体は甘くイってしまい、猛ったものをねじ込むと更に感じたのか腰を揺らして吐精した。ほとんど散ることはなかったが、内壁は蕩けたように蠕動しソロのものを締め付ける。
「カナト。お前は、私のものだ」
「え……? うん。知ってる、けど……?」
ほとんど条件反射で覆い被さるソロに腕を回す奏人が、今更何を言うのだろうと小首を傾げる。ソロは満足そうに微笑んで、鼻先を舐めた。首筋の薄い皮膚を啄みながら、もう一度だけ付き合えと体を揺さぶる。
「舐めるだけって、もぉ……」
「ひどくはしない」
「……。……ゆっくり、が、いい」
「分かった」
ほとんど体に力が入らない奏人を時間をかけてゆっくりと揺さぶり、しかしそのうちスイッチが入ってしまった奏人の許可を得て存分に動き始めると、結局は彼を気絶させてしまった。
「……我が君」
再度呼び寄せたフォニックたちの、嘆くようなため息。ソロはバツが悪そうにそっぽ向き、向き続けて、最後にボソッと小さく呟いた。
「……反省は、している」
「違……、ソロがすること、全部……気持ち、ぃ……から、すぐ、イク……」
少し手加減して欲しくてそう言ったのに、ソロは目を細めるだけでむしろ勢いを増した。目の前がチカチカしてくる。とにかく一突きが重い。グンと押し付けられた腰に、もはや言葉にし難い快感が乗って襲ってくる。
せめてこの、これっぽちも可愛げのない呻くような声をどうにかしようとソロにしがみ付いて両手を離して口を塞いだ。しかしすぐに両手首を掴まれて引き剥がされ、シーツの上に縫い留められてしまう。
「ひ、ぅ……ぐ、ぁ、…っ、ぁ、ぁ……も、むぃ……っ」
口を塞がれて、甘く唇を噛まれた。
我慢できずに鈴口から勢いよく白濁が散る。断続的に吐き出される精液の量がいつもより多く、色も濃い。自分でしていなかったせいだが、それを手指に取ってペロリと舐めたソロは満足そうに薄く微笑んだ。
「あぁぁぁ……ッ」
「もっとだ、もっと私を欲しがれ」
「ンンっ、ぁ、ぁ、ゆっくり……ゆっくり、してっ、イったばっかだからぁ……!」
快感も度を超すと苦しくなる。それをソロと出会って知った奏人だが、これを少しだけ我慢すると全身が震えるほどの激しい快感を浴びせられて、最終的にはグズグズになってしまうのも常だ。
今回は久しぶりだったこともあって、体も思考も溺れそうな快楽についていくことができず、訳が分からなくなっていた。
「ンンぅー……ッ、ぁ、ぐ、ぅ……! イ、ぐ、も……やだぁ!」
「逃げるな」
「あぁぁぁ……ぁ、ぁ……、なんか、……クる、やだ、これ、やだ……ッ」
低く喉の奥で笑うソロ。腰を抱かれて奥に押し付けられまま腰を使われて、泣きながら喘いだ。奥はイキっぱなしで、前の方も出し尽してしまった。鈴口は切なそうに震えるだけ。それでいてなおも何かがキてしまいそうな気配に、軽くパニックになる。
「……ようやく、私の律力と重なったか。八重の吐息の、副産物だ。存分に味わえ」
「――ッッ、っ、ッ――!!」
体を起こされて騎乗位に無理矢理変えられ、下から存分に穿たれた。声が言葉にならない。喚いていた気もするし、絶叫していた気もするし、実際は何も声には出せなかった気もする。
自分に何が起こっているのか分からぬまま、トロトロと体液が腹を濡らし続けて止まらない。それでいて内壁も蠕動しっぱなしで、奏人は瞠若したまま息をするのも忘れて小刻みに震えていた。
全身の毛穴が開いて汗が噴き出したような熱さと、当てはまる言葉が見つからない、とてつもなく大きな快感。睫毛は涙に濡れ、唖然と開いたままの口端からも唾液が零れている。
「ほら、まだ終わらんぞ」
「ひぃぃっ、……ッ、ッ、ぁ、ぐぅぅ……っ」
まるで獣。大きくかぶりを振ってイヤイヤをしても許してはもらえない。絶頂に次ぐ絶頂、そして絶頂。狂うのではないかと錯覚するほどの強い快楽が、ソロが突き上げるごとに体中を貪る。
「ふ……ぅ、ぅ……っ」
「っ……」
「ぁ、ぁああああ……っ、そ、ぉおお……っ」
奥でソロが弾けたのが、感覚的に分かった。力が抜けて一気に意識が遠のく。ソロに抱き留められたところまでは意識もあったが、その後は何もない。何も。
「おい、カナト。おい? ……マズイな」
◆◆◆
奏人の体を清めた後、念のためにシンに診せておいた。何事もなく腕の中で眠る奏人の髪を撫でながら、怖い顔をしている金糸持ちの侍従統括に息を吐く。
「……そう怒るな。詫びる」
こと奏人に関してだけは、素直に非を認めるソロだ。
フエテフォルツァの塔から連れ戻した夜も似たように謝ったが、思えば部下に非を認めて謝罪したのはあれが初めてだ。ソロのプライドはまさに天を突き破るほどであるが、奏人のことを深く思っての発言だと分かっているので気分を害することは何もなかった。未だにあれをとやかく思うこともない。
「我が君のご寵愛の深さは、矮小な我が身では到底理解が追い付かぬこと。ですが、先日申し上げました通り、カナトさんは人間です。あまりご無体はなりませぬよう何卒と、あれほどに……」
「分かってはいるが、これの愛らしさは少々おかしいと思わんか? 何故こうも愛らしいのだ。落ちて来た当初より格段に可愛さが増している。このままでは、面倒な輩に目を付けられかねん」
本気で無駄なことを心配しているソロに、シンがニコニコと嬉しそうに口を開いた。
「すべて我が君のご寵愛の賜物かと。カナトさんも、我が君がご不在の間は寝床が冷たいと寂しがるご様子でした」
「カナトが? ……そうか」
穏やかな顔をして奏人の頬を撫でるソロに、侍従たちも表情を和らげる。
今回は本当に帰館するまでに時間がかかった。奏人も表情には出さなかったが、時折ため息をつきながらボンヤリしていたのを侍従たちは知っている。
ふと、奏人を撫でていたソロの手指が動きを止めた。主の纏う空気が変化したことに気付いて、三人は表情を引き締める。
「お前たち、シキを知っているな? 今代律王が以前飼っていた、人間の名だ」
「はい。記憶しております」
答えたのはコードだ。声に苛立ちが乗っている。無理もなかった。あの人間のせいで、ソロは左目を奪われることになった。当時、コードはとにかく悔しくて悔しくて、どこにこの怒りをぶつけていいのか分からなかったほどだ。
今代律王は名君として名を馳せ、信頼も厚く最下層の民からも慕われていた。不穏な影を落としていったのは、シキを手に入れてからだ。
律王のシキへの傾倒ぶりは律界をも揺るがし、律界全体が不穏な空気に包まれていくのに、そう時間はかからなかった。日増しに強くなる律王への不満。シキから片時も離れることができぬほどの、異常な執着。離れられないだけなら、まだ良かった。律王は徐々に政への関心すら失くし、シキと日夜部屋に籠るようになってしまった。
当然、律界の政は回らない。反乱もところどころで起き始め、律王の退位が強く望まれていった。ソロが誕生したのは、その頃だ。律王を上回る律力の持ち主の誕生は、律界全体を沸かせ安堵させた。
律王の不満はソロへの期待へと変化し、ソロも周囲の期待を裏切らぬままここまできた。既にシキ以外のことに興味を失くしていた律王はあっさりと次期律王にソロを推薦。王の盾は拒んだが、他全員がその意向に沿った。
ソロが今代律王に成り代わって律界を動かすようになると、たちまち荒れていた地方の貴族らも怒りをおさめ、次期律王のもと結束を固めていった。
しかし一見落ち着いたかに思えた律界に、律界人の根幹を揺さぶる大事件が起こる。
今は黒布に覆われている、奏人にしか見せない左目。否。奏人だけが見ることのできる、左目。それは、今代律王に王命として奪われたものであった。
「隠密の上位探索方を招集し、お前の指示の元でシキの情報を集めろ」
「探索方をですか?」
「タクトを覚えているな」
「はい。もちろんでございます」
フォニックの目が鋭くなり、しっかりと首肯する。拓斗は奏人が落ちて来た当初から探し続けている、人間の青年。彼のためなら自分がどうなってもいいと本気で考えている奏人の危うさを、フォニックはずっと危惧していた。他の二人もだ。
奏人の口からは、とにかく拓斗への称賛しか出てこない。嬉しそうに拓斗のことを語る奏人には悪いが、聞けば聞くほど胡散臭い気がしてならない。侍従三人は、どうしても拓斗のことは好きになれずにいた。奏人が当然のように自らを犠牲にしようとすることが悔しいし、許せなかった。
それを奏人に伝えたところで、拓斗のためなら当然だと笑って答える。その、一点の曇りもない晴れやかな笑顔に不安を掻き立てられて、特にフォニックは嫌悪にも近い感情を拓斗に抱いていた。
「あれの名は、シキ・タクトというらしい」
「ッ?」
「……関係はないとは思うが、少し引っかかる」
「と、申されますと」
「タクトのことを語る、カナトの顔だ。……似ている。律王が、あれのことを語っている時のものとな」
忌々しげに眉をひそめるソロに、フォニックは自分の嫌悪感があながち間違いではなかったことを知る。拳を握り、改めて主を見た。
「ですが我が君、その者は既に霊界へ渡ったはず。カナトさんの言う、タクトと同一人物だとは……」
「お前はこの目が何に使われたか、知っているか?」
「……申し訳ございません。今代律王に、その……奪われてしまったとしか」
「私の力を使って他人ができることは限られている。例え律王であったとしてもだ。未だ返らぬこの目といい、離宮へ引きこもられた律王といい……シキがこの世界に留まっている可能性は、高い」
「そんな……っ。で、ですが」
「そうだ。シキは死んだ。そう報告された。だが、では何故私のもとに結晶化させた左目が戻らない? これまでは律王が崩御してからでも構わなかったが、状況が変わった」
ソロの視線が奏人へ向く。丸まって眠る彼を見つめ、そのうなじをそっと撫でた。深く馴染んできた八重の吐息。ようやく、兆候を見せてきた。だがまだまだ油断はならない。シキがタクトと同一人物であった場合、最悪の事態が予想される。それだけはなんとしてでも避けなければならなかった。
「くれぐれも慎重に動け。お前自身は表に出るな」
「御意」
「お前たちからすれば今更だろうが、伝えておく。いいか……私は、これを手放す気など更々ない」
その宣言は、最悪の事態が起こった場合の立ち位置を意味していた。
問い返すまでもない。ソロは決めたのだ。ならば、フォニックたちは主の意思のままに平伏するだけ。そこに一つの不満はなく、それでこそ我が君であると胸が満たされる思いだった。
「これの生涯が閉じるまで、これすべてが私のものだ」
力ある言霊とともに髪へキスを落とされ、奏人が小さく身じろぐ。微かに睫毛が震えたが、すぐにまた深く眠りに入っていった。ソロの方へ体を向けたままあどけない顔で寝息を立てている奏人に、ソロは微苦笑して呟く。
「まぁ、律王の気持ちも分からんではないな。フエテが忠告を寄越すはずだ」
「我が君は今代律王とは違います」
律王にいい感情を持っていないコードが、声を荒げて否定した。
「もちろん、政をおろそかにする気はない。考えてもみろ。四六時中くっついていて、これがいい顔をすると思うか? それこそ雲隠れをされてしまう」
クスクスと本当にしそうだなと笑うソロに、侍従らも表情を和らげる。
「シキのことはカナトには伏せておけ。以上だ。下がっていい」
侍従らを下がらせてから、ソロは黒布を解き低く言葉を紡ぎ出した。詠唱はどこか厳かで、奪われた力の痕跡を辿る。
「……」
やはり弾かれてしまった。腐っても律王。律力自体はソロに分があるとはいえ、繊細で綿密な術式は今代律王が最も得意としてきたものだ。巧みに張り巡らされた結界を前にしては、例えソロであってもそう簡単には突破できない。
奏人を見る。引き寄せられるようにして口づけ、寝息を散らした。ソロから否応なく起こされた奏人が、顔を顰めて背を向けようとする。それを引き戻し、ソロは柔らかな屹立に舌を這わせた。まだ半分意識のない奏人が甘く戦慄き、あっけないほど簡単に蜜を吐き出す。ビクビクと気持ち良さそうに震える体がたまらなく愛おしい。
「……眠い、ってば……」
「舐めるだけだ。後ろを向け」
「や、だ……ぁ……」
横向きになった奏人の臀部に顔を寄せて襞を弄り出すと、やはり感じてしまうのか逃げるようにうつ伏せになった。術で腰だけを高く浮かせ、清めたばかりのそこを舐め始める。
「ぁ、ぁ……、っ、……ン」
たったそれだけで敏感な体は甘くイってしまい、猛ったものをねじ込むと更に感じたのか腰を揺らして吐精した。ほとんど散ることはなかったが、内壁は蕩けたように蠕動しソロのものを締め付ける。
「カナト。お前は、私のものだ」
「え……? うん。知ってる、けど……?」
ほとんど条件反射で覆い被さるソロに腕を回す奏人が、今更何を言うのだろうと小首を傾げる。ソロは満足そうに微笑んで、鼻先を舐めた。首筋の薄い皮膚を啄みながら、もう一度だけ付き合えと体を揺さぶる。
「舐めるだけって、もぉ……」
「ひどくはしない」
「……。……ゆっくり、が、いい」
「分かった」
ほとんど体に力が入らない奏人を時間をかけてゆっくりと揺さぶり、しかしそのうちスイッチが入ってしまった奏人の許可を得て存分に動き始めると、結局は彼を気絶させてしまった。
「……我が君」
再度呼び寄せたフォニックたちの、嘆くようなため息。ソロはバツが悪そうにそっぽ向き、向き続けて、最後にボソッと小さく呟いた。
「……反省は、している」
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街での滞在が長くなってきた頃、突然「俺の伴侶になってくれ」と言われ──
優しく(?)兄貴肌の黒豹×幸薄系オオカミが織り成す獣人BL、ここに開幕!
アイドルのマネージャーになったら
はぴたん
BL
大人気5人組アイドル"Noise"
ひょんな事からそのマネージャーとして働く事になった冴島咲夜(さえじまさくや)。
Noiseのメンバー達がみんなで住む寮に一緒に住むことになり、一日中メンバーの誰かと共にする毎日。
必死にマネージャー業に専念し徐々にメンバーとの仲も深まってきたけど、、仲深まりすぎたかも!?
メンバー5人、だけではなく様々な人を虜にしちゃう総愛され物語。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
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