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2人の居場所
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振り返ると、バルカスの後ろには、黒髪を短く切りそろえた美女いる。こちらを睨んでいるようだ。
「げっ」
アルトは思わず声をもらした。
カナは基本的には温厚だ。
しかし、普段は優しいが怒ると怖い人は結構いる。彼女もそのうちの1人だった。
そのうちの1人なのだが、彼女の恐ろしさは常軌を逸していた。
それは彼女が怒った様子を見たある冒険者に「あれは人など容易く殺す」と言わしめたほどだ。
そんな噂は彼女の美貌とのギャップもあって、すぐに広まった。
当時カナは、ギルド職員見習いとして、国中の国営ギルド支部を転々としていた。ギルド職員になるためには、見聞を広める必要もあるのだ。
そうして訪れた新たな街マギドには、すでに彼女の噂が伝わっていた。
この街でカナは、目に見えて避けられていた。
しかし、今の彼女には、避けられたことが悪いことだったとも言い切れない。
当然、まだ幼さの残る当時のカナにとって避けられるのは辛かったし、悲しかった。
そんな日々を変えてくれたのは、赤髪の少女との出会いだった。
マギド支部に来てほどなくして、カナはあることに気がついた。自分以外にも避けられている少女がいるのだ。
別に何か嫌がらせをされているわけでもないが、他の職員の対応が妙にそっけない。
皆に避けられて、敏感になっていたカナだから気づけたのだろう。カナは少女に興味を持った。
「こんな難しそうな依頼うけるの?お仲間はどこかしら?」
カナは、高難度の依頼が並ぶ掲示板の前にいた赤髪の少女に声をかける。
「え!えっと、、、そ、その、わたしですか?」
彼女はなぜか慌てている。そんな姿が可愛らしい。
「そうよ。あ、わたしはカナ。それで、お仲間は?」
「い、いません」
沈んだ声で返ってきた答えは、カナが予測したものだった。
「1人じゃこんな依頼受けられないわよ」
「で、でもわたし、いつも、、、」
「こんなのどうかしら?」
カナは何か言いたそうな少女の言葉を遮って提案する。
「街の塀の点検なんだけど、これなら1人でも安全だし、日が沈むまでには帰ってこられるわ。それに報酬も悪くないし。」
「じゃあ、、、それにします」
少女は断れないタイプらしい。
「わかったわ。ところでさ、今日一緒にご飯食べない?」
なぜ初対面の少女をご飯に誘ったのか、カナは自分でもよくわからない。もしかしたら寂しかったのかもしれない。
「え!えっと、、、そ、その、わたしとですか?」
同じセリフをさっきも聞いた気がする。
「そうよ。依頼が終わったらギルドにもどってくるでしょ?私もそれまでに仕事片付けるわ。」
「あ、えっと、はい。よろしくお願いします」
顔に不安を浮かべるが、やはり断れない。あと変に堅苦しい。
「約束よ。そういえば、あなたの名前は?」
少女は一瞬驚いたような顔になり、またすぐに不安な顔にもどって、
「マ、マリー」
と小さく呟いた。マリー、どこかで聞いた気がするが、思い出せないので気にしないでおく。
「じゃっ、よろしくね。リィーちゃん。」
マリーは再び驚いた顔をした。
「そうだったんですね」
「そーなよ。噂広めた奴まじでぶっ殺してやるわ」
そういったカナは怒ってはいるが、軽く酔っているせいか、話に聞いたまでの殺気は感じられない。
「それじゃあ次はリィーちゃんの番ね。リィーちゃんもなんか避けられてる感じだったし。なにがあったんだい?私が聞いてやろうじゃない」
彼女なら受け入れてくれるかもしれない。マリーは期待と不安で心が一杯になった。
ーでも、言わなくてもどうせすぐにバレちゃうし、いうしかないよね。
不安は消えないが決心はついた。そしてゆっくりと口を開く。
「わたし、実は、鮮血のマリーなんです」
「ほんと?すごいじゃん。じゃあめっちゃ強いんだ」
驚くほどに軽かった。こんな簡単に受け入れられることが信じられなかった。
「そんな、、、わたしは鮮血のマリーなんですよ!数えきれないほど人を殺してるんですよ!それなのにカナさんは怖くないんですか?」
つい声を荒げてしまった。騒がしかった酒場は静まり返り、視線が自分に集中しているのがわかる。
「だって仕事でしょ。それにリィーちゃんが殺したおかげで助かった人のが多いに決まってるわ。誇りを持っていいのよ」
時には依頼主にさえ殺人鬼と罵られた。人を殺す仕事などしたくはなかった。それでもマリーの依頼主は国王直筆の命令書をたずさえていた。この国で、国王の命令は絶対である。従うしかない自分が情けなく、自分で自分を否定した。
マリーはいつのまにか涙を流していた。肯定される安心感に涙が止まらなかった。すっとカナの手が頭の上に乗せられる。
「泣いていいのよ。辛くなったらお姉さんがなぐさめてあげるから。私もあなたに話せて楽になったんだから、お互い様よ」
そう言って頭を撫でてくれる。
マリーは温もりの中で自分の居場所を見つけた。
「げっ」
アルトは思わず声をもらした。
カナは基本的には温厚だ。
しかし、普段は優しいが怒ると怖い人は結構いる。彼女もそのうちの1人だった。
そのうちの1人なのだが、彼女の恐ろしさは常軌を逸していた。
それは彼女が怒った様子を見たある冒険者に「あれは人など容易く殺す」と言わしめたほどだ。
そんな噂は彼女の美貌とのギャップもあって、すぐに広まった。
当時カナは、ギルド職員見習いとして、国中の国営ギルド支部を転々としていた。ギルド職員になるためには、見聞を広める必要もあるのだ。
そうして訪れた新たな街マギドには、すでに彼女の噂が伝わっていた。
この街でカナは、目に見えて避けられていた。
しかし、今の彼女には、避けられたことが悪いことだったとも言い切れない。
当然、まだ幼さの残る当時のカナにとって避けられるのは辛かったし、悲しかった。
そんな日々を変えてくれたのは、赤髪の少女との出会いだった。
マギド支部に来てほどなくして、カナはあることに気がついた。自分以外にも避けられている少女がいるのだ。
別に何か嫌がらせをされているわけでもないが、他の職員の対応が妙にそっけない。
皆に避けられて、敏感になっていたカナだから気づけたのだろう。カナは少女に興味を持った。
「こんな難しそうな依頼うけるの?お仲間はどこかしら?」
カナは、高難度の依頼が並ぶ掲示板の前にいた赤髪の少女に声をかける。
「え!えっと、、、そ、その、わたしですか?」
彼女はなぜか慌てている。そんな姿が可愛らしい。
「そうよ。あ、わたしはカナ。それで、お仲間は?」
「い、いません」
沈んだ声で返ってきた答えは、カナが予測したものだった。
「1人じゃこんな依頼受けられないわよ」
「で、でもわたし、いつも、、、」
「こんなのどうかしら?」
カナは何か言いたそうな少女の言葉を遮って提案する。
「街の塀の点検なんだけど、これなら1人でも安全だし、日が沈むまでには帰ってこられるわ。それに報酬も悪くないし。」
「じゃあ、、、それにします」
少女は断れないタイプらしい。
「わかったわ。ところでさ、今日一緒にご飯食べない?」
なぜ初対面の少女をご飯に誘ったのか、カナは自分でもよくわからない。もしかしたら寂しかったのかもしれない。
「え!えっと、、、そ、その、わたしとですか?」
同じセリフをさっきも聞いた気がする。
「そうよ。依頼が終わったらギルドにもどってくるでしょ?私もそれまでに仕事片付けるわ。」
「あ、えっと、はい。よろしくお願いします」
顔に不安を浮かべるが、やはり断れない。あと変に堅苦しい。
「約束よ。そういえば、あなたの名前は?」
少女は一瞬驚いたような顔になり、またすぐに不安な顔にもどって、
「マ、マリー」
と小さく呟いた。マリー、どこかで聞いた気がするが、思い出せないので気にしないでおく。
「じゃっ、よろしくね。リィーちゃん。」
マリーは再び驚いた顔をした。
「そうだったんですね」
「そーなよ。噂広めた奴まじでぶっ殺してやるわ」
そういったカナは怒ってはいるが、軽く酔っているせいか、話に聞いたまでの殺気は感じられない。
「それじゃあ次はリィーちゃんの番ね。リィーちゃんもなんか避けられてる感じだったし。なにがあったんだい?私が聞いてやろうじゃない」
彼女なら受け入れてくれるかもしれない。マリーは期待と不安で心が一杯になった。
ーでも、言わなくてもどうせすぐにバレちゃうし、いうしかないよね。
不安は消えないが決心はついた。そしてゆっくりと口を開く。
「わたし、実は、鮮血のマリーなんです」
「ほんと?すごいじゃん。じゃあめっちゃ強いんだ」
驚くほどに軽かった。こんな簡単に受け入れられることが信じられなかった。
「そんな、、、わたしは鮮血のマリーなんですよ!数えきれないほど人を殺してるんですよ!それなのにカナさんは怖くないんですか?」
つい声を荒げてしまった。騒がしかった酒場は静まり返り、視線が自分に集中しているのがわかる。
「だって仕事でしょ。それにリィーちゃんが殺したおかげで助かった人のが多いに決まってるわ。誇りを持っていいのよ」
時には依頼主にさえ殺人鬼と罵られた。人を殺す仕事などしたくはなかった。それでもマリーの依頼主は国王直筆の命令書をたずさえていた。この国で、国王の命令は絶対である。従うしかない自分が情けなく、自分で自分を否定した。
マリーはいつのまにか涙を流していた。肯定される安心感に涙が止まらなかった。すっとカナの手が頭の上に乗せられる。
「泣いていいのよ。辛くなったらお姉さんがなぐさめてあげるから。私もあなたに話せて楽になったんだから、お互い様よ」
そう言って頭を撫でてくれる。
マリーは温もりの中で自分の居場所を見つけた。
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