リトルアルト

まぁさとう

文字の大きさ
4 / 20

2人の居場所

しおりを挟む
 振り返ると、バルカスの後ろには、黒髪を短く切りそろえた美女いる。こちらを睨んでいるようだ。
「げっ」
 アルトは思わず声をもらした。





 カナは基本的には温厚だ。
 しかし、普段は優しいが怒ると怖い人は結構いる。彼女もそのうちの1人だった。
 そのうちの1人なのだが、彼女の恐ろしさは常軌を逸していた。
 それは彼女が怒った様子を見たある冒険者に「あれは人など容易く殺す」と言わしめたほどだ。
 そんな噂は彼女の美貌とのギャップもあって、すぐに広まった。

 当時カナは、ギルド職員見習いとして、国中の国営ギルド支部を転々としていた。ギルド職員になるためには、見聞を広める必要もあるのだ。
 そうして訪れた新たな街マギドには、すでに彼女の噂が伝わっていた。

 この街でカナは、目に見えて避けられていた。
 しかし、今の彼女には、避けられたことが悪いことだったとも言い切れない。
 当然、まだ幼さの残る当時のカナにとって避けられるのは辛かったし、悲しかった。
 そんな日々を変えてくれたのは、赤髪の少女との出会いだった。

 マギド支部に来てほどなくして、カナはあることに気がついた。自分以外にも避けられている少女がいるのだ。
 別に何か嫌がらせをされているわけでもないが、他の職員の対応が妙にそっけない。
 皆に避けられて、敏感になっていたカナだから気づけたのだろう。カナは少女に興味を持った。

「こんな難しそうな依頼うけるの?お仲間はどこかしら?」
 カナは、高難度の依頼が並ぶ掲示板の前にいた赤髪の少女に声をかける。
「え!えっと、、、そ、その、わたしですか?」
 彼女はなぜか慌てている。そんな姿が可愛らしい。
「そうよ。あ、わたしはカナ。それで、お仲間は?」
「い、いません」
 沈んだ声で返ってきた答えは、カナが予測したものだった。
「1人じゃこんな依頼受けられないわよ」
「で、でもわたし、いつも、、、」
「こんなのどうかしら?」
 カナは何か言いたそうな少女の言葉を遮って提案する。
「街の塀の点検なんだけど、これなら1人でも安全だし、日が沈むまでには帰ってこられるわ。それに報酬も悪くないし。」
「じゃあ、、、それにします」
 少女は断れないタイプらしい。
「わかったわ。ところでさ、今日一緒にご飯食べない?」
 なぜ初対面の少女をご飯に誘ったのか、カナは自分でもよくわからない。もしかしたら寂しかったのかもしれない。
「え!えっと、、、そ、その、わたしとですか?」
 同じセリフをさっきも聞いた気がする。
「そうよ。依頼が終わったらギルドにもどってくるでしょ?私もそれまでに仕事片付けるわ。」
「あ、えっと、はい。よろしくお願いします」
 顔に不安を浮かべるが、やはり断れない。あと変に堅苦しい。
「約束よ。そういえば、あなたの名前は?」
 少女は一瞬驚いたような顔になり、またすぐに不安な顔にもどって、
「マ、マリー」
 と小さく呟いた。マリー、どこかで聞いた気がするが、思い出せないので気にしないでおく。
「じゃっ、よろしくね。リィーちゃん。」
 マリーは再び驚いた顔をした。

「そうだったんですね」
「そーなよ。噂広めた奴まじでぶっ殺してやるわ」
 そういったカナは怒ってはいるが、軽く酔っているせいか、話に聞いたまでの殺気は感じられない。
「それじゃあ次はリィーちゃんの番ね。リィーちゃんもなんか避けられてる感じだったし。なにがあったんだい?私が聞いてやろうじゃない」
 彼女なら受け入れてくれるかもしれない。マリーは期待と不安で心が一杯になった。
ーでも、言わなくてもどうせすぐにバレちゃうし、いうしかないよね。
 不安は消えないが決心はついた。そしてゆっくりと口を開く。
「わたし、実は、鮮血のマリーなんです」
「ほんと?すごいじゃん。じゃあめっちゃ強いんだ」
 驚くほどに軽かった。こんな簡単に受け入れられることが信じられなかった。
「そんな、、、わたしは鮮血のマリーなんですよ!数えきれないほど人を殺してるんですよ!それなのにカナさんは怖くないんですか?」
 つい声を荒げてしまった。騒がしかった酒場は静まり返り、視線が自分に集中しているのがわかる。
「だって仕事でしょ。それにリィーちゃんが殺したおかげで助かった人のが多いに決まってるわ。誇りを持っていいのよ」

 時には依頼主にさえ殺人鬼と罵られた。人を殺す仕事などしたくはなかった。それでもマリーの依頼主は国王直筆の命令書をたずさえていた。この国で、国王の命令は絶対である。従うしかない自分が情けなく、自分で自分を否定した。
 マリーはいつのまにか涙を流していた。肯定される安心感に涙が止まらなかった。すっとカナの手が頭の上に乗せられる。
「泣いていいのよ。辛くなったらお姉さんがなぐさめてあげるから。私もあなたに話せて楽になったんだから、お互い様よ」
 そう言って頭を撫でてくれる。
 マリーは温もりの中で自分の居場所を見つけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

〈完結〉貴女を母親に持ったことは私の最大の不幸でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」ミュゼットは初潮が来た時に母から「唯一のこの家の女は自分」という理由で使用人の地位に落とされる。 そこで異母姉(と思っていた)アリサや他の使用人達から仕事を学びつつ、母への復讐を心に秘めることとなる。 二年後にアリサの乳母マルティーヌのもとに逃がされた彼女は、父の正体を知りたいアリサに応える形であちこち飛び回り、情報を渡していく。 やがて本当の父親もわかり、暖かい家庭を手に入れることもできる見込みも立つ。 そんな彼女にとっての母の最期は。 「この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。」のミュゼットのスピンオフ。 番外編にするとまた本編より長くなったりややこしくなりそうなんでもう分けることに。

処理中です...