リトルアルト

まぁさとう

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イノシシを地の底へ

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 アルトは顎に手をあてながら歩く。
 知能が高いイノシシと互いに意思疎通できるイノシシ、厄介なのは明らかに前者である。なぜなら群れの分断が難しいからだ。イノシシは人間よりも身体能力が高い。まぁ、バルカスなどはおそらく例外だが。そのため、群れられて統率のとれた動きをされれば、アルト達でも怪我を負うかもしれない。ならば、アルトが考えるべきなのは、知能が高い場合でも成功するイノシシの分断方法だ。

「なぁ、イノシシを罠にかけられねぇのか?」
 バルカスが訊く。
「はぁ。かけられるんだったら村の住人がもうかけてるだろう?イノシシはもともと鼻がきくし、知能が上がってたらなおさら人間の匂いのする罠なんかに近づかないさ」
 ダッシュは呆れたように答える。
ーイノシシは人間の匂いを避けるのか。あ、それならその性質を逆に利用してやれば、簡単にイノシシを追い立てられるんじゃないか?
「あのさ、村の近くに橋がかかった崖とかってないかな?」
 アルトはイノシシにそこにイノシシを誘導して、落としてしまおうと考えたのだ。
「ああ、たしかあったね。とびきり深いのが」
 アルトはよしっと拳を握る。
「よかった。じゃあ、作戦はイノシシを崖から落とすで決定だ」
 アルトは勢いよく言う。
「でもそこってたしか、、、」
 気分の乗っていたアルトは、バルカスの言葉を聞き逃した。

 まだ日は照っているが、少し暑さも和らいできたと感じ始めたとき、前方に村が見えた。依頼の村である。
「ふぅ。やっと着いた。」
 アルトは息をつく。
  ここまでノンストップの3人の疲労は結構なものだ。
 村の周囲には作りかけの高い柵があり、柵作りの作業をしている人もちらほら見える。そのうちの1人がアルト達に気づき、小さく頭を下げてから村の中へ消えていった。
 代表者を呼びにいったのだろうと思い、アルト達は柵の前で待つことにした。

 数分もしないうちに、1人の若い男がやってきた。
「これは、冒険者様。遠い所よりよくお越しくださいました。私はこの村の村長をしております、ライと申します。さぁ、私の家に案内します。」
 笑顔でそう言ったライは、高身長で肌はよく焼けているのだが、どこか爽やかな印象を与える。そして口調はとても丁寧だ。
 3人はライにつられ村の中に入り、すぐに一軒の家に到着した。
「こちらです。中へどうぞ」
 ライが扉を開け、中にアルト達を招く。
 木造の家だ。壁は丁寧に磨かれて清潔感がある。大きさは周りの家と変わらないように思えた。
 3人はライに従って中へ入る。
 家に入ってまず丸いテーブルに椅子が3つ置いてある。そしてその左側にはベッドが2つ並んでいる。ただそれだけの部屋だった。家自体小さいわけではないので、空いているスペースが目立つ。
「では、おかけください」
 3人は椅子に腰をかける。
「依頼について、詳しくご説明したいのですが、その前に、お昼はもう済まれましたか?」
「いや、それがまだなんだ」
 バルカスが答える。
「それでしたら、この村とっておきの料理を用意しましょう。少し待っていてください」
 そう言ってライは家の出て、すぐに戻ってきた。
「ではお昼を用意している間に説明させて頂きますね」
 ライから説明されたのは大体ギルドで聞いたことと同じだった。ただ、イノシシの数が正確にわかったそうで、少し前までは9匹だったが、1匹は罠で仕留め、今は8匹とのことだった。

 ちょうど話が終わった頃、女性の人が食事を運んできた。
「うおお!こりゃうまそうだ」
 バルカスが叫び声をあげる。
 運ばれてきたのは艶のある米に焼かれた肉、それに炒められた野菜だ。
「米と野菜はこの村でとれたものです。肉は鹿肉で、今日狩りました」
「でも猟師は全員怪我をしてたんじゃないの?」
 アルトは疑問を口にする。
「狩ったといっても罠にかけただけなんです」
ーそうか。自然の中で生きていれば、罠の知識も持っているよな。
 アルトは感心する。そして、アルトは知識のある者に聞いておこうと思った。
「あのさ、匂いでイノシシを誘導することってできるかな?」
「と、言われますと?」
「例えば通ってほしいルートがあるとして、そのルートの両端に匂いをつけておいたら、イノシシは引っかかってくれるかな?」
「イノシシ達は私たちの罠で1匹仲間を失っていますからね。人間の匂いに敏感になっているので、引っかかると思います」
「もう一つ、崖にかかっている橋を落としてもいいかな?」
「崖って、もしかして地の底のことですか?まぁ、今となっては誰も近づきませんし、いいんじゃないですかね」
ーよし。これであとは作戦を実行するだけだな。
 昼ごはんを食べ終え、3人は出発した。
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