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地の底の主
しおりを挟む橋は村を出るとき住人から聞いた通り、歩いて10分ほどして小さく見てきた。木でできた古い橋だ。この瞬間アルトは自分のミスに気がついた。
アルト達の作戦は匂いで道を作り、橋にイノシシを誘導し、橋ごと落とすというものだが、道を作るのなら村を出るときから二手に分かれればよかったのだ。
ーああ、ミスった。まあ、仕方ない。そんな距離があるわけでもないし、橋まで行ったらどう1往復するか。
アルト達は橋の右側に近づく。
橋のそばまで来ると、崖の下が見えた。いや、正確には下は見えなかった。漆黒だったのだ。日の光が届かないほど、この崖は深かった。
アルトは何か不吉な予感がした。
ーなんとなく見たことがあるような気もするな。けど、いつものデジャブと比べると、見たことがあるという確信が薄い。
「もしかして僕、ここに来たことがある?」
アルトはモヤモヤした気分を晴らそうと、2人確認した。
「ガキの頃はしらねぇが、俺らがパーティー組んでからは行ってねぇ」
「君の住んでた王都からだと、この村はかなり遠い。それにこの村は米と火石は取れるが、そんな有名な村でもない。子供の頃、君がここに来たとは思えないけどね」
「うーん」
じゃあこの感覚は何なんだろうとアルトは頭を悩ませる。
「もしかして、、、何か思い出したのかい?」
ダッシュは静かな声で尋ねる。
「いや、なんでもでもないんだ。じゃあ一旦戻ろうか」
考えることを諦めたアルトは振り返り、歩き出す。2人もそれに従う。
「ところで、ここって火石の産地だったんだ」
アルトは火石について知っている。街でもよく使う生活必需品だからだ。火石とは、火をおこす石である。一見なんの変哲もない黒色の石であるが、水につけた後、軽く衝撃を与えることで発火する。これほどまでに簡単に火を得られる方法はないだろうというまでに便利な代物である。
「ああ。ちょうどこの辺が採掘場だったんじゃないかな。火石は地の底付近でとれるって話だから。でもそれも少し前までの話さ。今はほとんどとられてないんだ。何でもドラゴンが現れたらしくって、だれもここに近づかなくなったらしい」
「ふぅん、ドラゴンってあの山以外にもいるんだ」
アルトは聞いた話から、ドラゴンは先日行った高い山にしかいないものだと思っていた。
「まぁ、そんなに多くはいねぇとおもうけどな」
バルカスは答える。
「そうなんだ」
そんな話をしているうちにに村が見えてきた。すると、アルト達は村の中が騒がしいことに気づいた。なにかが起こっているようだ。
アルト達は騒ぎの中心に走った。
「皆さんは家の中に避難してください!ああ、冒険者様!イノシシです!イノシシが出ました!」
住人に避難を呼びかけていたライが、アルト達を見つけてイノシシを指差す。その方向へ振り向くと、田んぼがあり、8匹のイノシシが米を食い荒らしている。
ーああ、やっぱ二手に別れとけばよかった。
「どっちでもいいけど、イノシシを驚かして逃げさせられない?」
アルトはおそらく自分ではできないため、2人に尋ねる。
「おう。それなら俺に任せろ」
バルカスが自信満々に答え、近くの木に向かい合う。バルカスから見て木の先にはイノシシの姿がある。
「おらっ!!」
バルカスは凄まじい殺気とともに、木を殴る。木には大きくヒビが入っている。
「おらっ!!」
次は蹴りだ。イノシシの方向へ押し出すように繰り出された蹴りは、木を完全に折ってしまった。
ーは?生身の人間があの大きさの木を2発で折った?
アルトは信じられなかった。
木は大きな音を立てて倒れた。その瞬間イノシシは逃げだした。
「バルカス!ダッシュを持ってイノシシを左側から橋まで追い立てろ!ダッシュは橋を落としてくれ!」
2人は頷き、イノシシを追う。イノシシに走ってついていけるのはバルカスだけだ。そして橋をすぐに落とせるのはダッシュだけ。アルトは何もできないので、2人を後から追いかける。
ーてか、速え!バルカスやっぱ人間じゃないだろ!
2人はもう小さくなっていた。
バルカス達は順調にイノシシを追い立てていた。追い立てているというより、少し追い抜かしている。それでも、イノシシは匂いを避け、橋にむかっていた。もうそろそろ橋が見える頃だ。
「そういえばダッシュ。どうやって橋を落とすんだ?」
バルカスにはイノシシを追い抜かしてなお、話す余裕があるようだ。
「まぁ、見てなよ」
ダッシュは自信に満ちた表情をしている。
「よし。ここでいいよ」
橋が見えて少ししてからダッシュが言った。
バルカスはその声に従い、止まって、抱えているダッシュを下ろした。
「ちょっと離れてて。剣を少し橋の方に傾けて地面に立てるんだ。そろそろかな」
剣は少しずつ倒れながら大きくなる。それはもうものすごい大きさに。30メートルほどはあると思われる。凄まじい衝撃が走った。剣は橋に直撃したようだ。橋はイノシシを乗せて落ちていった。そして剣もまた、巨大なまま地の底へ吸い込まれる。
「あーあ。剣が落ちてしまった。あの剣はちょっと高かったんだけどなぁ」
そう言って残念がっているダッシュの横で、バルカスは驚愕していた。
「おまえ、、、あんなでかく出来たのか!?」
「まぁね。あんま使い道はないけど、あの倍くらいまではいけるよ」
「まじかよ!?すげぇな。でもなんでおまえが剣から手を離してもでかいままなんだ?」
「手を離しても30秒くらいはそのままなんだ。まぁ、戦闘中にあまり剣を手放さないから知らなくてもしょうがないよ。そんなことより、一応イノシシが残ってないか確認しに行こう」
「おう」
2人は落ちた橋の側で周りを見渡す。
「イノシシは全部落ちたみてぇだな」
「そうだね。今回の依頼は簡単に終わってよかったよ。でも剣落としちゃったから、報酬増やしてもらわないと」
ダッシュはまだ剣のことを悔やんでいる。
「その剣って一体いくらす、、、」
崖の下から何か巨大なものが上に飛んで行った。少し遅れて凄まじい風が吹きつける。
「は?」
2人は揃って間の抜けた声を上げた。そして視線を上に動かす。2人は絶句した。そこには空を飛ぶ、赤色の巨大なドラゴンの姿があった。
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