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任務はお手柔らかに1
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「え。私ですか?」
「お前が一番適任だと思ってな」
私には兄が二人いる。二人ともドラゴンも裸足でにげるレベルの筋肉マッチョな先輩騎士である。ちなみに十離れた長男は騎士団で副団長を務めていて、次男はドラゴン退治のスペシャリストとして活躍している。母は念願の女の子である私を産んで淑女に育てようと大喜びだったが、数代前の騎士団長でもある父が子供たちを分け隔てなく鍛えてしまった。最終的には「ジャニスが一番騎士の才能がある」と言って母を大泣きさせた過去がある。
「要は誰もやりたがらない魔術師の使い走りですよね」
「誰もやりたがらないが、誰もができる仕事ではない。騎士団の面目もあるからな。「使えない使い走り」をやったと思われるとまずい」
「トリスタン兄さんが行かれてはどうですか? 西の森の調査の護衛なんですから」
「あいつは今北に増えた小ドラゴン退治の方に行っている。西は調査だけだし、お前と闇魔術師がいればなんとかできるはずだ」
「だったら誰でもいいではないですか」
「ちょうどいいペーペーがいないんだ。いざってことがあったら役に立たないといけない。けれど中堅の騎士たちは行きたくないと口をそろえて言うんだ」
「なんですか、それ。職務怠慢ですよ」
「魔塔から行くのが、あのカザーレンなんだ」
「……ええと、エリート魔術師の? それがどうして行きたくない理由になるんです?」
「お前も魔塔と騎士団が仲が悪いのは知っているだろ。エリート魔術師で更に超絶イケメンだぞ。一緒に並びたくないに決まってるだろ」
「はあ、くだらない」
「男にはプライドがあるんだ。巷のお嬢さんがたの視線を一身に集めているモテモテ魔術師の護衛とは名ばかりの使い走りなんてしてられるか。しかも小難しいこと言われて、理解できなかったら馬鹿にされるに決まっている」
「今まで誰かそんな目にあったことがあるんですか?」
「しらんが、あるに決まっている。その上俺たちのマドンナ、リッツィも医療チームから選抜されているんだ。お前にはそれとなく二人の仲も裂いて欲しい」
兄の言うリッツィとは城の医局に努める光の魔術師である。ゴージャスな緩くウエーブしたブロンドの髪に大きな切れ長の茶色の瞳の美人である。もともと医療魔術師は男女ともにモテモテの職業である。加えて『リッツィ姉さん』と慕われる彼女は恋のハンターとしても有名で美男子の間を渡り歩いていた。私の肩の治療を担当してくれたのもリッツィ姉さんで、気さくなその性格は好ましく普段から仲良くさせてもらっていた。
「え、二人はそんな仲なんですか?」
「これからそうなるかもしれないだろ」
「憶測ばっかり……。じゃあ、アルベルト兄さん自ら出向けばどうです? リッツィ姉さんと仲良くなる好機ではないですか」
「馬鹿、お前、カザーレンと一緒だぞ? 引き立て役にしかならんわ! しかも副団長の俺が行けるわけがないだろう」
「もはやギャグにしか聞こえませんね。子供みたいなことばかり言って……」
「とにかく、お前が適任だ。お前は騎士としては新米で使い走りとしては合格だし、腕っぷしも申し分ない。女だからライバルにならんし、リッツィとカザーレンの仲もそれとなく遠ざけることができる」
「……二人が恋人になろうが私には関係ないのでそちらは阻止することはありませんが、命令とあらば西の森の護衛に向かいます。ただ最近、お気に入りのタガーが刃こぼれしていましてね。アルベルト兄さんがそこに飾ってるミスリルのタガー……きっと装備できたら安心でしょうねぇ。こんなくだらない理由で私を護衛に選んだなんてお父さんが聞いたらどう思うでしょうか」
「……お、脅しか?」
「何をおっしゃる。これは立派な交渉です」
「これは特別なもので、な……」
「他に適任はいないのですよね? それに兄妹間の譲り合いなんて貸し借りみたいなものじゃないですか」
「……わかった。では貸してやるだけだ。大事にしろよ。もしもの時は返してくれ」
「はーい」
過去どれだけのものを私が借りパクしているかアルベルト兄さんは覚えていない。そういう人だ。タガーも当たり前だが返す気はない。アルベルト兄さんが机の後ろに飾っていたミスリルのタガーを外して私に渡してくれる。おお、この輝き、普通の金属ではありえない美しさ。ずうっと前から狙っていたのだ。私はホクホクと受け取ってホルダーにしまった。
「ちょっとまて、お前、そのホルダーぴったりすぎないか?」
「気のせいですよ、兄さん」
にっこり私が笑うと、誤魔化されたことにも気づかず、アルベルト兄さんは名残惜し気にタガーを見つめていた。
「お前が一番適任だと思ってな」
私には兄が二人いる。二人ともドラゴンも裸足でにげるレベルの筋肉マッチョな先輩騎士である。ちなみに十離れた長男は騎士団で副団長を務めていて、次男はドラゴン退治のスペシャリストとして活躍している。母は念願の女の子である私を産んで淑女に育てようと大喜びだったが、数代前の騎士団長でもある父が子供たちを分け隔てなく鍛えてしまった。最終的には「ジャニスが一番騎士の才能がある」と言って母を大泣きさせた過去がある。
「要は誰もやりたがらない魔術師の使い走りですよね」
「誰もやりたがらないが、誰もができる仕事ではない。騎士団の面目もあるからな。「使えない使い走り」をやったと思われるとまずい」
「トリスタン兄さんが行かれてはどうですか? 西の森の調査の護衛なんですから」
「あいつは今北に増えた小ドラゴン退治の方に行っている。西は調査だけだし、お前と闇魔術師がいればなんとかできるはずだ」
「だったら誰でもいいではないですか」
「ちょうどいいペーペーがいないんだ。いざってことがあったら役に立たないといけない。けれど中堅の騎士たちは行きたくないと口をそろえて言うんだ」
「なんですか、それ。職務怠慢ですよ」
「魔塔から行くのが、あのカザーレンなんだ」
「……ええと、エリート魔術師の? それがどうして行きたくない理由になるんです?」
「お前も魔塔と騎士団が仲が悪いのは知っているだろ。エリート魔術師で更に超絶イケメンだぞ。一緒に並びたくないに決まってるだろ」
「はあ、くだらない」
「男にはプライドがあるんだ。巷のお嬢さんがたの視線を一身に集めているモテモテ魔術師の護衛とは名ばかりの使い走りなんてしてられるか。しかも小難しいこと言われて、理解できなかったら馬鹿にされるに決まっている」
「今まで誰かそんな目にあったことがあるんですか?」
「しらんが、あるに決まっている。その上俺たちのマドンナ、リッツィも医療チームから選抜されているんだ。お前にはそれとなく二人の仲も裂いて欲しい」
兄の言うリッツィとは城の医局に努める光の魔術師である。ゴージャスな緩くウエーブしたブロンドの髪に大きな切れ長の茶色の瞳の美人である。もともと医療魔術師は男女ともにモテモテの職業である。加えて『リッツィ姉さん』と慕われる彼女は恋のハンターとしても有名で美男子の間を渡り歩いていた。私の肩の治療を担当してくれたのもリッツィ姉さんで、気さくなその性格は好ましく普段から仲良くさせてもらっていた。
「え、二人はそんな仲なんですか?」
「これからそうなるかもしれないだろ」
「憶測ばっかり……。じゃあ、アルベルト兄さん自ら出向けばどうです? リッツィ姉さんと仲良くなる好機ではないですか」
「馬鹿、お前、カザーレンと一緒だぞ? 引き立て役にしかならんわ! しかも副団長の俺が行けるわけがないだろう」
「もはやギャグにしか聞こえませんね。子供みたいなことばかり言って……」
「とにかく、お前が適任だ。お前は騎士としては新米で使い走りとしては合格だし、腕っぷしも申し分ない。女だからライバルにならんし、リッツィとカザーレンの仲もそれとなく遠ざけることができる」
「……二人が恋人になろうが私には関係ないのでそちらは阻止することはありませんが、命令とあらば西の森の護衛に向かいます。ただ最近、お気に入りのタガーが刃こぼれしていましてね。アルベルト兄さんがそこに飾ってるミスリルのタガー……きっと装備できたら安心でしょうねぇ。こんなくだらない理由で私を護衛に選んだなんてお父さんが聞いたらどう思うでしょうか」
「……お、脅しか?」
「何をおっしゃる。これは立派な交渉です」
「これは特別なもので、な……」
「他に適任はいないのですよね? それに兄妹間の譲り合いなんて貸し借りみたいなものじゃないですか」
「……わかった。では貸してやるだけだ。大事にしろよ。もしもの時は返してくれ」
「はーい」
過去どれだけのものを私が借りパクしているかアルベルト兄さんは覚えていない。そういう人だ。タガーも当たり前だが返す気はない。アルベルト兄さんが机の後ろに飾っていたミスリルのタガーを外して私に渡してくれる。おお、この輝き、普通の金属ではありえない美しさ。ずうっと前から狙っていたのだ。私はホクホクと受け取ってホルダーにしまった。
「ちょっとまて、お前、そのホルダーぴったりすぎないか?」
「気のせいですよ、兄さん」
にっこり私が笑うと、誤魔化されたことにも気づかず、アルベルト兄さんは名残惜し気にタガーを見つめていた。
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