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私のフローに手をだすな5

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「今日、大きな集まりがあるんだ。そこで、僕を闘技場の真ん中で処刑するらしい」

「え」

「ジャニスを危険な目に合わせたくないから、もう全滅でいいかな」

「ちょっ、待ってください。兄の言うように、全部消滅では麻薬組織の全容がわかりません。『マダム・キャット』は年端も行かない子供たちを利用する悪質な組織です。根絶やしにする計画が台無しになります」

 フロー様の発言でトリスタン兄が狼狽えた。きっとアルベルト兄とも作戦会議をくりかえしているはずだ。

「でも、誰が主要メンバーかわからないからな」

 二人が話しているのをそこまで聞いて私は閃いた。

「私、今なら分かるかもしれません」

「え、ジャニス? お前には作戦の資料さえ見せてないんだぞ?」

「資料は手に入れて目を通してます。主要メンバーが五人だってことも知っています」

 私が答えるとトリスタン兄が『お前はそんな奴だったよ』と嘆いた。なにごとも下準備が必要だと父から習ってきたではないか。

「主要メンバーをあぶりだすならやっぱり僕は人質のままじゃないとダメだな。仕方ないから効力を消してまたつけてここで大人しくするよ。ジャニスは部屋の奥に隠れてて。トリスタンはメンバーをみつけてくれ」

「あの……申し訳ありませんカザーレン様、ここで一番その任務に適しているのは妹です」

「フロー様、自慢ではありませんが私は学生時代から暗部から勧誘されてます」

「僕はジャニスが危険な目に遭うのは嫌なんだ」

 なんとか説得しようとしたが、フロー様のとても強い意志を感じた。パーティの時も怒っていたしな……。

「では、側で守ってくれますか?」

 闇魔導士が補佐についてくれるならありがたい。そう思って軽く言った。するとフロー様の顔が輝いた。

「そうする」

「え、でも、捕まってないと……」

「それは身代わりを立てればいい。幻術魔法をかけるから僕と服を交換してくれ」

「お、俺……?」

「この場合、トリスタン兄さんが適役でしょう」

「……早く助けに来てくれよ」

「頑張ります」

 それから二人はさっとお互いの衣服を交換した。誰かがやってくる気配がしたので私はフロー様と部屋の奥で隠れて成り行きを見守った。

 ガチャン……と鍵を開けて入ってきたのは三人の男たちだ。

「ほら、立てよ。おや、大魔術師様も手枷に足枷じゃあ立ちにくいってか。仕方ないから手を貸してやるぜ」

 そう言って一人の男が手枷を乱暴に掴んでフロー様の身代わり(トリスタン兄)を一旦立ち上がらせたかと思うとワザと手を離した。

 ドスン、と床に放られたトリスタン兄に三人が楽しそうにケリを入れていた。が、中身無駄に鍛えている兄だ。麻薬づけになっている奴らの足の方が弱いに決まっている。

「ぐ、なんだ、こいつ石みたいにかてぇ」

「くそっ、蹴り上げて損した!」

 と三人は自分たちの足を擦っていた。いい気味だが、これがフロー様だったら、足を切り落としてやらないと我慢できなかったな、と思った。

 しかし、幻影魔法が上手く行っているようで、フロー様とトリスタン兄が入れ替わっていることは全く気付いていない様子だった。

「これからみんなの前で処刑が行なわれるからな。せいぜい今のうちに自分の胴体と別れを惜しんでおくんだな」

 男たちはもう一度身代わりを立たせると今度は悪態をつきながら連れて行った。どうやら闘技場の方へ連れて行くようで、復讐と見せしめの処刑なのだろう。私が読んだ資料にもむごたらしいその様子が書かれていた。これは早くメンバーを見つけ出してトリスタン兄を助けないと大変なことになりそうだ。

 男たちが去った後、私とフロー様は闘技場を調べることにした。

「雇われた隣国の闇魔術師がいる。そいつが色々と細工をしているんだ。魔封じの枷もやつが用意した。先に動きを封じておかないと面倒なことになりそうだ」

「ふむ、では先に始末しましょう」

「そうだね。あの、ジャニス」

「はい」

「……君が助けにきてくれて嬉しいよ」

「でも、本当はフロー様お一人でも解決できたでしょう? 足手まといにならないように頑張ります」

「そんなこと、ないよ。めちゃくちゃ、嬉しいから」

 なんだか照れているフロー様にこちらもなんだか照れてしまう。しかし、『ニッキーのふり』や『浄化』という言葉が出ていた。そこから推測するとフロー様は私がニッキーを浄化していて、その間にニッキーのふりをしていることを知っているようだった。いや、わかる。知られているんだ。

 聞きたいことは山ほどあるが……ひとまず任務が終わってからだ。雑念を払い、まずは闇魔術師を探さなければ。

「ジャニス、隠密の魔法をかけるよ。一時間くらいはもつだろう」

 部屋から出る前にフロー様が隠密の魔法をかけてくれた。声を出して相手に認識されなければ効果は続くという。実際廊下に出て数人すれ違ったが、黙っていれば誰も私たちに気づかなかった。早足で人が居そうな場所を探すと、一つの扉の前でフロー様が止まった。

「この扉、魔法のトラップが仕掛けてある」

「抜けましょうか?」

「……いや、解除できるから少し下がってて」

 私の提案を断ったフロー様がすぐにトラップを解除した。私はドアに耳をつけて中を探った。

「中に居るのは一人ですね。突入しますか?」

 コクリと頷くのを見て素早く中に入ると、ソファで座っていた男の首にダガーを押し当てた。突然のことに男はなにが起こったのか把握できないようで、持っていたコインを机の上に落とした。どうやら金の勘定をしていたらしい。

「だ、誰だ……」

「答える義理はないわ。あなたが『マダム・キャット』に雇われている闇魔術師なの? あ、動くと首が取れるわよ」

 皮一枚が切れて、血が滴った。男は私のダガーの切れ味を実感したようでガタガタと震え出した。

「か、金はやる……」

「で、闇魔術師なの?」

「そ、そうだ」

 そこで、フロー様は頓珍漢なことを言いだした。
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