冥府への案内人

伊駒辰葉

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五章

成りきれないもの

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「あー……くそ、やなこと思い出しちまったぜ」

 壁に寄りかかって荒い息をつきながら和也は小声で呟いた。弾丸に貫かれた胸からはまだ血が流れている。ふらつく頭を押さえて和也は何とか身体を起こした。順の気配を探しながら進む。美恵は今のところ追って来る様子はない。

 初めて順を抱いたあの日、和也は資料室の鍵を無断でコピーした。その日から和也は隙を見ては資料室にこもり、順のことを調べ始めた。順がある程度のデータを保存していたのが功を奏し、和也は大した苦労をすることもなく順の生まれを探ることが出来た。

 もっともそれも死んだ少年の記憶の裏付けにしかならなかった。順は龍神の死体を元に作られた存在だった。和也はそのことに酷く落胆した。もしかしたら記憶が間違っていて、実は順は人間だったのだという結果が出ると甘い夢を見ていたからだ。

 だが調べていく内に色んなことがわかった。どうやら順は実験体としては失敗作と言われていたらしい。その理由はデータとしては存在してはいなかった。つまり研究者たちは順のことをただの失敗作だと未だに思っているということだ。

 だが真相は異なる。通常、龍神の力は生まれて十七年の間は器に眠り続ける。その間は他の龍神が保護するのが普通だ。それ故、順の力が発現していなかったのは当然のことなのだ。だが研究者たちは別の実験体の力を見て順を失敗作だと断定してしまったのだろう。

 違う。奴の妹の方が異常なんだ。順の妹である都子の実験データを見た和也はそのことにすぐに気付いた。都子は幼い頃に研究者たちが驚き、納得するほどのテスト結果を出している。幼少の頃から優れた力を発揮する都子を今でも研究者たちは貴重な実験体として箱に閉じ込めているのだ。

 そして失敗作という烙印を押された順は木村という関わりから逃げた。だが本当は順は意図的に外に出されたようだ。つまり、日常生活における力の発現の有無を見るための実験なのだろう。もっとも研究者たちは大して順には期待はしていなかったらしい。事実、今もまだ順は放置されている。

 風邪を引いて倒れたあの日、順ははっきりと力を発揮した。瞳に現れた色は間違いなく龍神の証だ。だが順は龍神としての力を無意識に発揮していたためか、まるでコントロールが出来ていなかった。本人の意志とは無関係に力が発現するため、順自身も戸惑っていたようだ。

 順の耳にはめ込んだピアスは力を抑制する働きを持つ。それを作ったのは和也ではない。順の精液に含まれる力を元にして黒田が作り出したものだ。黒真珠のピアスをつけていれば、順は所構わず力を放出することはない。現に今、順の精液には殆ど龍神としての力はこめられていない。

 龍神にもなれない。人間にもなれない。そんな順にいつの間にかあの日の約束を超えた情愛がわいた。いつも冷めた顔をした順が幸せそうに微笑むところが見たかった。そうすれば少しは救われる気がしたのだ。

「うー。ぬるいって我ながら思うんだけどなー……」

 掠れた声で呟きながら和也は人目につかない場所を選んで進んでいった。龍神でもなく人でもない。そんな存在のことを和也はよく知っていた。

 彼らはハンターと龍神たちに呼ばれている。龍神の持つ龍宝珠という宝玉を彼らは狩る。ハンターは龍神の力を糧として生きる。そうしなければ生きられない存在なのだ。順が都子の愛液に異常なほどの性欲を覚えるのはそのためだ。

 かつて龍神の頂点に君臨する主龍神は告げた。ハンターを滅せよ。その命に従って龍神たちは次々とハンターを殺戮した。元々ハンターは個々での力は龍神より圧倒的に劣っている。彼らは結局、龍神の凶刃の前に次々に倒れていったのだ。

 和也は目を細めて天を仰いだ。

「オレと木村は似たもの同士なのかも知れないな」

 どちらにも成り切れない者。そう呟いて和也は乾いた声で嗤った。
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