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夢見心地。
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「起きろ。おい」
「んぅ……」
俺の肩で眠る女を揺すり起こす。
眠そうに目を擦って、きょろきょろと辺りを見回すその姿はまさに小動物。
可愛いっちゃあ、可愛い。
そして、俺を見つけた時の反応。
「りー」
この、ぱあぁって花が開いたようなこの反応も可愛い。
普段無表情なだけに、かなりくる。
──扉が閉まります。危険ですので駆け込み乗車はおやめください。
また瞼を閉じる幼馴染みを眺めていた俺の耳に、そんなアナウンスが流れてくる。
一気に覚醒した。
「夢生!降りるぞ!」
「うぇ?もう着いたの?」
「お前な、もうって軽く40分は寝てるぞ!」
慌てて駆け降りて、一息つく。
繋いでいた手を離し、カバンを持ち直して歩き出した。
夢生はあくびをしながらちょこちょこ後ろをついてくる。
また可愛いとか思ってしまって、俺はガシガシと頭を掻いた。
「りー」
駅から大学までの通学路で、夢生が俺の腕を叩いて名前を呼ぶ。
「何だ?」
「も少しで7月だね」
「そうだな」
無表情に告げてきた夢生は、声がどことなく嬉しそうだ。
俺はといえば、そんな時間感覚すらなかった。
暑くなってきたなぁ程度。
少し疲れているのかもしれない。
大学に進学し、これまでの環境とは変わってしまったのが原因か。
いや、おそらくは──
「……ん?」
こいつが原因だ。
可愛らしく小首を傾げてみせる夢生に、俺は大きなため息をついた。
この仕草行動発言が、全てが素なのを俺は知っている。
親同士が幼馴染みで、赤ん坊の時からつるんでいれば嫌でもわかる。
親からは、「お前が夢生ちゃんを守るんだぞ」とか言われていて、それが染み込んでいる自分も怖い。
そんな考えに耽っていても、俺はいつもある場所で少しだけ足を止める。
ショーウィンドウに並べられた腕時計。
それを見ながら通り過ぎる。
足を止めるのなんてものの数秒。
いつも眠そうで、歩きながらも寝てるんじゃないかと思われるような夢生は気づいてないだろう。
そう思いながら、後ろを振り返り、ため息をついた。
「おじょーちゃん、おにーさんたちといっしょにお茶行かない?」
今までも異常だったが、大学に入って3ヶ月。
こいつはいったい何度危ない目に合えば懲りるんだろうか。
俺は絡まれている夢生の元へと向かった。
「ん~……」
「着いて早々寝るな」
顔良し、成績良し、背は小さいがそれがまたたまらねぇ。
そんなんで、甘えたようにとろんとした目で見つめられりゃあ、男として可愛いと思うのは当然だろう。
あんなことしたいとか思うのだって、思春期の男としては普通だ。
こいつに危機感がなさすぎるんだ。
「なぁ」
「んー?」
「もちょっと危機感持てよ」
「んー」
「俺だって、ずっといれるわけじゃねぇんだぞ?」
「んー」
「何かあって、後悔するのはお前だぞ?」
「んー」
「……ダメだこりゃ」
どんどん夢の世界へ旅立っていく幼なじみの頭を俺はため息をつきながら撫でる。
「相変わらずラブラブですなー」
「凜人~。嫁さんはもうおネムですかあ~?」
「お前らうっせーよ」
小中高大と、連れは変われど言われることは変わらない。
ダチに茶化されるのはもう慣れた。
「りー」
「うお!?」
寝てると思っていた夢生が突然声を発し、俺は思わずビクッとする。
そんな反応を見て、若干むっとした様子の夢生に、「悪い」と謝っておいた。
ダチは前の席に腰掛け後ろを向く。
「何なに?なにか起きるわけ?」
「夢生ちゃんおはよん」
「ん」
「お前、拗ねんなよ……」
突っ伏したまま顔を上げない夢生に、許しを乞う。
ダチは感心したように笑う。
「さっすがー!夢生ちゃん今拗ねてるのね!」
「俺らにはわからん。夢生ちゃんたらいつも無表情なんだもん」
「のねとか、だもんとか、お前らキモイ」
「うっせー」
「凜人くんは、嫁さんのご機嫌取りしとけーい」
こいつらクソムカつく。
目の前でゲラゲラ笑うダチ共に、どうやって報復してやろうかと考えていると、裾をチョンチョンと引っ張られる。
夢生は、大きな目だけをこっちに向けて囁いた。
「3日後、空けといて」
意味はわからなかったが、俺は小さく頷いた。
3日後といえば、日曜日だ。
お守りから解放される日だってのに、正直面倒。
でもまぁ、空けてって言われちまったし。
……と思っていたが。
『せっかくの休みだし遊びに行こうぜー!』
『どうよ?男だけでさ!』
んな事言われたら、こっちを優先させちまってもしょうがねぇと思う。
夢生への連絡を忘れたのは俺のミスだ。
◆◆◆
夜中まで遊び呆けて、家へ帰ってきた頃には日付が変わる寸前。
電源を切っていたスマホを取り出し、電源を入れるとものすごい量の着信履歴とLINE通知が来ていた。
「すげ……。夢生ばっか」
電話すべきかどうか迷っていると、勢いよく部屋の扉が開いた。
「凜人!あんたどこ行ってたのよ!」
「んだよ、お袋かよ。俺がどこ行こうが関係ね──」
「夢生ちゃんとの約束ほっぽりだして!夢生ちゃんまだ待ってんのよ!」
「……へ?」
まだ待ってる?なんで?
いつもの夢生ならとっくに寝てる時間だろ?
不思議そうな顔でもしていたのか、お袋は確認するように尋ねてきた。
「……あんた、まさか気付いてないの?」
「何がだよ」
「あんた、今日誕生日だよ」
……そうだった。
だから、夢生は今日を指定したのか。
理解すると同時に、俺は部屋を飛び出した。
「まったく。馬鹿だよあの子は」
お袋のそんな呟きを背に受けながら。
夢生と俺の家は、直線距離にして100mといったところか。
だが、時間が時間だった。
もうすぐ、日付が変わってしまう。
「ごめん夢生」
罪悪感が募る。
ダチは知らなかったんだろう。
ただ純粋に遊びに誘っただけ。
だが、夢生は知ってた。
知ってて、わざと言わずに、サプライズでもしようとしてたに違いない。
夢生の家に着くと、チャイムも鳴らさずに玄関を開ける。
基本開いているのは知っているから。
入ると、おばさんが迎えてくれた。
「ギリギリだね凜人くん。夢生なら部屋にいるわ」
最後まで聞かずに、俺は階段を駆け上がる。
夢生の部屋の前で立ち止まると、息を整えながらノックした。
さすがに幼なじみとはいえ、女子の部屋に無断で押しかけるわけにもいかない。
ものの数秒もかからずに、その扉は開いた。
「りー……っ!」
いつも無表情のその整った顔は、不安と嬉しさの入り混じったなんとも言えない表情になっていた。
俺の中にさらに罪悪感が募る。
「夢生。俺──」
夢生は、俺の謝罪を遮った。
抱きつく、という行為で。
目を点にする俺。
「……え?」
「来ないかと思った」
「あ、あぁ……。悪かった。それに関しては、ほんと、弁解の余地もねぇわ」
「嫌われたかと思った」
「うん、それも……って、は?なんで?」
「いつも迷惑かけてて。私こんなだから。りー大変で。疲れてることわかってた」
「夢生……」
「いつも私のそばにいてくれて、迷惑に思ってることもわかってた。だから、嫌われても仕方ない。でも、嫌われたくない。りーだけには、嫌われたくない。わがまま、ごめん……」
俺の腹に頭を押し付けて、自分に言い聞かせるように言う言葉は、夢生の本心だろう。
ぽたぽたとカーペットに雫が落ちている。
俺は下にある後頭部をいつもみたいに撫でた。
「バーカ」
こんな一言で、怯えるようにピクリと動いたのが手に伝わる。
まるで小動物のような幼なじみに、俺は安心させるように告げた。
「んなの今更だろ?」
「う……」
「もしお前のこと、迷惑で嫌ってんなら、同じ大学なんか行かねぇっつーの」
「……じゃ」
「そりゃま、確かに疲れてはいたけどよ。そんなんで好きな女のことを嫌いになんかなるわけねぇだろ?」
「……!!」
夢生がばっと顔を上げて、目を見開いて俺を凝視する。
いや、元々でけぇのにさらに大きくされると怖いんですけど。
「りー……、それ……」
「なんだよ?」
「……もう一回」
「マジかよ」
ため息をつく。
俺の一世一代の告白をもう一度しろとおっしゃいますか、マジですか。
まぁ、しょうがねぇ……。
「好きだ」
瞬間。
大きな瞳から、大粒の雫が流れ落ちる。
そして、心底嬉しそうに笑った。
久しぶりに見た、その無邪気な笑顔に、俺は思わず目をそらす。
可愛い……。
ガシガシと頭を掻くと、夢生は嬉しそうに笑う。
「りー、照れてる」
「あ?なんでそんな──」
「ガシガシ頭掻くの、照れてる時の癖」
「……」
知らなかった。
言われてみれば確かにそうかもしれないけど、まさかそれを夢生に見破られていたとは。
夢生はその後もしばらく笑った後、部屋に入れてくれた。
そこには、美味そうな食べ物が所せましと並び、ど真ん中には、『りー誕生日おめでと』と書かれたプレートの乗ったホールケーキ。
夢生がどれだけ待っていてくれたのか、この部屋が物語っている。
俺のせめてもの償いだ。
もうとっくに日付は変わったが、美味しくいただくとしよう。
「りー」
談笑しながら腹いっぱい食ったところで、夢生が何かを渡してきた。
女子らしく可愛いラッピングのされた小さな袋。
「開けていいのか?」
「ん」
誕生日に夢生からプレゼントを貰うのはいつもの事だったが、今まではラッピングなんてされていなかった。
しかも、いつも食べ物だったし。
リボンをほどいて中を確認する。
そこにあったのは──
「これ……」
「うん」
あのショーウィンドウに並べられていた腕時計。
高級ブランドの、あの……。
え?
「お前、なんで……」
「知ってた。ずっとりーが見てたの」
こいつはどうやら、俺が思っていた以上に周りのことを見ていたらしい。
侮っていた。
夢生という幼なじみを。
「どうやって買ったんだよ?高かっただろ?」
「働いた」
「……はあ!?」
今日一……いや、今年一番の驚きだ。
この年中おねむの夢生がバイト!?
ありえねぇ、絶対寝るし、ってか、危ない……。
「りーのために頑張った。りーに喜んで欲しかった。そう思ったら頑張れた」
「夢生……」
「大好きなりーが喜んでくれるなら、私頑張れる。もうお誕生日じゃないけど、来てくれて嬉しかった。いつもありがと。りー」
俯いて、恥ずかしそうに告白をしてくる夢生。
あぁ。
俺は本当に、この幼なじみを侮っていた。
いつも眠そうで無防備で危なっかしい子ども。
だから、俺が守らないとって思っていたのに。
実際は周りのこともちゃんと見ていて、こうしてプレゼントを買おうとバイトもしてしまうような、俺よりもずっとしっかりした、大人な女だった。
俺は俯くその乙女な幼なじみを抱き寄せる。
ぽすんと胸に当たった小さな頭を撫でながら、再度誓った。
「お前を守るのは俺だ。だからそばにいろ」
「……そばにいるのはりーのほう。すぐどっか行っちゃう私を離しちゃダメ」
どこか普通と違う告白。
それが面白くて、俺たちは声をあげて笑った。
これから俺の新たなお守りの日常が始まるが、それはまた別の話。
「んぅ……」
俺の肩で眠る女を揺すり起こす。
眠そうに目を擦って、きょろきょろと辺りを見回すその姿はまさに小動物。
可愛いっちゃあ、可愛い。
そして、俺を見つけた時の反応。
「りー」
この、ぱあぁって花が開いたようなこの反応も可愛い。
普段無表情なだけに、かなりくる。
──扉が閉まります。危険ですので駆け込み乗車はおやめください。
また瞼を閉じる幼馴染みを眺めていた俺の耳に、そんなアナウンスが流れてくる。
一気に覚醒した。
「夢生!降りるぞ!」
「うぇ?もう着いたの?」
「お前な、もうって軽く40分は寝てるぞ!」
慌てて駆け降りて、一息つく。
繋いでいた手を離し、カバンを持ち直して歩き出した。
夢生はあくびをしながらちょこちょこ後ろをついてくる。
また可愛いとか思ってしまって、俺はガシガシと頭を掻いた。
「りー」
駅から大学までの通学路で、夢生が俺の腕を叩いて名前を呼ぶ。
「何だ?」
「も少しで7月だね」
「そうだな」
無表情に告げてきた夢生は、声がどことなく嬉しそうだ。
俺はといえば、そんな時間感覚すらなかった。
暑くなってきたなぁ程度。
少し疲れているのかもしれない。
大学に進学し、これまでの環境とは変わってしまったのが原因か。
いや、おそらくは──
「……ん?」
こいつが原因だ。
可愛らしく小首を傾げてみせる夢生に、俺は大きなため息をついた。
この仕草行動発言が、全てが素なのを俺は知っている。
親同士が幼馴染みで、赤ん坊の時からつるんでいれば嫌でもわかる。
親からは、「お前が夢生ちゃんを守るんだぞ」とか言われていて、それが染み込んでいる自分も怖い。
そんな考えに耽っていても、俺はいつもある場所で少しだけ足を止める。
ショーウィンドウに並べられた腕時計。
それを見ながら通り過ぎる。
足を止めるのなんてものの数秒。
いつも眠そうで、歩きながらも寝てるんじゃないかと思われるような夢生は気づいてないだろう。
そう思いながら、後ろを振り返り、ため息をついた。
「おじょーちゃん、おにーさんたちといっしょにお茶行かない?」
今までも異常だったが、大学に入って3ヶ月。
こいつはいったい何度危ない目に合えば懲りるんだろうか。
俺は絡まれている夢生の元へと向かった。
「ん~……」
「着いて早々寝るな」
顔良し、成績良し、背は小さいがそれがまたたまらねぇ。
そんなんで、甘えたようにとろんとした目で見つめられりゃあ、男として可愛いと思うのは当然だろう。
あんなことしたいとか思うのだって、思春期の男としては普通だ。
こいつに危機感がなさすぎるんだ。
「なぁ」
「んー?」
「もちょっと危機感持てよ」
「んー」
「俺だって、ずっといれるわけじゃねぇんだぞ?」
「んー」
「何かあって、後悔するのはお前だぞ?」
「んー」
「……ダメだこりゃ」
どんどん夢の世界へ旅立っていく幼なじみの頭を俺はため息をつきながら撫でる。
「相変わらずラブラブですなー」
「凜人~。嫁さんはもうおネムですかあ~?」
「お前らうっせーよ」
小中高大と、連れは変われど言われることは変わらない。
ダチに茶化されるのはもう慣れた。
「りー」
「うお!?」
寝てると思っていた夢生が突然声を発し、俺は思わずビクッとする。
そんな反応を見て、若干むっとした様子の夢生に、「悪い」と謝っておいた。
ダチは前の席に腰掛け後ろを向く。
「何なに?なにか起きるわけ?」
「夢生ちゃんおはよん」
「ん」
「お前、拗ねんなよ……」
突っ伏したまま顔を上げない夢生に、許しを乞う。
ダチは感心したように笑う。
「さっすがー!夢生ちゃん今拗ねてるのね!」
「俺らにはわからん。夢生ちゃんたらいつも無表情なんだもん」
「のねとか、だもんとか、お前らキモイ」
「うっせー」
「凜人くんは、嫁さんのご機嫌取りしとけーい」
こいつらクソムカつく。
目の前でゲラゲラ笑うダチ共に、どうやって報復してやろうかと考えていると、裾をチョンチョンと引っ張られる。
夢生は、大きな目だけをこっちに向けて囁いた。
「3日後、空けといて」
意味はわからなかったが、俺は小さく頷いた。
3日後といえば、日曜日だ。
お守りから解放される日だってのに、正直面倒。
でもまぁ、空けてって言われちまったし。
……と思っていたが。
『せっかくの休みだし遊びに行こうぜー!』
『どうよ?男だけでさ!』
んな事言われたら、こっちを優先させちまってもしょうがねぇと思う。
夢生への連絡を忘れたのは俺のミスだ。
◆◆◆
夜中まで遊び呆けて、家へ帰ってきた頃には日付が変わる寸前。
電源を切っていたスマホを取り出し、電源を入れるとものすごい量の着信履歴とLINE通知が来ていた。
「すげ……。夢生ばっか」
電話すべきかどうか迷っていると、勢いよく部屋の扉が開いた。
「凜人!あんたどこ行ってたのよ!」
「んだよ、お袋かよ。俺がどこ行こうが関係ね──」
「夢生ちゃんとの約束ほっぽりだして!夢生ちゃんまだ待ってんのよ!」
「……へ?」
まだ待ってる?なんで?
いつもの夢生ならとっくに寝てる時間だろ?
不思議そうな顔でもしていたのか、お袋は確認するように尋ねてきた。
「……あんた、まさか気付いてないの?」
「何がだよ」
「あんた、今日誕生日だよ」
……そうだった。
だから、夢生は今日を指定したのか。
理解すると同時に、俺は部屋を飛び出した。
「まったく。馬鹿だよあの子は」
お袋のそんな呟きを背に受けながら。
夢生と俺の家は、直線距離にして100mといったところか。
だが、時間が時間だった。
もうすぐ、日付が変わってしまう。
「ごめん夢生」
罪悪感が募る。
ダチは知らなかったんだろう。
ただ純粋に遊びに誘っただけ。
だが、夢生は知ってた。
知ってて、わざと言わずに、サプライズでもしようとしてたに違いない。
夢生の家に着くと、チャイムも鳴らさずに玄関を開ける。
基本開いているのは知っているから。
入ると、おばさんが迎えてくれた。
「ギリギリだね凜人くん。夢生なら部屋にいるわ」
最後まで聞かずに、俺は階段を駆け上がる。
夢生の部屋の前で立ち止まると、息を整えながらノックした。
さすがに幼なじみとはいえ、女子の部屋に無断で押しかけるわけにもいかない。
ものの数秒もかからずに、その扉は開いた。
「りー……っ!」
いつも無表情のその整った顔は、不安と嬉しさの入り混じったなんとも言えない表情になっていた。
俺の中にさらに罪悪感が募る。
「夢生。俺──」
夢生は、俺の謝罪を遮った。
抱きつく、という行為で。
目を点にする俺。
「……え?」
「来ないかと思った」
「あ、あぁ……。悪かった。それに関しては、ほんと、弁解の余地もねぇわ」
「嫌われたかと思った」
「うん、それも……って、は?なんで?」
「いつも迷惑かけてて。私こんなだから。りー大変で。疲れてることわかってた」
「夢生……」
「いつも私のそばにいてくれて、迷惑に思ってることもわかってた。だから、嫌われても仕方ない。でも、嫌われたくない。りーだけには、嫌われたくない。わがまま、ごめん……」
俺の腹に頭を押し付けて、自分に言い聞かせるように言う言葉は、夢生の本心だろう。
ぽたぽたとカーペットに雫が落ちている。
俺は下にある後頭部をいつもみたいに撫でた。
「バーカ」
こんな一言で、怯えるようにピクリと動いたのが手に伝わる。
まるで小動物のような幼なじみに、俺は安心させるように告げた。
「んなの今更だろ?」
「う……」
「もしお前のこと、迷惑で嫌ってんなら、同じ大学なんか行かねぇっつーの」
「……じゃ」
「そりゃま、確かに疲れてはいたけどよ。そんなんで好きな女のことを嫌いになんかなるわけねぇだろ?」
「……!!」
夢生がばっと顔を上げて、目を見開いて俺を凝視する。
いや、元々でけぇのにさらに大きくされると怖いんですけど。
「りー……、それ……」
「なんだよ?」
「……もう一回」
「マジかよ」
ため息をつく。
俺の一世一代の告白をもう一度しろとおっしゃいますか、マジですか。
まぁ、しょうがねぇ……。
「好きだ」
瞬間。
大きな瞳から、大粒の雫が流れ落ちる。
そして、心底嬉しそうに笑った。
久しぶりに見た、その無邪気な笑顔に、俺は思わず目をそらす。
可愛い……。
ガシガシと頭を掻くと、夢生は嬉しそうに笑う。
「りー、照れてる」
「あ?なんでそんな──」
「ガシガシ頭掻くの、照れてる時の癖」
「……」
知らなかった。
言われてみれば確かにそうかもしれないけど、まさかそれを夢生に見破られていたとは。
夢生はその後もしばらく笑った後、部屋に入れてくれた。
そこには、美味そうな食べ物が所せましと並び、ど真ん中には、『りー誕生日おめでと』と書かれたプレートの乗ったホールケーキ。
夢生がどれだけ待っていてくれたのか、この部屋が物語っている。
俺のせめてもの償いだ。
もうとっくに日付は変わったが、美味しくいただくとしよう。
「りー」
談笑しながら腹いっぱい食ったところで、夢生が何かを渡してきた。
女子らしく可愛いラッピングのされた小さな袋。
「開けていいのか?」
「ん」
誕生日に夢生からプレゼントを貰うのはいつもの事だったが、今まではラッピングなんてされていなかった。
しかも、いつも食べ物だったし。
リボンをほどいて中を確認する。
そこにあったのは──
「これ……」
「うん」
あのショーウィンドウに並べられていた腕時計。
高級ブランドの、あの……。
え?
「お前、なんで……」
「知ってた。ずっとりーが見てたの」
こいつはどうやら、俺が思っていた以上に周りのことを見ていたらしい。
侮っていた。
夢生という幼なじみを。
「どうやって買ったんだよ?高かっただろ?」
「働いた」
「……はあ!?」
今日一……いや、今年一番の驚きだ。
この年中おねむの夢生がバイト!?
ありえねぇ、絶対寝るし、ってか、危ない……。
「りーのために頑張った。りーに喜んで欲しかった。そう思ったら頑張れた」
「夢生……」
「大好きなりーが喜んでくれるなら、私頑張れる。もうお誕生日じゃないけど、来てくれて嬉しかった。いつもありがと。りー」
俯いて、恥ずかしそうに告白をしてくる夢生。
あぁ。
俺は本当に、この幼なじみを侮っていた。
いつも眠そうで無防備で危なっかしい子ども。
だから、俺が守らないとって思っていたのに。
実際は周りのこともちゃんと見ていて、こうしてプレゼントを買おうとバイトもしてしまうような、俺よりもずっとしっかりした、大人な女だった。
俺は俯くその乙女な幼なじみを抱き寄せる。
ぽすんと胸に当たった小さな頭を撫でながら、再度誓った。
「お前を守るのは俺だ。だからそばにいろ」
「……そばにいるのはりーのほう。すぐどっか行っちゃう私を離しちゃダメ」
どこか普通と違う告白。
それが面白くて、俺たちは声をあげて笑った。
これから俺の新たなお守りの日常が始まるが、それはまた別の話。
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