棘バラの口付け

おかだ。

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past1 (シーヴァ)

episode21

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「いい香りでしょ?ウチのバラ園のバラを使ってるんだ。リラックス効果があるらしい」

そう言ってお手本の様にティーカップに口を付けると、今まで疑いの目を向けていた男が、両手に持て余していたティーカップに恐る恐る口をつけた。

「・・・おいしい」

意外そうに呟いた相手の反応に、平静を装っていた口元が密かに緩む。

「でしょ?」

紅茶を一気に煽った男をティーカップ越しに見つめ、心の中でやれやれとため息をついた。

「もう時間かな?」

テーブルにティーカップを置いて相手に尋ねると、快活に微笑んだエドが頷いた。

「そろそろお暇します」

「そっか」

エドがソファから腰を上げ、シーヴァも立ち上がった。次の瞬間。

「・・・あれ?行かないの?」

ストンと力が抜けたかのようにソファに再度腰かけた男に、シーヴァが可笑しそうに尋ねる。

キョトンとしたまま固まる男が、やっと気付いたのか悔しげにシーヴァを見上げる。

「・・・え、ぁ、、」

「・・・・どうしたの?顔色悪いね。気分悪い?少し休もう。体、震えてるよ

ゼェゼェと荒い息を繰り返すエドの背をシーヴァが優しくさすり、ソファに寝かせようとする。

「・・・ッや、め!!」

抵抗しようと伸ばしたエドの手は空を掻き、ティーカップがカシャンと床に叩きつけられる音が響いた。

上手く酸素を取り込めないのか、短い呼吸を繰り返す男の目には生理的な涙が溜まり、シーヴァを見上げる瞳の焦点が合わなくなっていく。

「ッく、そ・・・!」

「大丈夫、怖くないよ。少しの間眠っていてもらうだけだから・・・」

朦朧とするエドの口元を手で覆い、子供に言い聞かせる様に優しい声で相手が意識を手放すのを待つ。

抵抗する力が意識の低下と共に弱くなり、エドの口を塞いでいたシーヴァの掌に当たっていた吐息も弱くなっていき、最後には掌に完全に息が当たらなくなった。

「・・・そこのお前」

呆然と突っ立っていた使用人の一人にシーヴァが声を掛ける。

「あっ、ぇ」

「お前の事、興味もないから名前も知らなかったけど、お前も元ヴァルアロ生なんだって?身分の低いお前の様な者にも彼、気にせず面倒を見ていたとか・・・」

シーヴァが軽蔑するように怯える従僕の青年の顔を睨みつける。

「まあいいや。エドを俺の寝室に運んでおいて。俺もあとから向かうから」

シーヴァが気を失っているエドを指さし穏やかな声でそう言った。

「分かり、ました・・・」

「お前一人で運べよ。この事は他言するな」

耳元で囁かれた冷たい声に緊張で喉がなる。

「・・・いい子」

静かに首を縦に振ると、シーヴァが満足そうに口元に笑みを浮かべた。
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