棘バラの口付け

おかだ。

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past1 (シーヴァ)

episode25

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馬車に揺られながら自身の膝に頭を預けて眠っている青年の髪を優しく撫でる。

「あとどれ位で着くんだろうね」

シーヴァが独り言のようにぽつりと呟いて外を眺めると、車窓には美しい田舎の景色が広がっていた。

王都の外れにあるエドウィンのマナーハウスは、彼が生まれた日に父親であるエルドが贈ったもので、親交の深かったアルマを含む王子達3人は何度か夏の間の避暑地としてそこに滞在した事があった。

最後にシーヴァがそこを訪れたのは何年も前になる。

「もう少しで着きますよ。そんなに急がなくても目的地は逃げませんぜ、旦那。急いでる様だが、こんな田舎にどんな用事なんです?」

御者の仲間らしい男が向かいの席からフードを目深く被った男を鬱陶しそうにちらりと見てそう答えると、フードの男が返事をする代わりに再度膝上で眠る青年の髪を撫でた。

普段であれば王子に対し、それも第2王子である癇癪持ちで有名なシーヴァに無礼な態度をとった者はタダでは済まされないだろう。

しかしこの日のシーヴァは違った。

乗り心地の悪い馬車にどかりと座り、死んだ様に眠る傷だらけの青年を膝に横たわらせ微動だにしない。

異様な二人組の男達に、再度静寂を切って向かいに座る男が口を開く。
 
「・・・・旦那、お連れの方、傷だらけだが大丈夫なのか?それに、その男、何処かで───」

ブランケットで身体をおおわれている眠ったままの青年をまじまじと見つめる。

「・・・・・、あっ!」

ブランケットから覗く整った顔立ちとだらりと垂れた左手中指にはめられた紋章付きの指輪には見覚えがあった。

「わっ、ぁ、え?エルド様のッ・・・・」

驚愕した男が静かに眠る青年を指さし声を上げると、フードの男が驚く男の腕を掴み、低く囁いた。

は任務中に不慮の事故で倒れられた。本人の希望である、内密に頼みたい」

初めてフードから覗いた男の銀髪と、黄土の瞳が冷たく男を見据えた。

フードから覗くいやらしく薄笑いをうかべた口元に、喉元まで出かけた声を飲み込んだ男がペタンと元の椅子に座り直し、身体を静かに震わせた。

何故なら、この国の王子がここ一帯の領主の子息と、自分の質素な馬車に乗っているのだから無理はない。

「・・・ぁ、あぅ、あ、、あの、ご無礼を」

向かいの席で縮こまり俯いたまま、御者の仲間の男が口を開いた。

「・・・なんの事かな?お前は何も見てない。旅の男を二人、この馬車に乗せた。それだけだろ?」

狼のような黄土の瞳がじっと男を見つめる。

「はいッ、そうです」

「そうだよね。良かった」

エドの肩を抱いて顔を持ち上げたシーヴァが、眠る青年の口内に無色透明の液体を流す。

「ぅ、、っげほ、ッごほ、」

「えっ、わ、だ、大丈夫なんですか?・・・それは?」

激しく咳き込むエドに駆け寄ろうとした男を制したシーヴァが、口の端から溢れた液体を指先で拭う。

「ふふ、だよ。・・・エド、僕だよ。わかる?ごめんね、・・・」

「ゔ・・・・、はっ、はぁ、はぁ、しー・・・ヴァ、様?」

伏せ目がちな切れ長の瞼から、ダークブラウンの瞳がキョロキョロと辺りを見回す。

シーヴァの膝上に頭を預けたまま、ぼーっと黄土の瞳を見つめる。

「可哀想に・・・。朦朧としてる、もうすぐ着くからね、エド」

「・・・・?シーヴァさ、おれっン、んんッ、んむっ」

「んっ、ふ、、」

大きなフードのせいで二人の顔は窺い知れなかったが、車内中に聞こえる濡れた音に向かいに座る男が息を飲む。

だらりと垂れたエドの指先が小さく痙攣する。

「あは、また寝ちゃったや」

フードを外し目を細めて面白そうに笑うシーヴァと、呆然としたままの男の目が合う。

「はぁ、あつ・・・もういいよね、コレ。バレちゃってるし」

唾液でてらてらと光るシーヴァの唇を真っ赤な舌がなぞるように舐める。

シーヴァがくせっ毛の銀髪から覗く猫のような目を細め首を傾げてクスクスと笑うと、海のように深い蒼のピアスが両耳で揺れた。

女物の装飾品を身に付けたシーヴァは異様に見えたが、それと同時に同性でも息を飲むような美しさと妖艶さがあった。
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