棘バラの口付け

おかだ。

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past1 (シーヴァ)

episode26

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「ロイド、久しぶり」

玄関の騒がしい音を聞きつけてドアを開けたバトラーの老人が、無邪気に挨拶をする目の前の男を見て驚きで優しげな目を見開いた。

「エドウィン坊っちゃん・・・!それにシーヴァ殿下まで!どうされたんですか?!」

「懐かしくなって来たんだ。エドは。安静にしていれば大丈夫だから」

顔を覆うようにすっぽりと掛けられたブランケットから覗くブラウスははだけ、目を閉じて荒い息を繰り返す主人にバトラーのロイドが心配げな表情を向ける。

「ぅ・・・、」

「・・・ふふ、赤ちゃんみたいで可愛いなぁ」

ベッドに寝かせられたエドの汗を拭い、ロイドが顔を曇らせる。

「・・・また、イタズラですか?」

「・・・」

「仲がよろしいのは私も喜ばしく思っています。ですが・・・」

傷だらけの主人の頬をタオルで優しく拭い、不満そうに眉をしかめるシーヴァに視線を送る。

「愛情表現を間違っては嫌われてしまいますよ?・・・坊ちゃんだけではありません。思いやりを持って優しく接しなければ」

にっこりと笑う老紳士に銀髪の青年の黄土の瞳が見開く。

「・・・そうしたら、僕もあの子アルマみたいにエドに愛して貰えるの?」

「ふふ、思いやりは通じるものですよ」

タオルと水差しを手に持ったロイドが部屋を出ていくのを見送ったシーヴァが、静かに寝息をたてるエドの横顔を見つめる。

「・・・エド、僕の事きらい?迷惑?」

応えることなく眠る青年の体は、手首にも首筋にも至る所にアザや切り傷が目立つ。

先刻、シーヴァ自身が自室の寝室でエドにつけた傷だ。

「痛かった・・・?」

ベッドサイドの机の上に置かれた包帯をひったくり、傷付いた腕に優しく巻いていく。

生まれてから自分の手当すらした事がなかったシーヴァの包帯の巻き方は充分とは言えず、緩んだ箇所から今にも解けそうだ。

「ゔ・・・」

「エド、お前を僕の一番にしてやる。だから、エドも僕を一番にして」

青年の耳元で囁き、ため息を漏らす。

もし、エドが初めて出会ったのがアルマではなく自分だったら?
エドの主人がアルマでなく自分だったら?




「・・・・邪魔だなぁ」

形のいい唇が不快に歪む。
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