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第3章:二人の距離
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沢井が塾を終え家に帰る途中に、本屋に参考書を
買うために立ち寄った。
参考書の横の棚の「パーマン全集」が目に留まる。
数冊手に取り、ざっと目を通してみた。
「えっ。パーマンって子供向け漫画じゃないんだ。ラブコメなんだ」
ついつい引き込まれ、次々と目を通していた。
特に気になったのは、パー子のことだった。完璧な
アイドルのパー子が、パーマンに変身し、パーマン
一号の前では本当の姿である、お転婆な自分を見せる。
そんなギャップがなんだか好きだった。
最終回の“鏡の宝物”の話も印象に残った。鏡を割って
しまったパーマンに、パー子はこう告げたという。
「宝物は鏡じゃないの。鏡に映っていた“あなた”なの」
「バード星に修行に行った、パーマンをずっと待ち続けている。
ペンダントと一緒に」なぜか、そのシーンが忘れられなかった。
店のおばちゃんが、箒をパタつかせ、
「お客さん。立ち読みは困るんですけど」
と注意された。
慌てて最終巻をレジに持っていく沢井だった。
翌週の朝。沢井が家を出ようとすると、
母親が呼び止めた。
「晶子。最近、リップスティックやヘアスプレーを使うように
なったんじゃない? 私のが少し減っているのだけど」
「ごめん、梅雨で髪がまとまらなくて」
母親は家を出て行く晶子を見送りながら、
怪訝そうな顔でつぶやいた。
「去年まではあまり気にする子じゃなかったのだけどな…」
放課後、資料室。
松岡と沢井はスケジュールの見直しをしている。
松岡が
「事前に下駄箱には入っていた資料を見たけど沢井さんの
見直しがよくできている。読み合わせた後、問題なければ
これで行こう」
と言った。
突然、ドアがノックされ、西村が入ってきた。
「しっちゃん。県大会が近づいており、練習にもう少し
参加できない?」
「雑用は私ができるけど、練習の内容は私では難しい」
「アッコ、いいでしょ?」
松岡は答えた。
「あとで連絡するよ。今は作業中だから」
そのまま、彼は作業を続けた。
西村は、沢井の顔をじっと見つめながら、
松岡に
「後で、必ず来てよ。愛瀬先生にも伝えておくから」
と言い残し部屋を出た。
沢井は申し出た。
「私の作業、増やしていいよ。部活も大事だよ」
松岡は、空気を和ませるように冗談めかして言った。
「最初に五公五民って決めたからね。そのまま続けるよ。
一揆はダメだよ、幕府が困る(笑)」
沢井は少し呆れた表情を浮かべながら返した。
「何それ、歴史ネタ?江戸時代なら、七公三民でしょ」
松岡は笑って言った。
「じゃあ、三民でがんばるよ(笑)」
沢井は呆れた表情を浮かべながら言った。
「松岡くん、パーマンみたい。お人よしすぎるよ」
松岡は嬉しそうに言った。
「あれ?沢井さんって、パーマンはあまり知らないって
言っていたけど嬉しいな、パーマンファンが増えて」
沢井の顔が少し赤らんだ。それを隠すように、怒ったふりをして言った。
「だって、パーマンに補習邪魔されそうになったんだもん。
ファンじゃないよ」
松岡は残念そうに言った
「そっか。残念だな」
楽しそうな二人の作業は少し遅めに終わった。
電車の中、過ぎゆく車窓を見ながら、沢井はつぶやいた。
「あんなふうに冗談を言い合えるなんて、ちょっと不思議。
こんなふうに笑えるのって、久しぶりかも。なんか楽しみだなぁ」
顧問室に松岡は入って行った。すでに西村と愛瀬が待っていた。
西村が口火を切った。
「先生、さっき相談した通り、もう少し松岡くんが
練習に出られるよう、アルバム委員の仕事を減らすように
できませんか?」
愛瀬は松岡の方を向き、
「西村も困っているようだ。沢井と相談して分担を
変えられないか?」
松岡は二人を見ながら言った。
「サッカー部の練習の話とアルバム委員の話は関係ありません」
愛瀬が諭すように言った。
「とはいえ、西村や部員が困っているのも確かだ」
松岡は続けた。
「今回のサッカー部強化計画には、『集中による効率的な練習』を
掲げています」
「それで?」
「平日の僕の練習参加を増やすより、いっそ、平日の練習を減らし、
土曜日に半日集中して練習するように見直しては
どうでしょうか」
西村が口を挟んだ。
「部員が納得するかなぁ」
松岡は西村の方を見て答えた。
「大丈夫、土曜日に今まで少なかった練習試合を増やし、
レギュラー以外のメンバーを積極的に使う。単調な練習より、
レギュラー以外のやる気が上がり、全体的な底上げに
なると思います」
愛瀬は頷き、
「新しい方法だがチャレンジも大切だ。やってみろ」
「先生、ありがとうございます」
西村は渋々納得したようだ。
打ち合わせ後、松岡はグランドで一人ボールを蹴っていた。
一息ついて、ボールの上に腰掛ける。
「沢井さんって、もっとクールで近寄りがたいと思っていた。
でも、話していると楽しい。ミッチとはタイプが違うけど」
「一緒にいると、なんだか落ち着くな」
とぼんやり思っていた。
二人の心のドアが今、
「キィ」
と音を立てて、ゆっくり開いていく。
その音は、まだ小さな予感だった。
でも、確かに心の奥で鳴っていた。
それは、静かに始まる物語の序章だった。
買うために立ち寄った。
参考書の横の棚の「パーマン全集」が目に留まる。
数冊手に取り、ざっと目を通してみた。
「えっ。パーマンって子供向け漫画じゃないんだ。ラブコメなんだ」
ついつい引き込まれ、次々と目を通していた。
特に気になったのは、パー子のことだった。完璧な
アイドルのパー子が、パーマンに変身し、パーマン
一号の前では本当の姿である、お転婆な自分を見せる。
そんなギャップがなんだか好きだった。
最終回の“鏡の宝物”の話も印象に残った。鏡を割って
しまったパーマンに、パー子はこう告げたという。
「宝物は鏡じゃないの。鏡に映っていた“あなた”なの」
「バード星に修行に行った、パーマンをずっと待ち続けている。
ペンダントと一緒に」なぜか、そのシーンが忘れられなかった。
店のおばちゃんが、箒をパタつかせ、
「お客さん。立ち読みは困るんですけど」
と注意された。
慌てて最終巻をレジに持っていく沢井だった。
翌週の朝。沢井が家を出ようとすると、
母親が呼び止めた。
「晶子。最近、リップスティックやヘアスプレーを使うように
なったんじゃない? 私のが少し減っているのだけど」
「ごめん、梅雨で髪がまとまらなくて」
母親は家を出て行く晶子を見送りながら、
怪訝そうな顔でつぶやいた。
「去年まではあまり気にする子じゃなかったのだけどな…」
放課後、資料室。
松岡と沢井はスケジュールの見直しをしている。
松岡が
「事前に下駄箱には入っていた資料を見たけど沢井さんの
見直しがよくできている。読み合わせた後、問題なければ
これで行こう」
と言った。
突然、ドアがノックされ、西村が入ってきた。
「しっちゃん。県大会が近づいており、練習にもう少し
参加できない?」
「雑用は私ができるけど、練習の内容は私では難しい」
「アッコ、いいでしょ?」
松岡は答えた。
「あとで連絡するよ。今は作業中だから」
そのまま、彼は作業を続けた。
西村は、沢井の顔をじっと見つめながら、
松岡に
「後で、必ず来てよ。愛瀬先生にも伝えておくから」
と言い残し部屋を出た。
沢井は申し出た。
「私の作業、増やしていいよ。部活も大事だよ」
松岡は、空気を和ませるように冗談めかして言った。
「最初に五公五民って決めたからね。そのまま続けるよ。
一揆はダメだよ、幕府が困る(笑)」
沢井は少し呆れた表情を浮かべながら返した。
「何それ、歴史ネタ?江戸時代なら、七公三民でしょ」
松岡は笑って言った。
「じゃあ、三民でがんばるよ(笑)」
沢井は呆れた表情を浮かべながら言った。
「松岡くん、パーマンみたい。お人よしすぎるよ」
松岡は嬉しそうに言った。
「あれ?沢井さんって、パーマンはあまり知らないって
言っていたけど嬉しいな、パーマンファンが増えて」
沢井の顔が少し赤らんだ。それを隠すように、怒ったふりをして言った。
「だって、パーマンに補習邪魔されそうになったんだもん。
ファンじゃないよ」
松岡は残念そうに言った
「そっか。残念だな」
楽しそうな二人の作業は少し遅めに終わった。
電車の中、過ぎゆく車窓を見ながら、沢井はつぶやいた。
「あんなふうに冗談を言い合えるなんて、ちょっと不思議。
こんなふうに笑えるのって、久しぶりかも。なんか楽しみだなぁ」
顧問室に松岡は入って行った。すでに西村と愛瀬が待っていた。
西村が口火を切った。
「先生、さっき相談した通り、もう少し松岡くんが
練習に出られるよう、アルバム委員の仕事を減らすように
できませんか?」
愛瀬は松岡の方を向き、
「西村も困っているようだ。沢井と相談して分担を
変えられないか?」
松岡は二人を見ながら言った。
「サッカー部の練習の話とアルバム委員の話は関係ありません」
愛瀬が諭すように言った。
「とはいえ、西村や部員が困っているのも確かだ」
松岡は続けた。
「今回のサッカー部強化計画には、『集中による効率的な練習』を
掲げています」
「それで?」
「平日の僕の練習参加を増やすより、いっそ、平日の練習を減らし、
土曜日に半日集中して練習するように見直しては
どうでしょうか」
西村が口を挟んだ。
「部員が納得するかなぁ」
松岡は西村の方を見て答えた。
「大丈夫、土曜日に今まで少なかった練習試合を増やし、
レギュラー以外のメンバーを積極的に使う。単調な練習より、
レギュラー以外のやる気が上がり、全体的な底上げに
なると思います」
愛瀬は頷き、
「新しい方法だがチャレンジも大切だ。やってみろ」
「先生、ありがとうございます」
西村は渋々納得したようだ。
打ち合わせ後、松岡はグランドで一人ボールを蹴っていた。
一息ついて、ボールの上に腰掛ける。
「沢井さんって、もっとクールで近寄りがたいと思っていた。
でも、話していると楽しい。ミッチとはタイプが違うけど」
「一緒にいると、なんだか落ち着くな」
とぼんやり思っていた。
二人の心のドアが今、
「キィ」
と音を立てて、ゆっくり開いていく。
その音は、まだ小さな予感だった。
でも、確かに心の奥で鳴っていた。
それは、静かに始まる物語の序章だった。
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