『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第２話「病院で目覚める」

春の陽が窓から差し込み、白いカーテンがそよぐ。
福田朋広は、ぼんやりと天井を眺めながら目を覚ました。

（……ここ、どこや……？）

頭の芯がぼんやり重い。記憶をたどると、昨日の夜――雨の夜、原付、倒れた影……その後の衝撃。

胸ポケットに手を入れると、壊れたはずのスマホが手元にある。
画面には、なぜか桜模様のアプリが点滅していた。

「……え？　これ、最新のスマホちゃうんか……？　なんや機能いっぱいあるなぁ……」

つぶやきながら、画面を触ってはツッコミ、ボケて、スマホの操作を楽しむ。
天然鈍感な彼の脳内では、「大事故」「融合」などという単語はまだ存在しない。

窓の外には団地やコンビニ、ガソリンスタンドの屋根が見える。
事故の夜に微かに見えたシルエット――ベッドのそばの椅子には、久世桔梗（24）が軽く微笑みながら立っていた。

「……あれ？　誰や、これ」

と、視線を向けるが、桔梗はすぐにさりげなく奥に下がる。
隣には伏見美琴（22）が和服姿で荷物を持ち、病室にそっと置いた。

「……あぁ、そうか。夜の団地の人か……？」

朋広の天然鈍感は、彼女たちの存在も“ただそこにいる人”程度にしか認識しない。
名前も簡単に思い出せるわけではない。だが、雰囲気で安心感を覚える。

――事故の傷や衝撃は大きかったはずだが、身体は少しずつ軽くなる感覚。
原付も、胸ポケットのスマホも、何事もなかったかのように元通りになっている。

（……修理屋が直してくれたんやろか、原付も……まあええか）

思わず微笑む。誰も知らないが、事故の夜、遠くにいた無機質な監視者だけが、異常を記録していた。
“規定外融合”は、人間に起きた史上初の事象。

しかし、福田朋広本人はまだ気づかない。
彼にとって、日常はゆっくりと戻りつつある――ただ天然鈍感に、周囲の人を助ける日々が始まるだけだ。

病院の窓越しに、雨上がりの団地が淡く輝く。
その光の中で、影のように揺れる存在たち――コンビニ内、ガソスタ、団地の通路、部屋の中――
読者だけが知る“この世界のキャラクターたち”の気配が静かに漂う。