『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

7話「団地の日常とさりげない異変」

退院から数日後。春の雨は上がり、団地の通路には柔らかな陽光が差し込む。
朋広は原付の修理も完了し、軽くホッとしながら10階の廊下を歩いていた。

「よっしゃ、これでまた乗れるわ……」

通路の角では久世桔梗（24）が郵便受けの前に立ち、書類を整理している。
洗練された雰囲気の中に柔らかさを含む女性で、目が合うとほんのり心が温まる。
朋広は軽く会釈するだけで、会話は交わさない。

隣室からは伏見美琴（22）が和服姿で荷物を抱えながら出てくる。
「こんばんは、朋広さん」
軽く声をかけられ、朋広は「おお、こんばんは」と応じるだけ。天然鈍感ゆえ、挨拶以上の意味はまだ理解できない。

団地の一角、コンビニの窓際では、微かに影が揺れる。
誰も気づかないが、読者には薄いシルエットとして見える。
ガソスタの屋根の下や階段踊り場、部屋の中でも、存在感のある影がひそかに動く。
それは桜の核や装具に関わるキャラクターたち――名前はまだ登場せず、ただ匂わせとして存在する。

朋広は原付を押しながら、スマホを見て笑う。
「最新のスマホは、ほんまに色々できるんやなぁ……」
画面に表示される桜模様のアプリを見て、ノリでボケてみたり、思わずツッコミを入れたり。
装具や核の存在、20才姿のことなど、もちろん全く気づかない。

廊下を抜けると、団地内の小さな桜の鉢植えがわずかに揺れる。
それは冥の影響で少し波打ったままの状態だが、朋広の無意識の行動により、少しずつガラス色の透明さを取り戻している。

朋広の天然鈍感さが、日常の中で小さな異変を自然に整えていく――
誰も気づかない、ささやかな“奇跡”が、今日も団地のあちこちで静かに起こっている。