『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第13話「伏見稲荷神社・街中接点 」

春の昼下がり、窓の外には淡い陽光が雨に濡れたアスファルトを照らす。伏見区向島の団地十階、朋広はベッドに腰かけ、割れたスマホを手に取る。

「……なんや、最新のスマホっていろいろ機能あるんやなぁ……」

画面に並ぶアプリを指でなぞるたび、思わず小さくツッコミを入れる。ノリとボケで自分に話しかけるような天然の反応だ。

ベッドのそば、窓際、廊下の向こう――視界の隅に、かすかな気配が揺れる。誰かがちらりとこちらを見ている気がする。しかし、朋広は全く気づかない。

（……ん？　いや、気のせいやな……）

それでも、窓の外には、団地の通路を通る影、近所のコンビニ前で傘に隠れた人影、ガソリンスタンドの屋根下に立つ誰か――どれも動きは自然で、名乗ることも、声をかけることもない。読者には“誰かいる”と感じられる程度の存在感だけ。

「よし、スマホもなんとか使えるようになったし、次は……原付かぁ」

話す声もまた、自分へのツッコミのように軽く、天然の鈍感さを保つ。胸のポケットで割れたスマホに宿った桜満開装具の糸は、目に見えず、しかし確かに彼の身体と心に微かな温度を残している。

遠くで、ある存在がその様子を観測する。無機質で冷静、感情の揺れを持たぬ視線が、主人公の天然さと無自覚の“浄化力”を確認する。

「……この人間も、例外事象。融合後の反応は……極めて安定。影響範囲も通常より広い」

その視線は、団地の影や街中の人影、未来に現れる可能性のある“桜波長の変化”まで静かに見通していた。
だが朋広本人は、今日も何も知らず、ただ自分の生活を取り戻すことだけに集中する。

「ま、ボチボチやな……」

天然の呟きに包まれ、静かな午後は過ぎていく。
外の世界では、かすかな桜の光が微妙に揺れ、誰の目にも見えず、しかし確かに存在を示していた。