『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第14話「退院、そして日常の光景」

病室の窓から差し込む春の陽光が、濡れたアスファルトに反射して優しく光る。福田朋広はゆっくりとまぶたを開け、ベッドの上で伸びをする。

「ふぁ……よぉ寝たなぁ……」

胸ポケットのスマホを手に取り、割れた箇所が不思議なほど修復されていることに気づく。最新モデルに切り替わったわけではないが、見慣れぬ機能が並ぶ。

「なんや、このアプリ……めっちゃ便利そうやん……？」

ノリツッコミのように独り言をつぶやきながら操作してみる。画面をスワイプするたび、微かに桜の光が胸元で揺れる。本人には気づかないが、装具の核は確かに存在し、身体に融合したまま微かな共鳴を続けている。

窓の外、病院の通路やロビーの向こう、スタッフや見舞い客の間に、かすかな影が揺れる。団地やコンビニ、ガソリンスタンドのシルエットと同様、誰も名乗らない。読者には「この世界のキャラクターかもしれない」と分かる程度の匂わせだ。

「……ふむ、スマホもなんとか動くし、次は……原付かぁ」

1か月前、事故で倒れた原付のことを思い出す。
退院の日、建物の前で自分の原付を確認する。雨で濡れた跡はあるが、修理屋が直してくれたらしく、問題なく動く状態になっていた。

「おお、直してくれたんか……ありがたいなぁ」

天然鈍感な口調で呟き、笑顔を浮かべる。その後ろで、かすかに人影が通り過ぎるが、誰も声をかけず、視線も交わさない。主人公には全く気づかない。

「よし、これでまた動き回れるわけやな……」

そうつぶやく朋広の背中に、読者だけが理解できる“桜波長の微かな揺れ”が広がる。
冥やダーク桜の波長も、彼の存在によって浄化される。街の空気は変わらず日常のままだが、微かに優しい光が差している。