『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

著:蒼月トウカ/文八代目/記:謎の桜風

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第25話 微光の調律

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昼下がり、団地のエレベーター前。
福田朋広はコンビニへ行こうと、少し眠そうな顔で待っていた。

「今日は何買おっかなぁ……カフェオレか、普通の牛乳か……いや牛乳は重いか?」

そんなどうでもいい独り言を呟いていたその時――。

「福田さん、こんにちは」

声の主は 伏見美琴(22)。
軽やかな足取りで和服の裾を揺らし、買い物袋を抱えている。

「あ、美琴さん。重そうやけど、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。むしろ助けてもらったら申し訳ないくらいですし」

柔らかく微笑む美琴。
しかし読者には、彼女の視線が一瞬だけ朋広の胸元――スマホの位置に吸い寄せられたのがわかる。
理由を知らないのは当然、そして朋広はもっと知らない。

「ほな、気いつけてな」

「はい。福田さんも」

美琴が去った後、朋広はぽりぽりと頬をかく。

「……なんやろ、胸ポケットがちょっとあったかい?」

スマホが、淡く脈動するような光を一瞬だけ放っていた。
本人は眩しさすら感じない。
だが読者には、桜核の調律が進行中であるとわかる小さな異変。


エレベーターが開くと、今度は **久世桔梗(24)**が乗ってくる。
黒髪を耳にかけ、どこか疲れた表情。仕事帰りらしい。

「あ、福田君。コンビニ?」

「せやねん。カフェオレ買うか迷っててな」

「ふふ、平和でいいわね。……ちょっと羨ましい」

桔梗は控えめに笑った。
だが表情の奥に、読者だけが気づく「微かな不安色」がある。

エレベーターの蛍光灯がちらりと揺れ、桜核の影響か、桔梗の周囲の空気がふっと揺らぐ。
朋広はまったく気づかず、エレベーターの閉まりかけの扉に挟まりかける。

「うおっ、あっぶな!」

桔梗は、疲れているはずなのに思わず吹き出す。

「ふふ……そういうとこ、変わらないのね」

エレベーターが下りていく間、朋広の胸ポケットのスマホは光を完全に消し、静けさだけを残す。
装具の自動調整が、彼の無害で温かな性格に“最適化”されていく。


コンビニに着くと、入り口のドアに映る自分の姿が少し細く見えた気がした。

「……ん? 俺、痩せた? まさか……動きすぎ?」

全く違う。
それは、桜核が調律の合間に主人公の肉体を微細に整え始めた兆候だった。
読者は気づくが、本人はやはり気にしない。

結局、朋広は悩んだ末にカフェオレと肉まんを買い、満足げに団地に向かって歩く。

桜核の光は、春の空気の中、誰にも気づかれないまま――ただ静かに、次の段階へ進みつつあった。
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