『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

著:蒼月トウカ/文八代目/記:謎の桜風

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第26話 小さな違和感と、気づかない本人

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夕方の団地は、仕事や学校帰りの人たちで賑わい始めていた。
福田朋広は、コンビニ袋を片手に階段を上りながら、のんきに鼻歌を歌っている。

「にしても……今日はなんか、体が軽い気ぃするなぁ」

彼は知らない。
桜核が“融合理の微調整”を行い、筋力や姿勢がほんのわずかに整えられていることを。
読者だけが気づく変化だ。

そんな朋広を、団地の踊り場で誰かが呼び止めた。

「……あっ、福田さん?」

振り返ると、そこにいたのは――

丹波冥(20)。
長い黒髪を揺らし、買い物袋を抱えている。
どこか影を落とした瞳が印象的だが、声は優しい。

「冥ちゃん、お疲れさん。荷物多いな、大丈夫か?」

「えっ……あ、はい。大丈夫です。あの……福田さんこそ、階段で息切れてません?」

ちょっと心配そうに尋ねてくる。
けれど本人はきょとんと首をかしげる。

「ん? 俺? めっちゃ元気やで?」

冥は一瞬だけ目を細める。

(……なんか、前より肩幅……? いや、気のせい……?)

彼女は言葉にしない。
そして朋広も、もちろん何も気づかない。

「ほんまに重そうやし、持つで?」

「あっ……いえっ、大丈夫ですからっ」

冥は慌てて手を振る。
頬が少し赤い。
それを見た朋広は、もっと別のことを考えていた。

(重いんを持たれんようにせんと……俺が失礼なんかな? ややこしいなぁ)

思考が天然すぎて、読者が思わず突っ込みたくなるレベル。

「ほな気いつけて帰りや」

「は、はい……! また……!」

冥は去り際、なぜか深く息を吐く。

(……なんで、胸が変にざわつくんやろ……?)

理由はもちろん、まだ誰にもわからない。
桜核の微光が、冥の背中をかすめるように揺れる。
それが彼女の不安や揺らぎを刺激しているのだが、彼女自身は気づけない。


部屋に戻った朋広は、カフェオレを飲みながらスマホを充電器に差し込む。

「んー……やっぱ最近のスマホはすごいな。
 勝手に明るさ変わるし、電池の減りも遅いし……なんか使いやすいわ」

それはスマホの性能ではなく、桜核が“勝手に最適化”しているだけなのだが――
もちろん本人は永遠に気づかない。

しかもスマホ内部では、ほんの一瞬だけ薄紅色の光が走った。

朋広は、ぽりぽりと頭をかきながらつぶやく。

「……なんやろ。最近、ちょっとだけやけど……
 『俺、なんか変わった?』って言われること増えてきた気ぃする」

彼は深刻そうな顔をして、

「まさか……髪、寝癖ついとるんかな……」

と真剣に鏡を見る。

その後ろで、薄い光がふわりと揺れる――
これは、読者だけが見える“変身条件の前兆”。

けれど、主人公は永遠に気づけない。
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