『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

著:蒼月トウカ/文八代目/記:謎の桜風

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第29話「若返ってる? いやいや、運動の成果やろ、多分な」

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春の夕焼けが団地の壁をオレンジ色に染めていた。

スーパーで買った卵を抱えて帰ってきた福田朋広は、
いつものように十階まで階段をゆっくり登っていた。

古傷の痛みは最小限。
今日は歩きやすい。

(なんや、最近調子ええな……リハビリの成果やろか)

そう思ったその瞬間――
視界がふっと軽くなる。

胸の奥で、小さな光が瞬いた。
本人の自覚ゼロ。

階段の踊り場に差しかかったとき、
すれ違った中学生二人が目を丸くした。

「あれ……? さっきのおっちゃん、なんか若くなかった?」
「なあ! なあなあ! 顔つき違ったよな!?」

朋広は振り返りもせず、階段を上っていく。


---

十階に着いた頃、
ちょうど洗濯物を取り込んでいた久世桔梗と出会った。

「あ、福田さん、おかえりなさい。……えっ?」

また止まる桔梗。

桔梗にははっきり見えた。
“今の福田さん、確実に若かった”
と。

だが、本人は当然いつもの表情。

「あれ? 桔梗さん、どしたん?」

「い、いえ……あの、ちょっと聞いていいですか?」

桔梗は思い切って切り込んだ。

「最近……若返ってません? その、肌とか……雰囲気とか……」

「……ん?」

朋広はぽかんとした顔をした後、

「いやいやいやいや!
 さすがにそれは言い過ぎやろ!」

「えっ、でも――」

「最近、階段のぼる練習しとるからな。
 ちょっと鍛えられたんやろ、多分」

桔梗
(……いや、そんなレベルの変化ちゃうねんけど……)

だが桔梗は優しい性格上、それ以上強く言えなかった。

「そ、そうなんですか……? なら、よかったです」

「うんうん、鍛えたら変わるもんや」

(鍛えただけで肌の質感までは変わらへんと思うんやけど……)

桔梗の不安は深まるばかりだった。


---

その夜。

団地の自販機前で一息ついていた伏見美琴が、たまたま通りかかった。

「あ、福田はん。夜風、気持ちええですねぇ」

「せやなぁ……」

美琴は横目で見た。

(……やっぱ若返っとる……!)

今日は“20才姿”の持続が昨日の1.5倍。
つまり、本人が気づく前に、周囲は確信レベルに到達している。

「福田はん……その……最近元気になったというか……若うなってません?」

「あぁ……? いや最近、階段とか歩く練習しとるしな。
 ちょっと体力ついたんやろ」

「……いや、体力だけであんな変わり方しますぅ……?」

「するやろ? 多分。知らんけど」

「(いや絶対せぇへんやろ……!)」

美琴は胸の内で盛大にツッコんだが、
本人が笑っているので言えなかった。


---

団地の屋上では、監視者が静かに記録を続けていた。

「周囲認識の変化、臨界点到達。
 本人の鈍感性により誤魔化し成功。
 偽装理由:『鍛えているから』――持続安定」

そしてページを一つめくる。

「次段階――自然発動型変身(短時間)。
 予測開始」

朋広の知らないところで、
彼自身の物語は確実に深まっていく。
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