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第30話「無自覚変身、会話中発動」
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翌日の午後。
団地一階のエントランス前は、春の風が通り抜ける心地よい時間帯だった。
福田朋広は、郵便受けを確認している久世桔梗に声をかけられた。
「あ、福田さん。昨日は、お疲れさまでした」
「おぉ、桔梗さん。昨日より体が軽いわ。ええ感じや」
桔梗は微笑んだが、
その瞬間――彼女の表情が止まる。
(……え? 今……また若返った?)
ほんの一言。
「ええ感じや」と言った、その一秒のあいだに。
朋広の肌の質感が、
ほんのわずかに“若いほう”へ寄った。
──視界の高さは変わらない。
だから本人は一切気づかない。
桔梗
(ついに……会話中に変わるようになったんですか……!?)
桔梗は平静を装った。
「あの……福田さん、今日……」
「お、今日なんか顔色ええって? そら最近鍛えとるからな」
「そ、そうなんですけど……」
(いや、昨日より今日のほうが“若返り速度”早いんですけど!?)
言えるはずがない。
---
エントランスを出ると、
伏見美琴が自転車を押してやってきた。
「あ、福田はん。今日も元気そうどすなぁ」
「お、おぉ美琴さん。元気や元気」
美琴が目を細めた。
(……今、また変化した。
肌の色……輪郭……。
“昨日より若い”)
本人は無自覚。
むしろ美琴の顔を見て首をかしげる。
「どうしたんや? なんかジッと見て」
「い、いえ……その……今日は、昨日よりさらにお若いなぁって……」
「ははは! そら歩き回っとるからな。筋肉ついたんやろ」
「(筋肉だけで若返りが進むわけないやろぉ!?)」
美琴は心の中で全力ツッコミ。
しかし、ここでも言えなかった。
---
■そしてその夜
団地の外階段で、朋広は買い物袋を提げていた。
(なんか最近ホンマに体軽いなぁ……
鍛えとるからやろな……)
何ひとつ疑わない。
その頃――
最上階の見えない陰で監視者が記録していた。
「変身前兆――0.03秒まで短縮。
本人の知覚鈍感性により、誤魔化し続行可能。
変身後の身長変化ゼロにつき、気づき難度は最高値」
ページに淡々と書き加える。
「次段階:持続時間の自然増加
目標:数十秒→数分へ」
雨の夜に始まった異常は、
もう日常の中で静かに根を張り始めていた。
団地一階のエントランス前は、春の風が通り抜ける心地よい時間帯だった。
福田朋広は、郵便受けを確認している久世桔梗に声をかけられた。
「あ、福田さん。昨日は、お疲れさまでした」
「おぉ、桔梗さん。昨日より体が軽いわ。ええ感じや」
桔梗は微笑んだが、
その瞬間――彼女の表情が止まる。
(……え? 今……また若返った?)
ほんの一言。
「ええ感じや」と言った、その一秒のあいだに。
朋広の肌の質感が、
ほんのわずかに“若いほう”へ寄った。
──視界の高さは変わらない。
だから本人は一切気づかない。
桔梗
(ついに……会話中に変わるようになったんですか……!?)
桔梗は平静を装った。
「あの……福田さん、今日……」
「お、今日なんか顔色ええって? そら最近鍛えとるからな」
「そ、そうなんですけど……」
(いや、昨日より今日のほうが“若返り速度”早いんですけど!?)
言えるはずがない。
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エントランスを出ると、
伏見美琴が自転車を押してやってきた。
「あ、福田はん。今日も元気そうどすなぁ」
「お、おぉ美琴さん。元気や元気」
美琴が目を細めた。
(……今、また変化した。
肌の色……輪郭……。
“昨日より若い”)
本人は無自覚。
むしろ美琴の顔を見て首をかしげる。
「どうしたんや? なんかジッと見て」
「い、いえ……その……今日は、昨日よりさらにお若いなぁって……」
「ははは! そら歩き回っとるからな。筋肉ついたんやろ」
「(筋肉だけで若返りが進むわけないやろぉ!?)」
美琴は心の中で全力ツッコミ。
しかし、ここでも言えなかった。
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■そしてその夜
団地の外階段で、朋広は買い物袋を提げていた。
(なんか最近ホンマに体軽いなぁ……
鍛えとるからやろな……)
何ひとつ疑わない。
その頃――
最上階の見えない陰で監視者が記録していた。
「変身前兆――0.03秒まで短縮。
本人の知覚鈍感性により、誤魔化し続行可能。
変身後の身長変化ゼロにつき、気づき難度は最高値」
ページに淡々と書き加える。
「次段階:持続時間の自然増加
目標:数十秒→数分へ」
雨の夜に始まった異常は、
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