『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第32話「若返り噂、団地全体に拡大――本人は“運動の成果”で押し通す」

夕方、団地一階のエントランス。
郵便受けの前で久世桔梗（24）が静かに封筒を整理していた。

「……あ、福田さん」

「おう、桔梗ちゃん。今日も仕事帰りか？」

彼女はにこりと微笑むが、その目がほんの一瞬だけ“じっ”と朋広の顔を見つめる。

（……なんか今日、また若くなってはる？
　気のせい……じゃない、よな）

当の本人は気づかない。
20才姿の残滓みたいな、ほんの数秒の“光の揺らぎ”が皮膚に走っていた。

「最近ほんま元気そうですね。なんや、若返ったみたいで」

「ははっ！ せやろ？ 階段で10階まで毎日上がっとるからな！ 運動の勝利勝利！」

（……いや、階段でここまで若返りませんやろ……）
桔梗の胸の中でツッコミが発生する。

そこへ伏見美琴（22）が買い物袋を抱えて近づく。

「福田さん、こんばんは～。あれ？ 今日なんか雰囲気違う……若い？」

「おっ、美琴ちゃんも言うか。まぁ運動の成果や！」

「いや、運動では説明つかん変化なんよなぁ……」

美琴は笑顔のまま内心で困惑する。

この2人は“普通の人間の感覚”を持っているため、
59才姿の朋広が一瞬だけ若返る“揺らぎ”を、無意識に察知してしまう。

だが関西人の強みか、
「深く言い出すと話が面倒になる」
という生存本能が働き、あえて突っ込まない。


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■その夜。団地の別フロア。

おばちゃんA「十階の福田さんな、また若なっとったで」

おばちゃんB「え、またかいな。どないなっとん」

おじいさん「ワシも昨日エレベーターで会うたが……正直、孫より元気やった」

おばちゃんC「ちょっと怖いわ……でも本人めっちゃ自然やし……まあええか」

団地全体で“若返り噂”が自然発生。


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■外階段の影。監視者の独白。

「変身前兆時間：前回より短縮。
　変身維持時間：＋3.1秒」

監視者は淡々と記録を続ける。

「本人の天然・鈍感特性が、周囲の疑問を打ち消し続けている。
　このまま進行すれば、変身固定も視野」

夜風が桜の香りを運ぶ。

「次の段階――感情波長の安定テスト、開始」

まるで季節がひっそりと変わるみたいに、
朋広の体内で“桜核”が静かに育ち続けていた。