『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

著:蒼月トウカ/文八代目/記:謎の桜風

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第45話「夕暮れの団地通り」

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夕陽が低く差し込む団地の通路。福田朋広は、階段を下りながら、まだ少し痛む腕をさすりつつ、外の空気を吸い込む。雨上がりの匂いと、アスファルトの湿った感触が、どこか懐かしい気持ちを呼び起こす。

郵便受けの前では、久世桔梗が手紙を整理していた。淡いグレーのオフィススーツが夕陽に照らされ、少し赤みを帯びる。すれ違いざまに会釈すると、桔梗も自然に微笑む。

「こんばんは、昨日は降ったなぁ」
「ほんまやなぁ、雨で足元悪かったやろ」

短いやり取りでも、団地の空気はほっと和む。朋広は軽く肩を回し、階段を降りる。

隣室からは伏見美琴が荷物を持って出てくる。和服姿は清々しく、夕陽に溶け込むようだ。「こんばんは」と微笑む美琴に、朋広は自然に返す。

階段の踊り場で、香椎天音と目が合う。小さな会釈に微笑み返し、雨で濡れた髪を気にするでもなく、自然なやり取りが続く。

団地を出ると、街の夕暮れが広がる。濡れたアスファルトに夕陽が映り、歩道の小さな水たまりがきらきらと光る。原付を眺めると、事故で壊れたはずのスマホが胸ポケットに収まり、朋広は「最新のスマホはほんま色々できるんやなぁ」と、いつもの天然のノリで呟く。

ふと、団地の向こうの通りから子供たちの声が聞こえ、少し遠くで人々の生活音が混ざる。誰も大きな声では話さず、街全体が柔らかく包まれているようだ。

朋広は深呼吸しながら歩く。事故の痛みもほとんど忘れ、腕の違和感も微かだ。心地よい夕暮れの風が、団地の隅々まで行き渡り、日常の小さな幸せを静かに教えてくれる。

「ええなぁ、夕方の空気も……」

ひとりごとのように呟きながら、朋広は団地の生活の一部となった自分を感じる。郵便受けの音、ドアの開閉音、遠くで子供たちが笑う声――どれも昨日の雨を忘れさせる、優しい日常のリズムだった。

夜の光が街を包む頃、団地の窓からは、柔らかく暮れる夕陽が差し込む。朋広の胸ポケットのスマホは静かに光を受け、まだ何も変わっていない。ただ、日常は確かに動き続け、彼の天然鈍感さが、これからの物語をゆるやかに紡いでいく――。
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