『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第46話 「桜色の午後」

福田朋広は、いつものように団地の廊下を歩いていた。朝の光が淡く差し込み、郵便受けの前で立ち止まると、何気なく隣室の扉に目が行った。

「おや、今日は誰かいるみたいだな…」

和服姿の若い女性が荷物を抱えて出てくるのを見かけ、朋広は自然と微笑む。彼女もふと目を合わせ、軽く会釈を返してくれた。

「おはようございます」
「おはよう…ございます」

短い挨拶だったが、どこか温かい空気が漂う。朋広は何となく足を進め、階段を下りると、ふと脳裏に“柔らかい春の匂い”が浮かぶ。
桜が咲く季節ならではの、淡い気配だ。

そのまま和喫茶「月待庵」の前を通ると、店の前に見慣れた巫女風の女性と、自由奔放な少女が立ち話をしていた。彼女たちもまた、桜色の光に包まれているように見える。

朋広はふと、スマホを取り出して画面を覗き込む。特別な機能で何かを測定しようとしているわけではない。ただ、指先で画面を軽く撫で、通り過ぎる日常の一瞬を確認するような感覚だ。

「さて、今日は何をしようか…」

小さな冒険の予感に、朋広の胸がわずかに高鳴る。
それは、何気ない日常の中に隠れた、ささやかな“春の奇跡”の始まりだった。

廊下の向こう、階段の先、そして喫茶店の扉の向こう――
今日も誰かの笑顔と、少しの不思議が待っている。