『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第50話 「桜環のささやかな鼓動」

午後の日差しが団地の廊下を柔らかく照らす中、福田朋広はいつものように20歳の身体で歩いていた。
スマホを手に取り、何気なく画面を覗くと、そこには微かな光のゆらぎが映る。

「…ん？まただ」

通知ではない。数字も文字も表示されていない。
ただ、指先に伝わる“鼓動”のような振動が、確かに前より強く感じられる。
朋広は首をかしげながらも、軽くスマホを振ってみた。

その瞬間――

「わっ！」

階段の方から、誰かの叫び声が聞こえた。
見ると香椎天音が、荷物の落下で足を滑らせそうになっていた。
朋広は反射的に手を差し伸べ、彼女を支えた。

「大丈夫…？」
「はい、ありがとうございます！」

その瞬間、周囲の空気がわずかに震えたように感じられる。
朋広自身は何が起こったのか理解できない。ただ、身体が少し軽く、自然に力が出ていた。

「…あれ？俺、変なことした？」

彼のスマホには、桜の花びらのような淡い光が画面に浮かんでいた。
それは、桜環の反応だと気づく者はまだいない。
しかし、ほんのわずかな“力の兆し”が、確かに彼の周囲で動き始めていた。

その後も、団地内では小さな異変が続いた。
落し物が自然と手元に集まったり、風で飛んだ紙がまるで自分から朋広の前に舞い降りたりする。
全ては微細で、誰も気づかない。
だが、朋広の心は少しずつ変わり始めていた。

――桜環の鼓動は、今日も密かに主人公の力を揺り動かす。
――そして、日常のささやかな奇跡は、少しずつ物語の核心に近づき始めていた。