『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第55話 「監視者の視線と広がる波紋」

団地の午後、桜の花びらがゆっくり舞い降りる中、福田朋広は20歳の身体で軽やかに歩いていた。
無自覚ながら、階段で香椎天音の荷物を支えたり、書類を拾ったりするたび、周囲では微細な異変が起きている。

和喫茶「月待庵」では、御影紫苑がその違和感を鋭く察知していた。
「…これは、ただ事じゃない」
巫女らしい直感で、空気の微かな揺れを感じ取る。
隣にいる鴉谷りつも、ギターを触るたびに風や花びらが不自然に舞うのを目にして、少し驚いた表情を見せる。

玄関前では如月ほのかがノートに向かいながら、桜舞う光景の中で微妙な異変に気づく。
「…何かがおかしい…でも、何なんだろう」
熱心なファンとして、小さな違和感を敏感に感じ取っていた。

遠くでは、人外の監視者が冷静な目で観測端末を見つめている。
「対象者の桜環融合反応、拡大中。局所的ではあるが、増幅傾向あり」
感情はない。淡々と、異常の記録と解析だけが進む。
この観測結果は、主人公には届かない。無自覚のまま、彼の力は確実に周囲へ波紋を広げていた。

団地の住人たちはまだ普通の日常を送っているように見える。
だが、小さな偶然や奇跡の連鎖――落ちる書類、舞う花びら、風に揺れる小物――は、着実に周囲の人々の注意を引きつけていた。

――桜舞う街角で、日常と非日常の境界はわずかに揺れ、
――誰も気づかぬまま、主人公の桜環の力は静かに広がり始めている。