『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第58話 「視線とささやかな確信」

桜舞う午後、図書館の創作ラウンジでは桐生さくらがノートに向かいながらも、ふと朋広の方を見やった。

「…なんだか、自然に助けてくれる人だな…」
控えめで存在感のある高校生のさくらは、自分でも気づかぬうちに、主人公の無自覚な優しさに胸をざわつかせていた。

隣では花房るりがふんわり微笑む。
「…あの人、すごく自然だね」
おっとりした彼女も、微かに心惹かれていることを自覚する。

喫茶店「月待庵」では、御影紫苑と鴉谷りつが友人同士で話す。
「最近、あの人の周りだけ空気が違う気がする」
「ほんとだね、なんか自然に助けてくれるし…」
自由奔放なりつも、巫女らしい紫苑も、主人公の無自覚ヒーローぶりを小さく認識していた。

玄関前では如月ほのかが小説を閉じ、ため息をつく。
「…やっぱり、この人って特別なんだな…」
熱心な読者として、自然に惹かれる自分を少し照れくさそうに感じる。

階段で偶然すれ違った香椎天音は、ふと目が合った瞬間、心がざわつく。
「…どうして、こんなに自然に助けられちゃうんだろう」
若干の戸惑いとともに、微かな胸の高鳴りを自覚する。

――桜環の力による小さな奇跡は、ヒロインたちに少しずつ認識され始めていた。
――主人公は相変わらず無自覚で、天然鈍感なまま。
――だが、全員の心には、確かに「この人は特別だ」という淡い確信が芽生え始めていた。