島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも

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第六話

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第六話


「ご飯ができましたよ」

色々と試していたら、すっかり日が暮れてしまいました。
遅効性の毒も無く、ピヨさんも平気そうだったので、安心しました。

「ピヨ、ピヨ『ねぇ、あれって』」
「ニャニャ『スープとパン、だな』」

何やら二人が私の食事を見ていますが、こちらは味付けがしてあるので、あげられません。

「ニャ~ニャ『まぁ、一歩前進だな』」
「ピヨ、ピ~、ピヨ『随分と小さな一歩ね。スープにキノコが少し入ってるだけじゃない』」
「ニャニャ『メェにしてみれば、十分な進歩なんだろ』」
「ピヨ~『やれやれねぇ』」

食事を終えると、広間の隣にある図書室へと向かう。ここには王城の図書室にも負けない程の数の本があり、二階分の吹き抜けで壁全てが本棚になっている。しかも保存状態は完璧で、かなり古い本も問題無く読める。この部屋を見つけて以来、夜はここにいる事が多い。
部屋の一角には本を読む場所が設けられていて、フワフワの絨毯と、身体が沈み込んでしまう程に大きく柔らかいクッションが置かれている。
火を使わない魔道具のランタンを出窓に置き、クッションに身体を預けた。

「やはり、長期間の外界との切断で独自の―――」

この島は、不思議な物が多い。
植物だけ見ても、この島で初めて見た物も多い。大きさは数倍以上あり、味はどれも美味である。
トウドウさんが残してくださった説明書とは別に、自分でも見た物を書き留める。
静かな部屋に、カリカリと文字を書く音と、時折紙がすれる音が響く。
いつもの慣れた時間だが、この島に来て変わった事がある。

「ピヨ~」
「‥‥」

私の向かいにあるクッションの上、シロさんとピヨさんが気持ちよさそうに寝息を立てている。少しだけ頬が緩んだ気がします。

「‥‥獣人?」

トウドウさんの本に、獣人と書いてあります。
獣人とは、人に獣の耳や尾が付いている種族で、身体能力は人以上である‥‥と、古い文献で読んだ記憶があります。
ただ、その能力故に人間に捕まり、奴隷として戦争に出されていた時代があった。そして今ではその姿を見る者はいない。
戦争で全ての獣人が滅んだとも、戦後その能力を恐れた人間に滅ぼされたとも言われていますが、どちらにしても人の罪である。なんとも嘆かわしい。
トウドウさんの本には狼の様な耳と尾を持つ女性が描かれていますが、まさかこの島に?
獣人狩りを逃れた種族がこの島に来ていても、不思議ではありませんね。
シロさんやピヨさんの様に黒いモヤを纏った個体以外の動物に攻撃された事もありません。
穏やかと言って良い環境。食べ物も豊富にあり、問題無く生活は出来そうです。

「ご近所さん、ですか‥‥仲良くなれるといいですね」

もしもいたら、の話ですが。おっと、随分遅くなってしまいました。
二人を起こしてしまうのは可哀想なので、クッションごと宙に浮かせて寝室まで運んでおきましょう。
二人に毛布を掛け、ある部屋へと向かいます。
着ていた物を全て脱ぎ、植物らしき物で編まれたカゴの中へと入れます。
大丈夫。この部屋の使い方は、トウドウさんの説明書に全て書いてありました。
先ずは頭の天辺からつま先まで、身体を洗います。
トウドウさんが残してくださった、「しゃんぷー」や「とりーとめんと」、「ぼでぃーそーぷ」を使わせていただきます。
泡の一つも残さず「しゃわー」で洗い流すと、いざ、お湯の中へ。

「ふ~‥‥」

今日一日の疲れが綺麗さっぱり溶かされていくようです。
このお風呂と言う物を使うようになってから、髪はツヤツヤ肌はプルプルになった気がします。
今までは魔法で綺麗にするか、水で濡らしたタオルで拭く。地方へ行った時に湖か川があれば、そのまま‥‥師匠に滝つぼへ落とされた時の事を思い出しました。
あの時は腰に石を巻きつけられていましたね。何故でしょう。暖かいはずのお湯の中で、震えが止まりません。
気分転換に窓を開けてみましょう。
ここは広間よりは小さいが大きなガラスがはめ込まれていて、外の景色がよく見えます。
窓を開けると、まだ少し冷たい空気が入ってきて気持ちが良いです。
聖女としての務めから解放され、自分が思っていたよりも心が軽くなったのだと感じる。

「あのアホ王子に感謝しなければいけませんね」

さて、明日は何をしましょうか。





「シロさん? ピヨさん?」

お昼ごはんの時間になったと言うのに、お二人とも見当たりません。お散歩にでも行ったのでしょうか?
外に出ると、日差しの眩しさに目を細めました。

「フ~~~!」
「ピヨ!」

お二人の声が聞こえましたが、何やら不穏な感じがします。
辺りを見渡してみると、シロさんの頭の上にピヨさんが乗り、黒いモヤと対峙しているのを発見しました。
今回の黒いモヤの塊は、ピヨさんの倍近く大きい。
いつものシロさんの様に樹の根を飛び移りながら湖を超え、お二人の元へと急ぎます。

『縛』

着地と同時に魔法で塊を捕縛します。

「大丈夫ですか、お二人とも」
「ニャニャ!『メェ、気を付けろ! そいつは』」
「ピ、ピヨ!『メェちゃん、まだよ!』」

何故でしょう。お二人がまだ警戒しています。
黒い塊を見ると、塊の真ん中、上がぐにりと陥没して‥‥いや、分離する気か。
魔法を組みなおそうとした瞬間、塊が二つに分かれ、鎖から飛び出てしまった。

「あらまぁ」
「ニャニャ『一応、驚いてるんだよな?』」
「ピ~ヨ~『メェちゃんなりに、驚いているみたいね』」

とは言え、やる事は同じ。
二つに分かれたくらいでは、問題になりません。

『縛』

塊二つを、同時に捕縛完了しました。

「ニャ~『とんでもねぇな』」
「ピヨ~『自覚は無さそうだけど』」

お二人も安心したようですね。良かった。

『浄化』

唱えると、多少小さくなった塊から黒いモヤが霧散していきます。

「おや‥‥これは」

黒いモヤが完全に晴れ、現れたのは二匹の灰色ネズミでした。
ふっくらとした体躯に、可愛らしい耳。灰色ネズミと呼ばれてはいますが、この子達は薄く紫がかっているようにも見えます。まぁ‥‥大きいんですけどね。

「「キュキュ?」」

ネズミさん達は顔を合わせると、ひしと抱き合いました。

「「キュキュ~」」

仲良しさんですね。ちょっと撫でてみたい。
そう思っていたのが伝わってしまったのか、右にいる子に抱き上げられてしまいました。

「ニャ『おい』!」
「「キュ~」」

左右からモフモフに挟まれ、スリスリとされます。驚きの心地良さです。
暫くされるがままにしていると、シロさんに止められてしまいました。ちょっと残念。
私が引き離されると、ネズミさん達は再度顔を見合わせ、ポン! と、ピヨさんと同じくらいの大きさになってしまいました。

「では、お昼ごはんにいたしましょう」

後に調べたところ、灰色ネズミはチンチラという動物だとトウドウさんの本に書いてありました。その毛の素晴らしさから乱獲され、かなり数を減らした。
残ったチンチラが他のネズミと交配し、私の知る灰色ネズミとなったようです。
ここは原初の島。人の来ないこの島で、原種のまま生き残ってくれていました。
さて、名前を考えましょうか。単純に「チンチラ」を半分に分けようと思ったのですが、シロさんに止められた様な気がするので、他の名を考えなければ。

「鼻が黒い方がノルさん。鼻が桃色の方がノアさんでいかがでしょうか?」
「キュ『俺、ノル』!」
「キュ『俺、ノア』!」

どうやら気に入っていただけたようです。
名付けって、大変ですね。
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