島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも

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第九話

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第九話


「そう言えば、なんだってこの島に聖女がいるんだ?」
「元、聖女です。王子が私の姉と婚約する事になり、その姉をイジメたのでこの島に追放されました?」
「いや、なんで疑問形なんだ」
「何と言うか‥‥私には理解不能と言うか、どうでもいいと言うか」

あんな回りくどい事などせず、ただ姉が王子と婚約するだけで良かったのでは? まぁ、半分は私が邪魔だったという理由も含まれているでしょうが。
それにしても、身内に国外追放された者がいると言うのは、王子の婚約者として問題ではないのだろうか。

「あっはっはっ! 面白いな、お前さん」

信じては‥‥いなさそうですね。
人当たり良く大らかにふるまってはいても、笑顔と腹の底で何を考えているか分からないのが王侯貴族と言うものだ。

「さて、そろそろ相棒が待ちくたびれているだろう。茶、美味かったよ」
「さしたる持て成しもできず、申し訳ございません」

見送りの為に外へ出ると、日は登り空気が幾分か暖かくなっていた。
ジル様は竜の背に飛び乗ると、外套とゴーグルを着けた。

「そんじゃ、またな!」

そして空へと舞い上がると、そのまま飛び去って行った。

「え‥‥また?」

変な緊張感から解放されたのもつかの間、また来るのかとため息を吐いた。
ジル様の話を信じるなら、彼の方が先にここへ来ていたのだからしょうがないとも言える。
最悪、ここから出てしまえば良い。そうなるとこの快適さ、特にお風呂が使えなくなるのは、少し‥‥いや、かなり残念ではある。

「ニャァ『二度と来るな』」
「ピヨ、ピヨ『今度来たら、思い切りつついてやるわよ』!」
「「キュキュ~『『ばいば~い』』」」

約一月ぶりに会話をしたのが、王族とは。

「今日はお休みしましょうか」

腹の探り合いは苦手と言うか、嫌いだ。
常に本音で話せと、子供じみた事を言うつもりはないが、よくもまぁあそこまで思っている事と違う事を言えるものだと感心すらする。

「‥‥それは私も、同じか」

聖女だなんだと言われ、人々の役に立てるように努めてきた。それは善意からではなく、自分の居場所を守る為でもあった。
残念ながら、人々を和ませる笑顔も、姉の様な立派なメローナも持ち合わせていませんしね。
それにしても、こんな所に人など来ないと思って油断していました。
ジル様は「また」と仰っていましたが、まさかね。引退したとは言え、元国王陛下だ。そう易々と国を出る事はできないでしょう。正規の手続きを踏んでいれば、ですが。
ふと、他の国の事を思い出した。空を飛ぶ事を許されているのは、リットランド王国だけではない。
大鷲を乗りこなす、ガルーセア。
ペガサスを乗りこなす、フィールス。
空を飛べるなど、その気になれば世界を手にする事も可能な程の戦力だが、この三大国がお互いに協定を結ぶ事で、均衡が保たれている。

「まさか、ね」

貴族はそんなに暇ではない。元国王ともなれば、なおさらだろう。きっと‥‥多分‥‥おそらく‥‥。





「ミカ! ミカはいるか⁉」

屋敷の庭に降り立つと、急いでミカを呼んだ。

「ジルフリート様‥‥そのように大きな声で呼ばずとも、聞こえております」

屋敷から燕尾服を着た、初老の男が出て来た。
俺がまだ王子だった頃には既に執事長として城で働いていたが、いったい何歳なのか。いや、そんな事はいい。

「まったく、突然飛び出していったと思ったら―――。貴方は小さい頃から―――」

小言が多いのが少々困る。

「小言はまた今度聞く。それよりも、フレスの聖女を調べてくれ。名はメルリアだ」
「フレスの聖女ですか‥‥」

ミカは自分の懐から手帳を取り出すと、パラパラとページをめくっていく。
あの手帳には、国内外問わずあらゆる事が書かれているらしい。
王子だった頃に一度だけ見ようとしたら、縄で縛られた上に樹に吊るされた。
王子にそんな事をしたら本来極刑も有りうるが、理由を聞いた当時の王(父上)は「お前が悪い」と黙認。
以来、あの手帳の事には触れずにきた。そして、それはこれからも変わらないだろう。

「メルリア・カルフォード。十八才。カルフォード家次女となっておりますが、同じ年の姉がおります」
「あ~‥‥」

なんとも貴族らしい家のようだな。

「聖女としての力の発現は五歳。フレス王国第一王子との婚姻の話は出たものの、王子側が頑なに拒否。平民からの人気は高いですが、貴族社会では少々‥‥。薄い紫色がかった銀の髪に、深緑色の瞳。サイズは上から」
「いや、そこまでで良い」

いつも思うが、どこからそんな情報を拾ってくるのか。

「あぁ。つい最近、第一王子の婚約者になった姉、レシアナ・カルフォードを害したとして小島に幽閉‥‥と見せかけて、原初の島に流されております」

そして、俺の一番知りたい情報を最後に持ってくるあたり、かなり腹黒だ。
ミカの情報ならば、間違いは無いだろう。メルリアは嘘を言っていなかったな。

「それで、どうでしたか?」
「ん?」
「お会いになられたのでしょう?」
「い‥‥いや? 俺はちょっと気分転換に行っていただけで」
「はぁ~‥‥嘘を吐く時の癖、未だに直っていないのですね、坊ちゃま」
「この歳で坊ちゃまはやめてくれ! ってか、そんな癖があったのか。俺、何してた?」
「教えてしまったら、面白‥いえ、楽しめないじゃないですか」
「言い直した上に、なお悪いわ!」

この爺は‥‥。

「出された茶に毒は無かったし、色仕掛けもなかった」
「まさか‥‥刺客の類だと思われたのですか? ブフッ」

ミカが口を押えながら、肩を揺らして笑い出した。

「聖女の中でも、真面目と品行方正の塊だと言われる聖女メルリア様が‥‥刺客‥‥色仕掛け‥‥ブフッ!」
「あんな所に女が独りでいたら、怪しむだろう」
「いくつになっても、乙女心と言うものが分かっていない。爺は悲しゅうブフッございます」
「笑いながら言うな!」

ミカと比べれば、他国の王の方が余程扱いやすい!
それにしても、今度行く時には何か持って行った方がいいかもしれんな。
本人は気付いていないかもしれないが、刺客かもしれないと疑ってしまったし。
ドレス、宝石‥‥いや、原初の森ではあまり意味がないか。ならば、生活物資か?
住む場所は問題無いから、食りょ。

「まさかとは思いますが、ご令嬢へのお詫びの品に野菜を持って行く‥‥なんて事は、ありませんよね?」
「ぐっ‥‥いや、そんな事は、ないぞ?」

どうして考えていた事が分かったんだ⁉

「まぁ、そんな事をしたら‥‥今度は一晩吊るすだけでは済みませんけど、ね」

ゾワリと悪寒が背中を走った。
ほんっと、コイツにだけは勝てる気が微塵もしないな。
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