異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第九十三話 酔って酔わせて

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第九十三話 酔って酔わせて


夕方、ヒノモトにある遊郭の門の前までやって来た。

「お、嬢ちゃん!門が開くのを見に来たのかい?」

屋台のおじさんに声を掛けられた。
鈴の形をしたカステラを売っているおじさんだ。

「こんにちは。今日は中に入ってみようかと思って」
「まぁ、ヒノモトに来たら、一度は見る観光地だからな!」
「おじさん、ダイコクヤってお店知ってる?」
「ダイコクヤを知っているかって?当然だろ!ヒノモト一の大店!男の憧れ!聖地だ!」

聖地・・・。
白菊さんのお店の名が、ダイコクヤ。カムラが教えてくれた。

「あそこは見るだけでも凄いぞ!」

おじさんと話していると、提灯を持ち、着流しを着た男性が大門の横にある潜り戸から歩み出て来た。

「宵や宵闇 今宵も夢うつつ 恋も愛も飲み干して 儚く散るは 人の夢」

ガコン!と音がなり、大門がゆっくりと開き出す。
オレンジ色の淡い光が隙間から零れ落ち、甘い香りが漂い始めた
門が完全に開くと、両側に着飾った人達が立ち並ぶ。

「ヨシワラ、開門にございます」

まるで映画の中に入った様だ。
鳥肌が全身を駆け抜け、言葉が出ない。
次々とお客さんが門の中へと吸い込まれて行く。

「嬢ちゃん?」
「ふぇい!?」

突然現実に引き戻された様で、変な声が出た。

「ははは!大丈夫かい?初めて開門を見たもんは、大体嬢ちゃんみたいになるさ」
「・・・凄かった」
「ヒノモトに来たら、これは見とかないとな!」

初めて見たのがアレだったから、正直、あまり期待はしていなかった。
別物。完全な、別物!って、飲まれている場合じゃないぞ!

「ダイコクヤは、この大通りを真っ直ぐ行った先にある。直ぐに分かるぞ!」
「ありがとう!」

大門を潜り中に入る。
客引きとお客さんの賑わい。格子の奥から艶っぽい視線でこちらを見る、綺麗な女性や男性もいる。

「真っ直ぐって言ってたな」

空気に飲まれないように歩いて行くと、大通りの突き当り、他の建物とは比べ物にならない程に大きな建物が建っていた。
両側の建物は、木造二階建て。
それに比べ、目の前の建物は同じ木造とは言え、五階建てだ。
ヒノモト一の大店と言われるだけある。
お店の前には、門番っぽい男性が立っていた。

「あの、すいません。白菊さんに」

門番の男性に声を掛けると、恭しくお辞儀をされた。

「伺っております」

てっきり、「お前みたいな子供が来る場所じゃねぇ!」とか言われるのかと思ってた。
男性が戸を開けると、中へと通された。
広い土間に、閉ざされた障子。
呆然と中へ入ると、門番さんが横にある小さな扉から中へと入って行ってしまった。
一人ぽつんと取り残され、どうしたら良いのやら。
少し待つと、門番が戻って来た。
そして、どこからともなく鈴の音が聞こえて来た。
目の前の障子戸が少しだけ開くと、音も無くスーっと開いて行く。
花魁姿に着飾った女性を筆頭に、玄関広間に数十人が座っていた。

「今宵、心ゆくまでごゆるりと」

花魁がそう言うと、全員がゆっくりと床に手を付き、頭を下げた。
一糸乱れぬその姿に、思わず見惚れてしまった。
そして、あれよあれよと言う間に、個室へと案内された。
部屋には、花魁と私だけ。
因みに、お布団等はありません!

「ヒナ様」

ヒナ様!?ああ、お客さんは皆「様」付けで呼ぶのかな?

「此度はヒノモトをお救い下さり、感謝申し上げまする」

また頭を下げられた!どうして良いか分からなくなるから、やめて欲しい!
けれど、此処でそれを言うのも無粋な気がするし・・・落ち着け、自分!

「あの、頭を上げてください。ヒノモトは私にとっても故郷の様な感じで・・・その・・・」

全く別だとは分かっているが、異世界とは言え、日本に似た文化の国が蹂躙されるのを黙って見ている事は出来ないからね。
ジローと女の子の姿を見て、頭に血が上った・・・のもあるけど。
頭を上げた花魁は、ゆっくりと微笑んだ。

「と言うか、どうして分かったんですか?」

ノア関係で施設に行った時には猫だったが、町を歩いた時は獣人の姿だった。
街中で姿を変えたわけでもないから、同一人物だとは分からない・・・はず。

「ヒノモトは、東の果ての小さな島国。とは言え、魔族領との境に一番近い国。物見遊山やら調査やら、人の行き来は絶えまへん」

少し見ただけだけど、町に活気はあった。

「人が集まる所に、銭も集まる。怖いのは何も、魔族とは限りまへん。後ろからぶっすり、なんて事も」

この世界は、平和だと思っていた。
魔物がいるせいか、皆自分の国の事でいっぱい。他国に侵略なんて、考えていなさそうだった。
実際、多少の小競り合いはあっても、戦争まで行っている国は無いとジロー達が言っていた。

「そうならない為に良い耳を持つ事も、大切なお勤め」

なるほど。諜報活動もしている、と・・・ん?

「アレストロはんは、どうにも下手どしたなぁ」

ん?

「クレッセリアは、論外」

んん?

「トーナはまぁ・・・例外中の例外、としときましょうか」

んんん?

「白い悪魔やなんて、酷いわぁ」

ひぃぃぃぃぃ!ストーカー!?

「ヒノモトでも、白猫様、言うて噂が立つほど」

白菊さんが、すすす、と私の横まで来た。

「こぉんなにも綺麗な、薄桃色やのに・・・ねぇ?」

怖い・・・この人、怖い!

「あんさんが殿方やったら、このまま縫い留める事も・・・」

さらっと怖い事言った!

「ここはヨシワラ。男も女も、夢うつつ。ヨシワラ一の色男でも、あんさんを縫い留めるんは難儀しそうやわぁ」
「あはははは・・・・・」

恋愛に興味がないわけではない。
吉原一の色男と言いうのも、そりゃあ見てみたいが・・・。
その人の隣に立つ?無理を言っちゃぁいけないよぉ。
さてはて、どうしたもんか・・・。
どうやって逃げようかと頭をフル回転していたら、白菊さんが突然笑いだした。

「ぷっ・・・ふふふふふ。堪忍。あんまりにも可愛らしくて、つい悪戯心が出てしもうて」

か、からかわれたぁ!
白菊さんが手を叩くと、襖が開いて二人の男の人がお膳を持って入って来た。

「ささやかながら、お食事を」

目の前に置かれたお膳には、「ささやか」なんて言葉が吹き飛ぶくらいの豪華な食事が乗っていた。
鯛の塩焼きや煮物、真っ白なご飯、お吸い物に、お刺身まである!
この世界に来て、自分が作ったもの意外の和食!

「ささ、一献」

男の人達が去ると、また部屋に二人きりになった。
本来なら、花魁にお酌してもらうなんてどんだけお金がかかるやら・・・。

「いただきます」

お猪口に口を付けた瞬間、ピリッとした感覚が走った。
現実だと、こんな感じなのか。
お猪口をお膳に置き、何も言わずに立ち上がった。

「おや?どうなさっ」

不思議そうに見上げる白菊さん。流石と言うか、何と言うか・・・。

「帰る」

先程の感覚。
あれは、スキルが発動した感覚だった。
私は彼女に、一服盛られたと言う事だ。
お膳を鑑定してみると、全ての皿がアウト。

「お待ちください!何か、何かお気に障る事でも」
「何って・・・私を酔わせて、どうする気だったんですか?売り飛ばす?それとも解剖?ああ、国にでも頼まれた?」

全てのお皿に入っていたのは、マタタビ。
発動したスキルは、マタタビ耐性スキルだった。
ゲーム時代、トレント討伐依頼を受けたんだが、その樹がマタタビの樹だったんだよねぇ。
毒ではないが、状態異常になって動けなかった。
何度も戦って負けて、耐性スキルを習得した。

「堪忍!堪忍しとくれやす!」

やっぱり、来るんじゃなかった。
この門の中に漂う甘い香りのせいで、匂いに気付かなかった。
縋りつかれそうになったが、避けた。引っ付かれたら転移石が発動出来ないからね。

「わっちはただ・・・」

頬を染め、熱を宿した瞳で見つめられた。
初めての時、そしてここに来てから、何度か感じていたが・・・。

「本当のお姿を、一目見とうて!」

ん?

「わっちは・・・わっちは、大の猫好きなんどす!」

はいぃ?
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