異世界着ぐるみ転生

こまちゃも

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第百三十三話 雪と古巣

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第百三十三話 雪と古巣


「おぉ~、あんた達が来てくれた冒険者かね!」
「いえ、彼女は」
「ここは雪しか無いだろう⁉ なかなか冒険者が来てくれなくてなぁ!」
「だから、彼女は」
「魔物の脅威は少ないが、中々に厳しい環境でなぁ!」

豪快と言うか、何と言うか。

「お茶が入りましたよ」
「おお! ありがとうな! ささ、外は寒かっただろう。家の婆さんが入れるお茶は美味いぞ!」
「もう、嫌ですよぉ」

なんだろう‥‥あれだ! 外国人老夫婦! 高齢になってもラブラブで、ほっぺにチュウとかする、アレだ!

「い、いただきます」

微妙な気恥ずかしさを誤魔化す為に、お茶を一口。お、濃いミルクティーだ。美味しいぃ。

「依頼の内容を」

和みかけた空気をバッサリと行ったのは、アヌリだった。

「そうだったな! これを見てくれ」

お爺さんがテーブルの上に、地図を広げた。いや、地図だよな? 手書きの超シンプル地図。 村と道っぽい線と‥‥あぁ、木か。

「花は‥‥この辺りだ。毎年村の若い者が取りに行くんだが、今年は異常な程に雪が深くてなぁ」

お爺さんが地図に丸を描いたが、超アバウト! 村と山頂の間に、ドーンと丸。

「分かった」

分かったの⁉

「では、行って来る」

早々に立ち上がったアヌリを追いかけ、お茶のお礼を言って一緒に村長さんの家を出た。

「もう! もう少し愛想良くした方が良いと思うよ?」
「エンブラスカの花は薬にもなります。無駄話をしているよりも、早々に出た方が良いかと」

要するに、今もその薬を待っている病気の人がいるかもしれないから、急いで行った方が良いと‥‥意外と優しいんだよねぇ、アヌリって。

「そっか。うん、そうだね! で、場所は本当に分かったの?」
「はい」
「へぇ~、流石冒険者だね!」
「いえ。山に住む者は、余程の事が無い限り道から逸れる事はありません。ですので、道なりに行けば、花の群生地は直ぐに見つかるかと」
「なるほどねぇ」

村に入って来た門とは逆方向の門へとやって来た。門とは言っても簡易的な物で、低めの柵があるだけだった。余裕で跨げるのだが‥‥。

「で、道は?」

一面、雪で真っ白。

「‥‥‥こちらです」

大丈夫かなぁ?

一時間程道(多分)を歩き、地図に描かれた丸があるだろう場所の近くまで山を登って来た。

「さて、どうしたもんか」

道が見えない程に真っ白だったのは、まだ序の口だった。今は、周りも真っ白。
これがテレビで見た、ホワイトアウトってやつか。

「申し訳ございません、ヒナ様」
「まぁ、しょうがないよ。 雪に慣れた村の人が異常だと言うくらいだからさ」

とは言え、そろそろお昼ご飯を兼ねて休憩入れた方が良いかもな。

「アヌリ、そろそろお昼ご飯にしない?」
「では、一度島に戻りますか?」
「ううん。今日は、ちょっと使いたい物があるんだ」

探索で見ると、丁度右側が開けた場所になっていた。

「えっと、確か‥‥ああ、あった」

アイテムポーチから、ドーム型のテントを取り出して置いた。
つい最近、アイテムポーチの中を整理しようと思って見つけたんだよね。
見た目は少し大きいカマクラ。

「こっちの世界に来る前に使っていた物なんだけどね」

ゲームの中で、とは言うまい。
いつか理想の家を建てる為、このドームテントを作って簡易的な自宅として使っていた。

「さ、入って」
「ですが、その‥‥」
「中の空間は拡張してあるから、見た目より広いから大丈夫」

ぱっと見、今の私が入ればぎゅうぎゅうになるサイズだが、扉を開けて中を見せるとアヌリが固まった。

「ね? さ、入ろう!」

アヌリの手を引いて中に入ると、ほんのり暖かい。
入って直ぐは、約二十畳のリビング。フレンドが遊びに来ても良いように、ソファやテーブル等が置いてある。

「あっちはキッチンで、そっちがトイレね。寝室も客間もあるから」
「な‥‥」
「ん?」
「す、凄い」
「ご飯用意するから、適当に座って」

呆然とするアヌリを置いて、キッチンへとやって来た。
まぁ、ああなるよね。この世界は、冒険者や行商等、旅の途中で野営する人が多い割に、こうした道具は殆ど無い。
野営と言えば、焚火と地面に敷いて寝る敷物と毛布くらい。行商なら荷台で寝るとからしい。
テントを使うと言うと、貴族が狩りに出た時の休憩用や、騎士団の遠征等。この場合はテントと言うより、天幕らしい。簡易ベッドやタンス、テーブル等も持って行くのだとセバスが教えてくれた。
もしこれをこっちの世界で売り出したら、とんでもない事になるとも言われた。
安全に、ゆっくり休める。魔物避け機能搭載で、防犯もバッチリ。便利なのになぁ。

「手伝います」
「お、ありがとう!」

キッチンに入って来たアヌリが、妙に疲れた感じになっていた。
アヌリは砂漠出身だし、雪山の寒さはキツイのかもしれない。
闇雲に探してもしょうがないし、ここで休憩して、体力を回復できると良いな。

「では、いただきます」
「いただきます」

今日のお昼ご飯は、オニオンスープとクロワッサン。クロワッサンは三種類用意。生ハムとトマト、レタス挟み。ココの実のマヨネーズ和え挟み。ミトの実のローストビーフ風挟みだ。

「とても、美味しいです」

アヌリがふわりと柔らかく笑った。口数が少なく、あまり群れたがらない彼だが、毎回食事は嬉しそうに食べてくれる。

「良かった」

食後のお茶を用意していると、アヌリが外を見ているのが見えた。
ドームの三分の一程がほぼ透明になっていて、外を見る事ができる。因みに、外からはただの白い壁に見えているので安心だ。

「どう?」

お茶の入ったマグカップを持って行く。外は相変わらずの吹雪だ。

「やはり、何か異常な気がします」
「そっか」

向こうの世界だったら、雪女とか言っちゃいそうだ。
どうしたもんかねぇ。まぁ、遭難しても転移石を使えば問題ないが、花が見つけられないと村もアヌリも困る。

「もう少し探してみようか」
「‥‥はい」

わぁ、しょんぼりしてるなぁ。
何とかしてあげたいけど、こればっかりは‥‥ぼんやりと外の吹雪を見ていると、急にアヌリに手を引かれた。
そして次の瞬間、バン! と何かがぶつかる音が聞こえて来た。

「な、何? 雪玉?」

透明に見えている部分に、大きな雪玉でも当たったのか、白い塊が引っ付いていた。
余程大きな石でも飛んで来ない限りは壊れないが、ビックリする。
白い塊が少しずつ下へと落ちて行くのを見ていると、塊がもそりと動いたのが見えた。
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