推測と仮眠と

六弥太オロア

文字の大きさ
198 / 214
  無を以て追跡と

8.

しおりを挟む
『ネタをですか』と言ってきたな。
釆原うねはらは思って、警備員を見た。
菊壽きくじゅはベンチから立って、背伸びをしている。



笑顔の警備員。と、視線を落とした。

「あ、連絡きましたよ! 騒がれている香炉の件ですね。ああー、釆原さん疑われていますよ」

『ネタ』の上に、次は名前。

「下の名前まで、出ていますか」

「出ていなくても僕分かりますよ。釆原凰介うねはらおうすけ。姉と一緒の人です」

釆原は眼を丸くした。

維鶴いづる

「ねえ、忘れちゃいました? 三日前会ったはずなのになー、僚稀ですよ」

率直に言って、顔が違った。

「ノーメイクなんす、今日」

言われて、少しずつ釆原の中で納得がいった。
色がだいぶ違う、例えば瞳や肌の色だ。
ノーメイクと言われれば、面影だけはどことなく、見覚えがあるような気がした。



「そんなに変わるものなのか?」

釆原は苦笑しながら言った。

「どう見せるかです、大事なのは!」

アバウトすぎる、と釆原は思った。






「で、僕、戸祢僚稀とねりょうきって言います」

菊壽に名刺を渡す僚稀。
菊壽も反射的に名刺を僚稀へ。

「仕事はこうですけれど、釆原さんと菊壽さんのことを疑ってはいないから、安心して。何なら、一緒に追いましょうか?」

「追うというより、接触してきた男について話して欲しい」

「うーん、そうねえ」

「数珠はしていたか」

「手元まで見なかったなあ。ただ、二人連れでしたね」

「なんかもっとこう、ありませんかね。すごく分かる特徴とか!」

菊壽が言った。
しかし『すごく分かる特徴』と言ったって、自分たちも定金から与えられた情報は虎目石と『数登すとう』という名前だけなのだ。と釆原は思った。



とりあえず経緯を整理してみる。

・遭遇した美野川心櫻みのかわみお嬢は、数登から花束を受け取った
実透宝覚じっとうほうかくは酒で潰される
・祭壇の花が足りなくなっていた
・僚稀に伝言を残して、定金春弦さだかねしゅんげん宛の小さなケースと花束を残していった
・今までのことに関係しているであろうは、葬儀屋の『数登』
・ただし金の香炉の盗みに関しては、関係性は不明
・連れの女と一緒らしい、五味田茅斗ごみたかやと(後輩)いわく



「なるほどねー。随分と不可解だな」

「何か花束以外に、何か持っていたりしなかったですかね」

僚稀が言って、そこへ菊壽が尋ねた。

「そうですね、持っていたといえば持っていたかもしれないけれど、その数登さんの連れって、女の子だったんでしょう?」

釆原は眼をぱちくりする。

「何か、都合でも悪いか?」

「いや、そういうんじゃなくて、僕に接触してきた人にも連れがいたけれど、たぶん男だったと思うなー。分かんない。いや、顔が綺麗でさ、女の子みたいだったのは間違いないです」

釆原と菊壽は顔を見合わせる。



そんなことって、ある?



「お化粧の仕方とかケアとか、教えて欲しかったなあ」

僚稀が言う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

処理中です...