推測と繋ぎし黒は

白を以て逃走と追跡につき

７．ターン

幸い、列はなかった。
仁富にとみはクレープを二つ平らげる。



「甘い」

「だろうな」

「食べないの？」

陳ノ内じんのうちは考えた。

「やめておくよ」

「定金さんは？」

仁富は言ったが姿がなかった。
陳ノ内と仁富は顔を見合わせた。
定金さだかねの失踪。どこだ。辺りを見回した。






居た。
定金は警備員と一緒である。

陳ノ内は、写真の件があったので慎重になった。
アンテナを張るには十分だ。



自分と仁富の写真のことで、ドーム外にも情報が回っているのかもしれない。
とすると、時間の問題であり、朝比あさひという葬儀屋を追うためにも行動が制限される。

「どうする？」

仁富が言った。

「追うんだよな」

「追う」

「定金さんは？」

沈黙。






陳ノ内と仁富は、定金と警備員の元へ近づく。少しずつ。
座りながら定金は青くなっている。
一方警備員は、笑っている。赤と青。

座っているのはベンチなので、『聴取』というタイトルを付けるなら、絵的には申し分ない。
ただ、相手は刑事ではなく警備員。笑いながら警備員が言っている。

「そんなにムキにならないで。ね、僕、頼まれごとをされていましてね」

緩やかな表情のまま、何やら取り出す。

「渡して欲しいって言われたんですよ。お名前は？」

「な、なんでそんなこと言わなきゃならないんです！」

「特徴がぴったりだからですよ。ねえ、そこに隠れている二人も出てきたら？」

陳ノ内と仁富は顔を見合わせる。



「捕まえやしませんよ、仕事なんですからね」

「何のための仕事だ」

「さあ」

仁富が言って、陳ノ内が返す。






男四人でベンチが埋まる。

「盗まれたのは、御存知で？」

陳ノ内は警備員に尋ねた。

「さあー、金の香炉ですか？　何も、僕のところには。外回りですからね。あ、で、頼まれごとっていうのは、『足の速い小柄な葬儀屋さんに渡してほしい』って言われたんです。名前は定金鴻さだかねさとるだって、僕に頼んできた人は言ってた。だからね、あなたが定金さんかなって思ったんですよ。特徴がぴったりなので」

定金は眼を丸くする。陳ノ内と仁富もだ。

手渡されたのは小さなケース。定金は丹念にそれを見つめている。
陳ノ内は一応ピンときた。

「渡してほしいって、私に？　誰なんですそれは」

「名乗らなかったんですよね、彼。そう、これも渡せば分かるかもしれない。定金さんなら」

言って、傍から出てきたのは白い百合の花束だった。
陳ノ内は『ピン』どころではない。
三人が三人顔を見合わせる。

「そうだろうな」

「そうだろう」

「だが、何故？」

三人は黙る。



定金は小さなケースを開けてみて、すぐ閉じたので、陳ノ内と仁富は中身を見逃した。
定金の青い顔には血色が戻った。

「渡せば分かるって、言ってましたよ」

ニコニコ言う警備員。

「恩に着ます」

定金はベンチから降りた。

「すまん、私は戻るよ。あとは頼む」

言って、定金は去って行った。






恐らく、定金に伝言を頼むよう警備員に言ったのは、朝比。
だが確証はない。
そして黒というより白。なら……

「追う？」

「追うよ」

仁富は苦笑した。

「追うって何を？　ネタをですか！」

笑顔の警備員。
そういえば誰なのかも分からない。と陳ノ内は思った。
誰なんだ。

「ねえ、あそこのクレープ美味しかったでしょう？」

「甘かったです」

仁富が言う。