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無を以て追跡と
12.
しおりを挟む追う。
通り過ぎる景色。
視界の端々に捉えるものの変化というのは楽しいものがあるけれど、それを映像として捉えている余裕が今はない。
随分脚が速い。
だが手首の青いブレスレットは釆原がドームに入ってまもなく見たものだったから、追っかけということが分かれば、あとは追うだけだった。
菊壽とは連絡を取ればそれで済むので、手掛かりの偶然性とか数登とレブラの行方とか、うまくいけば金の香炉にも辿り着けるかもしれないのだ。
なんだかレブラだけのはずが、どんどん目的が増えてゆくのだが脚が動かないと始まらない。
とうに抜けた広場を背に、立ち並ぶビル街から何もない土地へぐんぐん進む。
速度を落としたとみえ、釆原と僚稀は追いついた。
女性二人。驚いたような眼をしている。
何か言いたそうだが、釆原と僚稀も息が切れている。
視界の端にパン屋と自販機。
「お急ぎでなければ、少しお話を伺いたいと思いまして」
女性二人は顔を見合わせた。
四人で再びベンチを埋める。
少し場所は変わったが。
女性二人はレブラの追っかけに違いはないのだが、釆原と僚稀に追われているのが分かって、レブラを追う途中で身の危険を感じ、速度を上げて走ったらしい。少し。
「すいませんね誤解させちゃって」
僚稀が言って名刺を二人に渡したので収まった。
「私たちに訊きたい話ってなんですか?」
青いブレスレットの女性が言った。
「あなたがたが追っていたであろう人物のことについてなのですが」
釆原が言いかけたところで着信が入る。
菊壽だ。
音声がハンズフリーで筒抜け。
『コサインから連絡があったんだが』
「コサイン?」
青いブレスレットの女性が言う。
「というかあなた達は……」
「釆原と言います。電話の向こうのは菊壽、記者です」
釆原は菊壽に言った。
「数登の件は」
『いやすまん。情報はまだだ。コサインのコラムのことなんだが』
「連載のやつだな」
『そう。今のやつは後……』
菊壽は回数を言った。
「なんのコラムなんですか? ああ、あの、コサインなんとかさんとは違うけれど私らにも呼び名があって……」
釆原と僚稀は眼をぱちくり。
「あたしがルイス、それでこっちがイブです」
青いブレスレットの方がルイス。そしてもう一人のショートカットの髪型の女性がイブ。
「あのう、レブラのファンの間での呼び名ってことですか」
僚稀が尋ねた。
ルイスがはにかむように笑う。
「ええ、そうなんです。で、その……」
「寺院のコラムなんですよ、コサインの書いているのは」
「へえ~」
イブが言った。
「寺院ってことは、旅行とかにも沢山行ったことあったりして」
「ええ。いろんな所へ行っては負傷してくるやつでね」
「コサインさんがですか」
釆原は頷く。
「あんまり負傷するものだから、俺らが拾ったんです。その青いブレスレット、アイオライトですね」
釆原はルイスに言った。
ルイスは眼をぱちくりする。
「コサインのコラムに以前出ていましてね。似たブレスレットが。それで見覚えがありました」
ルイスは自分の手首を見つめた。
「今、数登の件で女性二人から話を訊いている。再度連絡するから」
『そうなんだ! 俺の方にはめっきり収穫がないよ。レブラを追っていたんじゃないって言うばかりでさ……。あと捜査員が結構そっちへ行っている。気を付けて』
釆原は眼をぱちくりしながら名刺を見つめていた。
『九十九社 数登珊牙』
「私たちの追いかけていた、レブラの隣に居た人にもらったんです。『おそらく記者さんが話を訊いてくるはずです。その時に渡して下さい』って」
釆原と僚稀は顔を見合わせた。
「そ、その数登って人、特徴はどんな感じでした?」
僚稀が尋ねる。
「葬儀屋さんっていうのは間違いないんですけれど、虎目石の数珠をしていて。浅黒い肌の人でした」
イブが言った。
釆原はピンどころではなかった。
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