推測と繋ぎし黒は

貳方オロア

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  青の見ゆるを土より

36.食事

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途切れた所は警備の話。
西耒路さいらいじ署での警備の話。

安紫あんじ会の若頭わかがしらである伊豆蔵蒼士いずくらそうじ
朝比堂賀あさひどうがの予想によれば、入海暁一いりうみあきかずがその替え玉をやっていた。
いずれかの段階で、伊豆蔵は入海に代わっていたということ。
として。
抗争のあとに失踪した、入海本人の話によれば。
阿麻橘あおきつ組へ捕らえられていたということで。
ただ替え玉となると話は変わって来るだろう。

怒留湯大誠ぬるゆたいせいの予想。
入海暁一の行動前後その他について。
阿麻橘組ではなく、西耒路署へ連行されていたのではないか。

その上での警備の話。
朝比あさひはトーストへ手が伸びる。

「一連の流れで言えば」

告船灯つがふねあかし

「アンタはさ。俺が入海先生の警備に当たっていた。と云いたい」

「ええまあ」

と朝比。

「それは事実確認をすれば分かることでしょう」

「では、事実確認をしても踏み込むことの出来ない部分を」

「どういうこと」

「今のところ、どなたの視点も向いていません。しかし、あなたには。入海先生を刺す動機があったのでは」

告船はトーストを皿に置いた。
残り少し。

「なるほどね」

と告船。

朝比。






署には戻らないまま。
告船はいま制服ではない。
下はジーンズ、上はパーカーのような服装。

居た喫茶は店を閉める時間になった。
さすがに時間を延ばせなかった。
というところ。

朝比は口を拭う。
トーストのカスでも拭ったか。

西耒路さいらいじ署と喫茶と。
告船と朝比は、その二つを出て。
それから今は夜道を歩いていて。
行く先はどこか。とにかく歩く。
並ぶ店が左側。道路が右手側。
通りはまだ賑わう。
今の時間で店はまだ明るい。

朝比としては。
告船を中心に考えると、辻褄が合う部分が多かった。
そんなことを道々言う。
あまり目的地がどうとかいう話はしなかった。

告船。

「アンタのいたい俺への予想はこうだ。エクセレ主催のバーチャルアイドルのライブイベントで。警備の位置その他担当をしていたのは俺。そして入海先生の自宅の警備で一役担っていたのも俺」

朝比は微笑んだ。

「恐らく」

「なに?」

「あなたが担当警備であれば。当然、なくしものはしにくいはずですね」

「そりゃまあね」

「しかし。実際には物がなくなりました」

「何度も云わなくても分かるよ」

「そして入海暁一いりうみあきかずの場合」

と朝比。

「彼の自宅にも警備がついていた」

「そうだね」

「ということは、なくし物をしにくいはずのバーチャルアイドルライブ会場。それと同様に。血痕が見つかりにくいはずの自宅。ということになります」

告船は溜息をついた。

「実際には血痕は見つかった」

「ええ。事実。入海暁一は遺体となって発見されました」

「そうだよ」

「では自宅で血痕が見つかったというのはどういうことか。自宅で何かがあったということです。そして血痕が見つかった。入海の自宅へ警備に付いていたであろう。西耒路署の鑑識。あなたであれば。入海暁一の護りが堅い中でも抜けられる」

告船はフードを上げる。

「全部予想だろう。でも」

と告船。

「ただもう。分かったよ」

「何がです」

「分かったからさ。そろそろ署に戻る」

告船は苦笑する。

朝比は告船を見つめている。

「あんたとこうしてブラブラと外を歩いていてもさ」

朝比は苦笑。

「俺が入海を刺した。だから血痕があったし、遺体もあがった。あんたはそう云いたいんだろう。ああ」

と告船。

「刺す動機については、あんた今考えているんだろう」

朝比。
告船を署まで送ることにした。
告船は来た道を真っ直ぐ引返す。
朝比もそれにならう。






日刊麒喜ききの介入。
九十九つくも社の介入。
それがなくても、入海は刺されたのかいなか。
告船の癖。盗った件。
それは自分を誇示したいためのものだった?

朝比は告船と共に署へ戻って。
刑事数人と軽く話をした。
だが怒留湯や桶結俊志おけゆいしゅんじの姿はそこにはなく。
怒留湯と桶結は今まさに、というところだった。
取調その他である。
とりあえず。
上ノ段七日生うえのだんななせは捜査の対象から外された。
朝比は署を出て、夜道へ。

署に戻った告船。
いまだ、替え玉ではない方の伊豆蔵蒼士をったのは誰か。
分からないままである。
一方で告船は話をかれることになるのだろう。






根耒生祈ねごろうぶき
彼女は起きた。
ああ。寝た。
結構寝たぞ。
出たのは寝床。
薄い掛け布団。
一応ベッドである。
シェアハウスに来てからはベッドなのである。
道羅友葉どうらともははもう起きているようだ。

シェアハウス。
今日は仕事も休み。
朝比さんは段ボール部屋で寝ている。
そのはずだ。
いつ帰って来たかは不明なのだが。

夜に西耒路署で話がお開きになったあと。
堂賀どうがさんはどこかへ行って、署へ寄って。
それで戻って来たということだけだ。

辻褄は合っているのだろうか。
どの辻褄?
私にはよく分からないけれど「果たして」ってところなんだろう。
合っていたとして。
告船さん。
告船灯つがふねあかしのことは恐らく。

次の朝になった今。
西耒路署では夜通しだったのだろうか。
と思って生祈はベッド脇で何かメモ。
束ねたバラ紙をいくつか取って、そこへ。

さて。
素顔がないということ。
素顔の上のアバターだ。
それで活動を行う。
更に、お互いに素顔を知らない状態のまま。
セッションや共同企画や。
エクセレというバーチャルアイドル事務所の方針でもあったのだろう。

告船自身、西耒路署で明かすことの出来ない部分があり。
共有していた部分もあり。
一方で、エクセレと西耒路署では共有がありつつ、アイドル同士では共有がなかったこと。
そこで膜が張られていた。

その膜の中心に居るのは告船か。
次に入海暁一か。

入海がついたであろう嘘。
入海が失踪したあとの居場所。
入海が若頭の替え玉であったなら。
告船は全てそれを把握していたとしたら。






西耒路署全体を通して関わりのある薬物になってしまったクロコダイル。
取引があったという点が浮上してきている。
既に亡くなっていた伊豆蔵蒼士の方にて、取引があったという。
で、ここまで書いて生祈は二度寝した。

堂賀さんには昨夜のことがある。
何か話を聞いていれば、話題にも上がるだろう。
で、寝た生祈。






「そうか。じゃ洋見さんがクロコダイルを巡り。そういう手を出してしまったと」

「薬物が許せなかったんじゃないでしょうか」

「そうね。とにかく原因はそこだろうね」

友葉ともは

生祈へ尋ねた。

「流れとしては。阿麻橘あおきつ組から安紫会へ行った感じなのでしょう?」

「クロコダイルがですか?」

「そう。取引があったとして。流れとして考えるのなら。その方が考えやすい」

料理担当は友葉だ。
卵料理が友葉先輩の場合だと多い。
と生祈は思う。
オムレツだ。
第一段階。
中々半熟でやると言うのは難しいと生祈は思う。
友葉がどうかはさておき。
オムレツかつ白ご飯。
友葉は料理をしながら言う。

洋見なだみさんとやらが阿麻橘組の組員を殺したって言うんでしょう? なら、洋見さんは、薬物の件で憤慨していてって考えるならさ」

朝食の席ながら。
山中にて頭部を発見した時の衝撃。
それを思い出してしまった。

「でもじゃあ」

と生祈。

「安紫会の若頭は。即破門になる禁を犯してクロコダイルを手に入れていた。ということですよね」

とても考えづらい問題である。
と思いつつ。

「洋見さんだけなんでしょうか」

「なにが?」

「安紫会の組員の中で、です。若頭が禁を犯したって知ってしまったこと」

「そうじゃないと思う。薬物の取引は一人では無理だと思うよ。例え若頭でもね」

「洋見さんが替え玉でない方の若頭を殺してしまったんだとしたら。それでも洋見さんは幹部候補であり続けたってことですよね」

「そうなるね」

と友葉。
小鍋こなべを抱えて持って来た。
それをテーブルの上へ布巾の上に置く。
朝からポトフみたいなスープである。
第二段階。

「ふう」

友葉も腰掛ける。

「安紫会では血縁が多くって。仲間割れが多かったんでしょう。だから、知っている人と知っていない人と出て。なんか派閥みたいなのもあったのかもしれない」

休みになると、スーパーなりコンビニなり。
行って買うようになった新聞だ。
友葉は新聞を拡げながら。

「内部派閥っていうか。情報を共有しているとか、そうじゃないとか。だって、薬物のことを親分が知ったら即破門なんでしょう? それだったら若頭だって破門状とか。ただじゃおかないでしょうに」

「洋見さんがもし、替え玉でない方の伊豆蔵蒼士さんを殺していたら?」

「分かんない。どっちも親分に知れたら。どっちもかもね」

「即破門ですか」

「それより重い処分なんじゃないの」

椅子を引く音。
朝比もやって来た。

「おはよう」

の合図を各々。

朝比は欠伸をする。

「堂賀さんは」

友葉。

皿を受け取る朝比。

「何がです」

「安紫会とクロコダイルの話です」

友葉と生祈で言っていた今までの件。
洋見なだみと若頭について朝比へ話す。

「あと……」

と言って友葉。

「牛乳いる人」

生祈と朝比はかぶりを振る。

「じゃあ水で」

と言って二リットル容器。

「あとですね、告船さんの方なんですけれど」

「堂賀さんは昨日の夜、西耒路署へ寄ったとか」

と生祈。
三人各々を合わせた。
食べ始める。キャベツ。
朝比はかぶりを振った。

「連絡を頂きました」

友葉。

「怒留湯さんとかから」

「ええ」

朝比は皿へ。
にんじん。

「今も継続して話を訊いているんでしょうかね。夜から朝になりましたけれど」

「そのようです。洋見さんについて」

「だよなあ」

朝比の話を、生祈なりに要約してみる。
するとどうなるか。

安紫会。
組としては、薬物ご法度であるはずだった。
一部の組員が、敵対勢力であるはずの阿麻橘組とつながっている場合。
その場合、薬物の方にも手を染めた組員が居たという話。
その手を染めた組員としてまず挙がるのは、亡くなった伊豆蔵蒼士の若頭。
ここまでは生祈と友葉で言い合ったことと同じである。

安紫会の資金源確保について。
鮫淵さめぶち親分は当然だが、即破門の禁を破っていないだろうと。
だから彼は、薬物でないルートを。
若頭は若頭で上手く資金源を確保。
と言っても薬物ルートじゃない資金源らしいが。
その正規のシノギルートはあった。という。

ただ。薬物自体でかねになるという点。
更に一点は、使う人への影響も含め。
若頭としては隠れて、そちらへ手を染めていた。
ということ。

薬物ルートは作るのに時間が掛かるという。
時間の中。安紫会の中の派閥の中で。
情報を隠しながら出来ていったルートなのかもしれない。






で。
薬物の件を知る組員と、居ない組員が内部に居た。
そのあるしゅの連絡網で、どの情報を安紫会全体へ上げ。
上へ上げ。
どの情報に膜を張るか。
実際、親分に漏れなかったのなら周到だったのだろう。
あるいは親分が間抜けだったかの、どちらかだ。

安紫会は、若頭の血縁になる組員が多かったらしい。
一方で。
洋見仁重なだみとよしげは、鮫淵支持で組に入った一人だった。
つまり血縁ではないという。
阿麻橘組の力江航靖りきえこうせいを殺害した。
それはほぼ確定。
では伊豆蔵蒼士を殺したのは?

「殺人事件がすでに二回起こっていた。あたしたちの介入以前で。ということかな」

友葉は言った。

生祈は何だか微妙な気持ちになる。

天気のいい今日。
朝からポトフのようなスープだ。
季節感がないが。
ウィンナー。にんじん。キャベツ。
コンソメ。
量もお腹に溜まるだろう。
だったら満足感も多いはずだ。
仕事も休みなのだ。
若干甘いスープだ。
だが話している話題が、大分だいぶ物騒だ。

洋見仁重なだみとよしげという人は、安紫会の幹部候補だった。
安紫会で薬物はご法度だったとしても。
殺人というのはご法度ではなかったのだろうか。
それとも組なら。組ならばこそだろうか。
即破門ものである、薬物という禁を犯すということ。
その方が、どこかの組員を殺す殺さないよりも、重大なことだったのか。

やっぱり考えが物騒になってしまうなあ。
しばし、生祈は黙々と食事へ向かう。
朝比と友葉も皿へ向かう。

「安紫会では。洋見さんが殺しをしてしまったことを知っていた組員は居たけれど。情報の住み分けで、知っている組員と知っていなかった組員が。居たってことになりますよね」

と友葉。

朝比は食べている。

生祈は箸を止めなかった。

「で」

と更に言う。

「堂賀さんが頭蓋骨を掘った段階で。阿麻橘組に何か情報が行って、抗争が起こったとか」

「さあ。それは」

と朝比は苦笑。

「あの頭蓋骨は、力江さんのものではありません。伊豆蔵さんのものです」

「あ、そうか」

で。
洋見仁重及び安紫会に掛かる諸々の事件その他。
告船が署に戻った翌日の今日も、着々と調べと取調。
やがてその情報はおおやけになるかいなか。
記者である陳ノ内じんのうちの所にも引っかかって来るであろう。
として。

食事は一段落。
改めて。

「連絡は。その他はあったんですかね」

新聞。
それを眼の前に友葉。

「ええ。主に怒留湯さんからですが」

と朝比。

「告船さんから。今も話をいていると」

「寝たんですよね」

「恐らく」

と言って朝比は苦笑。

「それは、主に入海さんのこととかで」

と言って。
友葉は口をつぐんだ。
ここから先はまた物騒になる。
と生祈は思う。






皿を重ねていく。
生祈が主に動く番だ。
食事担当が友葉だった。
役割的に言えば生祈が片づけをやるのはまあ、今までのシェアハウスの流れで行ったらそうなる。

朝比は料理はする。
だが皿のことはしない。
シェアハウスで三人なのはこういう時だ。
例えば依頼、事件、その他。
それ以外は生祈と友葉で回している。

「我々で確定事項として話を出すのは憚られる? のかもしれないけれど」

と友葉。

朝比は苦笑した。

「でもやっぱり。告船さんには動機があったのでしょう」

朝比は数枚取り出した。
紙片ではあるが新聞ではない。
西耒路署で昨日居た部屋。
資料として扱った、音声の他のもの。

友葉。
朝比の出した資料を覗き込んでいる。
生祈は皿の片付けを早々切り上げた。
皿をとりあえず重ねておく。

洗うのは、まあ、そう。
洗うよ。
洗うけれども。
と生祈は思う。
テーブルの二人へ目配せ。
生祈も腰掛けた。
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