推測と仮眠と

六弥太オロア

文字の大きさ
182 / 214
  「鳴」を取る一人

58.

しおりを挟む
  
「あのね。あんた。九十九つくも社だか、なんだか知らないけれど」

と、怒留湯基ノ介ぬるゆきのすけ
数登珊牙すとうさんがへ向けて。

桶結千鉄おけゆいちかね

「知っているでしょう。西耒路さいらいじ署でも、結構普段から、世話になっているところですよ」

「そうだっけ」

「検死では特にね。憶えていないんですか」

「細かいことは憶えていない。俺は係的に、情報もでかいのしか眼が行っていないんでね」

と、怒留湯。

「お世話になるって、つまりはさ、遺体関連のみだろう。俺だって社名くらいは知っている。知っていると思うよ」

「今更全然、説得力ないですがね。うちの署なら知っていて当然です」

「数登さんと、九十九社がつながらないし」

「それは見た目の話でしょうに」

「だよ」

「なら少し、でかい声。抑えませんか」

「分かった。とにかくだ」

怒留湯。

「あんたの捜査は正式なものじゃあない。俺らはよくよく、あんたを聴取するから。それは分かった?」

「ええ」

数登は微笑んだ。

怒留湯は急に、失速気味になる。
気圧された感じ。






数登の手元のファイル。
主に慈満寺関連の人々の情報。
載っている名前で目立つのは、

鐘搗紺慈かねつきこんじ
鐘搗深記子みきこ
円山梅内まるやまばいない
田上紫琉たがみしりゅう
岩撫衛舜いわなでえいしゅん

以下、慈満寺職員。

もう一人、

西梅枝宗次郎さいかちしゅうじろう。の情報。

慈満寺じみつじは人の出入りが激しいのだと、岩撫衛舜は言う。
提灯の明かり。
雇っている人々の数を増やしたのは、恋愛成就キャンペーン以降と彼は言う。






「一時期ですが。経営が、危なくなったとかでね」

岩撫が言った。

「慈満寺のです。だけれど恋愛成就キャンペーン以降は持ち直した、と聞きますね」

数登はそれを、黙って聞いている。

岩撫。

「正確なところは分かりませんが、資金繰りのために企画されたものだ、という噂もありますね」

「恋愛成就キャンペーンが、でしょうか」

と数登。

「ええ。私よりきっと、円山さんの方がその辺。詳しいはずです」

と岩撫。

「第一に。ここ一帯は山です。山でしょう。ね」

「ええ」

「山に関してならこの辺一帯で、例えばですね。寺もそうですけれど、小店も多い一帯なんです。土地の売買なんていう話も、出て来ましてですね」

「地下で遺体が出たとか出るとか、何かそれと、つながりがあるの。今の話は」

怒留湯は岩撫へ尋ねる。

「売買なんて話、鐘搗の御住職の口からは。一切出なかったけれど」

「つながりがあるかどうかは、さておきです。慈満寺にそんな話が出たというのを、私は否定しません」

「別の方面で、いろいろ話題が出て来たな。で? 続きも聞きたいけれど」

「ええ。桶結さんにも先程。慈満寺の上の方々にとって、捜査が行われているということ自体が。面白くないのだってね。私はお伝えしました」

怒留湯。

「どういう意味?」

岩撫。

「意味も何も。実際、鐘搗住職はそういう話を刑事さんへ。なさらなかったのでしょう」

「しなかった」

「では、なおさら捜査のしがいがあります。刑事さん方」

数登は微笑んだ。

怒留湯。

「あんたのこと。俺らはどう捉えたらいい」

「お好きなように」

怒留湯は、帽子の上から頭を掻いて。

「何かさ、とにかく正式な捜査じゃないんだから。あんたの情報は、俺らが率先して貰うからね」

「ええ」

「で」

釆原凰介うねはらおうすけが脇から。

「岩撫さんより円山さんの方が、資金繰りの話に詳しいってのは。どういうことですかね」

岩撫。

「いや、単に私よりここへいる歴が、長くてらっしゃる。その円山さんがです。同じセキュリティ担当なんかへ、こぼれる話とか。いろいろあるわけです」

「なるほど」

染ヶ山そめがやまで出土品がとれるとかいう話、あなたがたご存知です」

「知っています!」

杵屋依杏きねやいあはしんがりの位置から、挙手して言った。
ずっと聞きっぱなしだったので、そろそろ声を出してもいいかな、と彼女は思ったのである。
ようやく会話に、参加出来た依杏。

いずれにしろ、岩撫の積もる話は、まだまだ出る。
ということなのだろう。

だったら刑事さんの聴取も、細かくなって一回や二回じゃ終わらないのかなあ……。
とかちょっと、依杏は思ったり。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...