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第二章 双子の聖女
9話 聖女ミゼリコルド
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街の中央に広大な神殿を持ち、目視できるほどに強力な結界に覆われた街。それが、教会都市カムプラだった。
融和教会の総本山はこの大陸には無い。にもかかわらず、これほどの神殿と街を造れる辺りに、融和教会の力が窺える。
街の周囲には8カ所の出入り口。ここと中央の神殿は繋がっており、出入り口であると同時に結界の柱となっている。言うまでもなく警備は厳重だ。
他の人々と同じように並んでいると、鎧に身を包んだ神殿騎士が前から順に声を掛けていき、ローランの元へと来た。
「ようこそ、カムプラへ。どのようなご用件でしょうか」
「ローランと言います。2人の聖女様を拝見したいと思い、遠方から訪れました」
カムプラで聖女と呼ばれている人物は1人。敢えて2人と言ったことは、それを符丁としているからだ。
それに気づいたのか、最初から符丁の相手を探していたのか。神殿騎士はローランを列から抜けさせ、街の方へと通した。
ローランに悠長に過ごす時間は無い。パラネスが事前に手を回し、街へと入れるように手配をしてあった。
先へ通される、フードを深く被り顔の見えないローランを、列の人々は少しだけ不思議そうな目で見る。だが、神殿騎士が案内していることもあり、融和教会の関係者だと判断したのだろう。特に言及されるようなことはなかった。
神殿騎士は、教会で働く正騎士である。騎士を目指す者の中で、信心深い者は大抵が神殿騎士を希望する。あくまで所属は王国であり、勤務先が違うだけ、というのは王国側の考えだ。
教会へ、戦力を持たせることを危惧する声も昔はあったが、多くの献金などですでにそういった声は消えている。
今のところ、大きな問題が起きたことはない。むしろ教会の努力もあり、良い関係を構築していると言えた。
街の中へ入ったローランは、まず宿を取った。慣れぬ旅で、顔には疲労の色が濃い。今日一日はゆっくり休もうと、食事を取った後は、泥のように眠った。
――翌日。
目を覚ましたローランは体の状態を確認する。
まだ癒えきっていない傷跡には鈍い痛みがある。旅の疲れで体は重く、頭の働きも少し悪い。
だがそれは想定の範囲内であり、ローランは身支度を整え、宿を後にした。
向かった先は教会都市カムプラの中央にある神殿。
朝も早いのに、すでに人の群れができていた。
肩と肩がぶつかり合うような状態であるが、争いごとなどは起きていない。神殿の厳かな空気が、そういった揉め事を押さえているようにも感じられた。
神殿の中央には大きな広間。そこから枝分かれし、各宗派の礼拝堂などの建物へと通じている。
ローランが目指したのは、メルクーア王国の主派である女神マイムの礼拝堂だった。
奥には巨大な女神マイムの石像。祭壇からは青いカーペットが伸びており、その横には複数の木の長椅子が並べられていた。
石像の近くにある少し開けた空間には人々が集まっている。聞こえて来る声からして、そこには噂の聖女がいるようだが、その姿は確認できない。
ローランは両膝を着き、胸に当てた手を交差させ、静かに頭を下げた。
これは、各宗派で通ずる一般的な祈りの礼式だ。本来は全ての宗派で祈り方は変わるが、融和教会が、この礼式を広めた。小難しい礼式よりも、信心を集めることを優先した結果とも言える。
短い祈りを終えたローランは、上の階へと上がり、手すりから礼拝堂を見下ろした。
視線の先には人々の群れ。取り囲まれているのは、喉元に触れながら穏やかな笑みで話を聞く少女。
長く癖のない真っ直ぐな青髪に緑の瞳。背には小柄な体躯に合った小さな一対の白い翼。
すでに完成されているようにも見えるが、まだこれからさらに美しくなっていくことが予期できるような外見をした少女こそが、聖女ミゼリコルド・ヴェールであった。
若干12歳にして聖女と呼ばれるだけのことはあり、彼女から醸し出される空気は厳かで、周囲の空気を浄化しているかのようにも感じられる。
背中に翼があるのは、彼女がオラトリオと呼ばれる種族だからだ。オラトリオはその美しさと鳥のような翼を備えていることから、神の加護を受けし者、地上に降りた天使とまで言われていた。
誰もが聖女だけに目を向けていたが、ローランはその後ろにいる数人の中に、目的の人物を見つけていた。
容姿はミゼリコルドによく似ているが、その髪は所々がクシャッと波打っている、癖のついた髪。身長はミゼリコルドよりも少し低いかもしれない。
少女の名はラフマ・ヴェール。聖女の双子の妹だ。
柔らかな笑顔のミゼリコルドとは違い、顔を崩して全面でラフマは笑う。活発そうだなというのが、ラフマへの第一印象だった。
人だかりの中へ入るわけにも行かず、どう接触するかをローランが考えていると、一瞬だけミゼリコルドと目が合う。
そのことにローランは驚き、瞬きをする。
だが瞬きを終え見直したときには、ミゼリコルドはすでにローランを見ておらず、柔らかい笑顔で信徒たちの話を聞いていた。
「……気のせい、か?」
まだ疲労が残っており勘違いしたのだろうと判断し、ローランは神殿を後にする。
その背を、また一瞬だけミゼリコルドが見ていたことには気づかぬまま。
融和教会の総本山はこの大陸には無い。にもかかわらず、これほどの神殿と街を造れる辺りに、融和教会の力が窺える。
街の周囲には8カ所の出入り口。ここと中央の神殿は繋がっており、出入り口であると同時に結界の柱となっている。言うまでもなく警備は厳重だ。
他の人々と同じように並んでいると、鎧に身を包んだ神殿騎士が前から順に声を掛けていき、ローランの元へと来た。
「ようこそ、カムプラへ。どのようなご用件でしょうか」
「ローランと言います。2人の聖女様を拝見したいと思い、遠方から訪れました」
カムプラで聖女と呼ばれている人物は1人。敢えて2人と言ったことは、それを符丁としているからだ。
それに気づいたのか、最初から符丁の相手を探していたのか。神殿騎士はローランを列から抜けさせ、街の方へと通した。
ローランに悠長に過ごす時間は無い。パラネスが事前に手を回し、街へと入れるように手配をしてあった。
先へ通される、フードを深く被り顔の見えないローランを、列の人々は少しだけ不思議そうな目で見る。だが、神殿騎士が案内していることもあり、融和教会の関係者だと判断したのだろう。特に言及されるようなことはなかった。
神殿騎士は、教会で働く正騎士である。騎士を目指す者の中で、信心深い者は大抵が神殿騎士を希望する。あくまで所属は王国であり、勤務先が違うだけ、というのは王国側の考えだ。
教会へ、戦力を持たせることを危惧する声も昔はあったが、多くの献金などですでにそういった声は消えている。
今のところ、大きな問題が起きたことはない。むしろ教会の努力もあり、良い関係を構築していると言えた。
街の中へ入ったローランは、まず宿を取った。慣れぬ旅で、顔には疲労の色が濃い。今日一日はゆっくり休もうと、食事を取った後は、泥のように眠った。
――翌日。
目を覚ましたローランは体の状態を確認する。
まだ癒えきっていない傷跡には鈍い痛みがある。旅の疲れで体は重く、頭の働きも少し悪い。
だがそれは想定の範囲内であり、ローランは身支度を整え、宿を後にした。
向かった先は教会都市カムプラの中央にある神殿。
朝も早いのに、すでに人の群れができていた。
肩と肩がぶつかり合うような状態であるが、争いごとなどは起きていない。神殿の厳かな空気が、そういった揉め事を押さえているようにも感じられた。
神殿の中央には大きな広間。そこから枝分かれし、各宗派の礼拝堂などの建物へと通じている。
ローランが目指したのは、メルクーア王国の主派である女神マイムの礼拝堂だった。
奥には巨大な女神マイムの石像。祭壇からは青いカーペットが伸びており、その横には複数の木の長椅子が並べられていた。
石像の近くにある少し開けた空間には人々が集まっている。聞こえて来る声からして、そこには噂の聖女がいるようだが、その姿は確認できない。
ローランは両膝を着き、胸に当てた手を交差させ、静かに頭を下げた。
これは、各宗派で通ずる一般的な祈りの礼式だ。本来は全ての宗派で祈り方は変わるが、融和教会が、この礼式を広めた。小難しい礼式よりも、信心を集めることを優先した結果とも言える。
短い祈りを終えたローランは、上の階へと上がり、手すりから礼拝堂を見下ろした。
視線の先には人々の群れ。取り囲まれているのは、喉元に触れながら穏やかな笑みで話を聞く少女。
長く癖のない真っ直ぐな青髪に緑の瞳。背には小柄な体躯に合った小さな一対の白い翼。
すでに完成されているようにも見えるが、まだこれからさらに美しくなっていくことが予期できるような外見をした少女こそが、聖女ミゼリコルド・ヴェールであった。
若干12歳にして聖女と呼ばれるだけのことはあり、彼女から醸し出される空気は厳かで、周囲の空気を浄化しているかのようにも感じられる。
背中に翼があるのは、彼女がオラトリオと呼ばれる種族だからだ。オラトリオはその美しさと鳥のような翼を備えていることから、神の加護を受けし者、地上に降りた天使とまで言われていた。
誰もが聖女だけに目を向けていたが、ローランはその後ろにいる数人の中に、目的の人物を見つけていた。
容姿はミゼリコルドによく似ているが、その髪は所々がクシャッと波打っている、癖のついた髪。身長はミゼリコルドよりも少し低いかもしれない。
少女の名はラフマ・ヴェール。聖女の双子の妹だ。
柔らかな笑顔のミゼリコルドとは違い、顔を崩して全面でラフマは笑う。活発そうだなというのが、ラフマへの第一印象だった。
人だかりの中へ入るわけにも行かず、どう接触するかをローランが考えていると、一瞬だけミゼリコルドと目が合う。
そのことにローランは驚き、瞬きをする。
だが瞬きを終え見直したときには、ミゼリコルドはすでにローランを見ておらず、柔らかい笑顔で信徒たちの話を聞いていた。
「……気のせい、か?」
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その背を、また一瞬だけミゼリコルドが見ていたことには気づかぬまま。
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