ここは、変愛の国。

yuria

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そもそも、何で結婚したのか?

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    遠峯、藤香。とうみね、とうかではなく、これは、とうみねふじかとお読みください。
    やや難読の気はあるかもだけど、それは親に言ってって感じ。これはこれで、私自身は気に入っていたりもする。ちなみに名前だけじゃなく、性格、もしくは性質にもやや難があるのが私だ。

   小学生の時から、それは始まった。
「ねぇねぇ、ふじかちゃんって好きな人いる?」
「え?好きな人って何?」
   
   それ言った瞬間だった。

え?お前マジで好きな人とか知んないの?かっこいいなぁとか、付き合いたい人の事だよ。おっまえ遅れてんな~。男子やめなよぅ。ふじかちゃんはまだ見つかってないだけで、これからなんだよ。やいのやいのなった。けど、付き合うって何?って訊いたらまた面倒だと思って、とりあえずうんとかすんとか言ってた気がする。

   さっぱり分からぬ。好きな人とは何ぞや。

   かっこいいなと思う人、優しいなぁと思う人、面白いなぁと思う人、とりあえず人には色々感想はもってたけど、好きな人とかいう特別感のある気持ちにはならなかった。
    周りの女の子は、お手手繋ぎたいだの、ハグされたいだの、キスしたいだの、おませな子はセックスって痛いのかなだの、恋バナ全盛期。
   
   多くの女子は、一体いつからそんな事を予習していたのかと、私は本気でビビっていた。あれれ卒園の寸前まで、さっぱり男女の意識なんてなかったはず。それが小学校に上がった瞬間、ランドセルを赤と黒に分けたというだけで、知恵の実を一杯食わされたような事態になるなんて。
   たったそれだけで、私は何だか置いてけぼりになった。それでも、何とか女子の輪の中について行きたいという気持ちもあり。
   「りぼん」「なかよし」「ちゃお」という恋する乙女の3大バイブルを、私は中学に上がるまで3誌とも定期購読し、恋愛の何たるかを必死で学び取ろうとした。告白のシーンを音読したり、ズキン…!ドキン…!キュンッ、などのオノマトペも懇切丁寧に読み上げていた。当時の私を駆り立てていたのは、恋愛って何?何がそんなに良いの?誰か教えて?分からなくて、辛くて怖い、という底なし沼の様な不安だった。
   とはいえ結局、どんなに読み尽くしても、ピンとは来なかったのだが。

  分からない。

  好きになるって事が。
  
  ドキドキするって事が。

   分からない。

  ただ、分からないものの、何故か興味はあった。人が恋するということによって、日常がドラマチックになったり、心が豊かになったりする事を、単純に面白いと感じていた。恋愛感情が分からないからこそ、私にとって恋は心の魔法なんだと思えたのかもしれない。
   主人公は一体誰と結ばれるんだろう。恋のライバル出現!どうなる主人公!これって次はどうなるんだろう。少女漫画のストーリーには、そんな風にわくわくしていた。
    友達とかは、よく流行りのラブソングと一緒に読むと、がっちり感情移入するタイプらしかった。中学からは、私もそうやって作品の持つムード感を、より楽しむようになっていた。世代的には宇多田ヒカルとか、浜崎あゆみなんかを良く聴いていた気がする。
    そんな訳で、ある意味では恋に恋する乙女な私であった。
    
 ただ、やっぱり孤独ではあった。
  
 人間的な感情の欠落や、精神異常を疑ってしまうこともあった。自分はやっぱり、どこかおかしい。人とは違う。アセクシャルという言葉を知る前の私は、そんなふうに漠然とした不安と格闘していた。


 アセクシャル(無性愛者)とは、他者にたいして恒常的な恋愛感情や性的欲求を抱かない者を指す。世界人口の1%ほど存在し、同性愛や両性愛に対してあまり知られていない。
 変な話だと思う。数えきれない程の人間がいて、正確に遡りきれないほどに人類の歴史があるのに、性愛を持たないマイノリティが余り知られていないだなんて。恋愛という要素がそりゃあ世の中の成り立ちに欠かすことのできないものであろうことは承知してるけどもさ。不公平だ、我々に光は指さないのか。くっそ腹立つ。
 ただ、幸いにも私は顔とスタイルが無双レベルだった。男も女も一凪ぎにメロメロにする微笑みに、マイナスイオンの混じった美声、人の反感を買わない程度の愛嬌と知性を誇っていた。完璧超人、強くてニューゲーム、エルフ、それが私であった。誰が見たって、リア充。まあ実際は、猫にカートコバーンもいいとこだったけど。

 だから物は試しと思って彼氏を作ったりするのなんか、本当に容易かった。キスやセックスの経験も人並み以上にはあるだろう。ただ相手がどんなイケメンでも、どんな人格者でも、どんなにレディーファーストに長けた男であっても、私は無感動でそして不感症だった。とにかく向いていないことを痛感した。もうやっても意味のないことと割りきるまでに学生時代の大半を費やした。それこそ人とは違う、思春期のこじれかただったように思う。
 
 いまは違う。アセクシャルである自分を知り、その事実を受け入れた今、ようやく自分らしい人生の展望が見えてきた。恋愛に時間を割かない分、自分の趣味や仕事に没頭できるので、それはそれは充実できた。もともと私は読書好きの活字中毒なので、当初は小説家を志していた。しかしながら、細やかな心理描写を描くという点においてアセクシャルの特性が邪魔をした。思春期に恋愛ジャンルばかりを読み漁った関係で、思いつくネタは恋愛モノが圧倒的に多かったのだが、細かい心理プロセスとなると自分のなかではどうしても限界があった。告白されたときと、キスされたときの、ドキドキの違いって何だ?振られたときの胸の痛みって何だ?恥や屈辱の感情とどう異なるのだ?といった共感性を問われるようなセンテンスが、まるっきり出てこない、そもそもそんな感情が生まれたときから私には存在しないのだからどうしようもなかった。
 
 そこで私は閃いた。そうだ、シナリオライターになろう。セリフのみでストーリーが進行し、舞台設定や演出はスタッフや役者が何とかなれば良いだろうというあの脚本家という職業。私はそれに賭けた。そして、一躍大ブレイクした。

  ブレイクした背景には、私のこの持ち前の美貌と、高学歴が故の達者なトーク力、そしてアセクシャルであるが故の読めないストーリー展開がウケたことにある。情報番組やバラエティに連日引っ張りだこ、雑誌のグラビアを飾れば部数を大幅に伸ばし、平均視聴率25%台を叩き出す脚本家としての手腕は向かうところ敵なし。つまるところ私はこの業界において一躍時の人となった。

 さて、駆け足で説明しました私のこれまでの半生。ほんとうは、もっと語れる要素がいくらでもあるのですが、さすがに話が進まないので、大体こんな感じで飲み込んで頂けたらと思います。後ほど、補足する可能性もなきにしもあらずなので、よろしくお付き合いくださいませ。


  そろそろ時生との出逢いについて、語る事にしよう。後に私の夫となり、そして離婚するとこになる超人気俳優・風見時生。
   初めて会ったのは、人生初の月9ドラマの脚本を手掛けることになったとき。
その日は挨拶がてら、ちょっと良い料亭で食事しましょうという事だった。監督の山崎竜さんと、私と、時生側では事務所社長とマネージャーも同席とあって、何だか物々しかったのを覚えている。
時生は事務所的に、相当なゴリ推し商品だった。大してキャリアの無い新人を、CM、ドラマ、映画の情報過多で世の人々の脳に、きざは
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みんなの感想(1件)

深夜 朔
2020.10.22 深夜 朔

あなたの書く文が好きです
続き、待ってます

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