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第9話 ついに決別しました
しおりを挟むパーティーの支度は魔法生物のカワウソが手伝ってくれたのですが、荷物を開けたら見知らぬ髪飾りが入ってました。指輪と同じラベンダー色の翡翠でできた髪飾りです。
これをつけたらどこからどう見てもジルドのものって感じがしますね。ミケちゃんの言っていた「偏執的な変態」の意味がちょっとだけわかってきた気がします。
そしてドレスはあの真っ赤なオーダー品です。王国の人が見たらきっと驚くでしょうね。でもそもそもわたくしが生きていることに驚いて、ドレスどころではないですね。
支度を終えたわたくしをジルドが迎えに来てくれました。視察団は一斉に入場するのですけど、その中においてもジルドがエスコートしてくださるんですって。
貴族社会で育ったわたくしにとっても、エスコートの手があるほうが緊張せずにすみますからありがたいお申し出です。
「さあ、ついに幽霊のお披露目だ」
「みなさんきっと腰を抜かすわね。あら、何か動きが硬くてよ。緊張しているの?」
「そりゃ緊張もするでしょ。大事な宝物がここに残りたいって言ったらどうしようとか、心無い奴らに傷つけられたらどうしようとか」
傷ついたと認めることは悲しいという感情を認めるのと同義です。だからわたくしは未だかつてこの王城で誰かに傷つけられたことなどありませんでした。
でも大事な宝物だと言ってくれる人がいる。そうすると宝物であるわたくし自身を守らないといけないと思えてきます。そうよ、わたくしは確かに傷ついていた。けれど、もう誰にも傷なんてつけさせないの。
「わたくし気づかない振りをしていただけで、ずっと傷ついていたのね。でも大丈夫よ、わたくしはちょっとだけ強くなったの」
「強くなっても守らせてくれる?」
「あなたが守ってくれるから強くなったのよ」
ふふふとふたりで笑い合って、いざ入場です。
パーティーに参加する全ての貴族と王族がすでに会場内に入っていて、主賓であるわたくしたちを待っています。侍従による案内とともに目の前の扉が大きく開きました。
絢爛たる王城のホール。あの婚約破棄があったベルトルド殿下のお誕生日パーティー以来ですから半年ぶりですね。季節は春から秋へと変わりましたが、王家の権勢は今が盛りと咲き誇っているのが豪奢なホールの様子から見てとれます。
大きな拍手で迎えられたはずが、わたくしたちが進むごとにその拍手が小さくなっていきます。代わりにざわめきが波のように広がって行く。そこかしこで「ピエリナ」の名が聞こえてきました。
思わず手に力が入ってしまったけれど、ジルドがこちらを見て微笑んでくれたから大丈夫。ええ、もう大丈夫よ。
彼を安心させようと微笑み返したら、ざわめきが一層大きくなりました。「笑った」じゃないんですよ、わたくしだってたまには笑います。いえ、本当はもっと笑いたかったのです。笑わなくさせたのはあなた方じゃないの。
会場は奥へ向かうごとに身分が高くなる傾向にあり、最奥に王族、その手前に公爵家となります。そうです、わたくしの両親や両親になるはずだった人たちがいるのです。
「ピ、ピエリナ……」
父だった人、サヴィーニ公爵が呟きました。隣に立つ母共々その顔面は蒼白で、娘との再会を喜んでいる風ではありませんね。
「ピエリナなのかっ?」
国王陛下が目を丸くして一歩前へ踏み出しました。宗主国からの客人を迎えるにおいては王族といえど壇上に上がっていたりはしません。すぐ目の前に国王が、そして王太子ベルトルドとその婚約者クラリッサ嬢がいます。
「なんで……?」
眉をひそめ、そうこぼすクラリッサ嬢の横から背の高い人が近づいて来ました。深い青の瞳のベルトルド殿下です。
「ああ、ピエリナ。生きていたのか! 君がこの世を去ったと聞き、悲しみのあまり私は生きながらに死んでいたのだ!」
はい?
ちょっと何をおっしゃっているのかわからなくて言葉が出ません。
こちらに伸びてきたベルトルド殿下の手を遮るように、ジルドが一歩前へと出ました。
「まずは挨拶をさせていただいても?」
「あ、ああ。もちろんでございます」
国王陛下が頷き、わたくしたちはお互いに形式的な……それどころではないという表情を隠すことさえできないほど形だけのご挨拶をいたしました。
意識的に動かせないクラリッサ嬢の淑女の礼など見るに堪えない出来です。これで王太子妃になろうとは。いえ、これをよしとするのならわたくしだってもう少しくらいマナーのお勉強の時間を減らしてくださってもよかったのでは?
挨拶を終え、皆さんの興味はもちろんわたくしがどうやって生き長らえたのかということでした。連れ去ろうとしたリントヴルムからジルドに助けられ、帝国で療養しているうちに自身の訃報を知った――と、まぁ基本的に嘘ではありませんからね。連れ去るところからすでにジルドの計画だったことを伏せているだけで。
お父様はわたくしを抱き締めて「よかった」とおっしゃいました。抱き締められたのは十数年ぶりです。お母様も目尻をハンカチで拭いながら「奇跡ね」とおっしゃいました。建前だけの信仰心しかお持ちでないはずなのに。
「しかし」
お父様がわたくしの全身をじろりと見て口を開きました。
「ほかにドレスは用意できなかったのか? 吾輩が今から着替えを用意してやるから着替えなさい」
「なぜ?」
「なぜってそんな色、はしたないだろう。普段より露出も多いし……」
「先ほどの挨拶、聞いていらっしゃいませんでしたか?」
わたくしの反応がいつもと違うと気付いたのか、お父様は口を噤んでわたくしを見つめました。
「わたくしはピエリナ……ゼラ・リジュラでございます、サヴィーニ公爵閣下」
もう王太子の婚約者ではない、公爵令嬢でもない、あなたの娘ではない。
足が震えましたが、ジルドが腰に手をまわして支えてくれました。ちゃんと過去と決別ができましたね。そう、わたくしはもう誰かの顔色を窺う必要なんてないの。
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