22 / 32
第22話 こんなものが図書館に!
しおりを挟むダンスでふいに投げかけられた謎かけは、私にはわからないままでした。
どうしてあんなに寂しそうな顔をしていたのかしらとか、ひとりで踊ってるってどういう意味かしらとか、それを考えてばかりで夜もあんまり眠れなくて。
何か本でも読もうかしらって考えたときに、私、気付いてしまったんです。借りた本を返してなかったって!
まずいですよコレは。完璧人間エメリナにあるまじき失敗です!
本を抱えて図書館に急ぎました。ごめんなさいって謝罪しつつ、いつもの司書の先生に本を渡すと彼は一瞬だけこちらを見ました。一体どういう感情なんでしょうか、アレ。またアーサー様に報告するのかしら?
せっかくなので面白い本はないかと文芸の棚のほうへ向かいます。いつも図書館で手にとるのは学術書ばかりですから、ちょっとワクワクします。まさかロマンス小説みたいなものは置いてないと思いますけど。
あった、ありました。恋愛小説と思われるものが。読みたい……でも読んだら報告されるかしら。んー……。
いえ、私ったら何を躊躇してるのかしら。報告されて困るようなことじゃないですものね。恥ずかしがるような趣味じゃないですし。そうよそうよ、堂々としてればいいんだわ!
何の気なしに手に取ったタイトルをペラペラとめくっていくと、途中で違和感を覚え手が止まりました。普通の小説ではあまり目にしない擬音が見えた気がしたのです。ページを少し戻って文字を追ってみます。
『ヒルケスは強引にセブリーの唇をふさぐ。両手を壁に押さえつけられ、両足の間にはヒルケスの筋肉質な膝が割り込んで来た』
んん……?
『空気を求め喘ぐセブリーの口中にヒルケスの舌が強引に――』
きゃあああああああああ!
これ、これ、エ、エロティカってやつですね!
いいですか、ロマンス小説には様々な小ジャンルが縦横無尽にあります。まずは歴史モノか現代モノか。加えて吸血鬼や悪魔、または人狼のような変身モノを扱うパラノーマルかそうでないか、異世界かそうでないか、とか。そういった複数のコンセプトの中にエロティカがあります。濃厚な官能シーンを含み、もはやポルノ!
私は前世において、こういった官能的なシーンの少ないものを好んで読んでいましたから、耐性がありません。いけません、こんなの学院の図書館に置いておくなんて駄目です。風紀が乱れます! 不道徳です!
思わず腕を伸ばして本を持つ手をグッと遠ざけ、顔を背けてしまいました。ああびっくりした。どどどどどうしましょうか、教育委員会に訴え……あら、この世界に教育委員会なんてあったかしら。
「言葉とは裏腹に、セブリーの腰は蛇のごとく」
「きゃあああああああ!」
「シッ」
口を抑えられました。ホガホガ言いながら声の主を見れば、それはもちろんアーサー様で。静かにしますと目で訴えたらやっと手を離してくれました。あと、本も取られました。
「驚いたな。こういった本も読むんだね」
「読みません」
「恥ずかしがることじゃない、むしろ君がこういったことに興味を」
「内容を知らなかったんです」
「そういうことにしておこうか」
本当なのに! いえ、そりゃあ興味くらいはありますけども!
アーサー様がニコニコといい笑顔で本をこちらへ差し出したので、ぷいと顔を逸らして見なかったことにしました。ちょっと子供じみた行いですが、私の主張を信じてくれない腹いせです。フン。
彼はクツクツと笑いながら本を棚に戻しました。
「アーサー様も本をお探しでしたか?」
「ん、いや。君がここへ来るのが見えたから」
私に用があったのでしょうか?
首を傾げて真意を問うと、彼はスミレ色の瞳を片方だけパチリと閉じました。
「今夜も満月だそうだよ。教務棟の屋上に続く扉の鍵を開けておくから、日が落ちたらおいで」
一瞬、何を言われたかわからなくて何度か瞬きをしました。
「お月見ですか」
「そ。ひとりで見たって、どうせ君に会いたくなるからね」
そう言ってアーサー様は図書館を出て行ってしまいました。足が長いせいか、あっという間に姿が見えなくなります。
私ももう本を読むような気分ではなくなってしまったので、ゆっくりと図書館を出ました。
なるほど、お月見。以前もワインを持って一緒に見ようって女子寮に侵入していらっしゃったことがありましたね。また同じことをするよりはマシ……なわけないですよねっ?
うわ、びっくりした。あやうく騙されるところだった。
普通、屋上は立ち入り禁止ってどこの学校だって決まってるんです。いくらなんでも王族の権力振り回しすぎてませんか、まったくもう。それに日が落ちてから男女が密会なんて破廉恥です、破廉恥!
……でも、ちょっとくらいなら規則を破るのも青春には大事、ですよね。きっと。
あ、そう言えば昨日、侍女がまたお菓子を持って来てくれたんでした。服はどうしましょう、制服だともしかしたら汚してしまうかもしれないし。何かちょうどいいドレスがあるといいのだけど。
でもでも、それだとなんだか浮かれてると思われてしまうかしら。
やっぱり制服のままでいい? どうしましょう、わからないわ。招待なさるならせめてドレスコードくらい伝えてくれればいいのに!
と、ブツブツ独り言を言いながら歩いていると、前方で誰かが足を止めました。
「エメリナさま? どうかしましたか?」
マリナレッタさんです。よかった! 制服とドレス、どちらにすべきか意見を聞いてみましょう。
10
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
転生令嬢は捨てられた元婚約者に微笑む~悪役にされたけど、今さら愛されてももう遅い~
exdonuts
恋愛
前世で酷く裏切られ、婚約破棄された伯爵令嬢リリアーナ。涙の最期を迎えたはずが、気づけば婚約破棄より三年前の自分に転生していた。
今度こそもう誰にも傷つけられない——そう誓ったリリアーナは、静かに運命を書き換えていく。かつて彼女を見下し利用した人々が、ひとり、またひとりと破滅していく中……。
「リリアーナ、君だけを愛している」
元婚約者が涙ながらに悔やんでも、彼女の心はもう戻らない。
傷ついた令嬢が笑顔で世界を制す、ざまぁ&溺愛の王道転生ロマンス!
気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした
ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました
ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。
壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる