正直な悪役令嬢は婚約破棄を応援しています~殿下、ヒロインさんを見てあげてください!私を溺愛している場合じゃありません!

伊賀海栗

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第23話 ふたりだけの屋上パーティーです

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 マリナレッタさんのアドバイスに従い、白地に紺のストライプが斜めに入ったデイドレスで屋上へと向かいました。日中にお散歩しただけでわざわざコレのために着替えたわけではありません、というアピールです。
 とは言え編み込んだ髪をまとめるスミレ色のリボンや、持参したフィナンシェが私の浮かれ具合を隠しきれていないのですけど。……まぁ、いっか。

 重い扉を開けると、屋上の真ん中にティーテーブルが用意されていました。椅子の上にはクッションがあって、片方の椅子の背にはショールのようなものも。テーブルの真ん中には真っ赤な薔薇が。
 顔を上げたアーサー様は一瞬だけ目をまん丸にして、柔らかく微笑みました。

「可愛いね」

 それは私のドレスについて言っているのか、それともドレスに着替えて来た私の心情を指しているのかわからなくて、でもどちらにしても恥ずかしい気がして息を飲みました。急に頬が火照ってきたようです。

「あり、ありがとうございます。アーサー様も……」

 アーサー様の装いも、ミッドナイトブルーの上下に銀に煌めくクラバットでした。その姿に、つい先ほどああでもないこうでもないとドレスを選んだ自分自身の気持ちを重ねてしまって、言葉が続けられません。
 一度恥ずかしいと思ってしまったら上手に目を合わせられなくて、つい俯いてしまいます。こんなの公爵令嬢エメリナじゃないのに!

「ほら、こっちへ」

 アーサー様がおそばにいらっしゃって、手を差し伸べてくれました。ぎこちなく重ねた私の手を、彼が優しく握ってくださいます。なぜでしょう、今日の私は何も上手にできませんね。

 右手側から一歩前へ出て、私の持参したお菓子を受け取ってくれた人物がいます。あまりにも自然な流れだったのでアーサー様のお連れになった従僕のひとりと思ったのですけど、司書の先生でした。びっくりした、本当にびっくりしました。

 司書の先生を二度見する私に、アーサー様が笑いをこらえながら「俺の駒だから」と言います。いや存じておりますけれども、驚いたのはそこじゃないです。ああびっくりした。

 おかげで少しだけ冷静さを取り戻したところで、アーサー様のエスコートで席へ。

「今日のエメリナは本当に可愛いね。俺がエメリナだ」

「え……っと?」

 言葉の意味がよくわかりません。理解したかったエメリナというのは、つまり積極的義務感を持ったエメリナです? 今の私はどこにも積極性などないので、そういうことではないのですよね?

 私が聞き返したとき、司書の先生がコトリと音をさせながらテーブルへ皿を並べました。私の持参したフィナンシェです。給仕が本職ではないにせよ音を立てたのはミスではなく、別の意図があるのでしょう。アーサー様は苦笑しながら頷きました。

「口説く前にすべきことがあるだろと言いたいらしい。ちょっと例の件で話をしていいかな?」

「ええ、もちろん」

 恐らくスラットリー男爵家のことでしょう。むしろ私にはありがたいことです。いつもと違う雰囲気だったせいで心臓がバクバクとうるさくて。

「男爵家の調査はあらかた終わったらしい」

「男爵は」

「夫人に知られないよう薬や栄養剤を与えてる。一時はかなり危なかったようだけど、間に合ったよ。エメリナのおかげだ」

 調査の進捗は定期的に報告をもらっていましたが、今まで男爵に直接的に接触するのが難しいと聞いていたので、この報告に胸をなでおろしました。
 これまで私の前世の知識などまるで必要ないほど順調に捜査を進めていて、王家直属の部隊って怖いなぁと思ったものです。でも、私のおかげだと言ってもらえてちょっとだけ誇らしい気持ち。

 つづけて最後の進捗報告、いえ、調査結果を聞いて、私はホッと小さく息を吐きました。

「でも……偽の帳簿を用意しておくなんて思ったより頭がまわる執事でしたね」

「マリナレッタ嬢が戻ったときのためだろうね」

 今回アーサー様はマリナレッタさんの依頼という名目で、領地経営のサポートをさせるため公証人を派遣しました。この国で言う公証人は日本のそれとは少し違って、領地管理、領地経営に関わる法の専門家なのだとか。
 執事の仕事を軽減させるためのものですし、王家から派遣された人物を門前払いなどできません。そのため問題なく運営できていることを証明して、早々に公証人を追いだそうと躍起になるわけです。

 マリナレッタさんのところにも、依頼を撤回するよう何度か連絡があったと聞いています。

 でも本命は公証人による監督ではありません。執事と公証人とが反目し合っている裏で、実働隊が殺人をはじめとしたあらゆる犯罪の証拠を集めていたのです。

「後妻と執事に繋がりがあることはわかってましたけど、医師もだったなんて」

「予言書には書いてなかった?」

「そうですね、それは知りませんでした」

 きっと作者が存在を忘れていたんだと思います。知りませんけど。
 深く息を吐いて、アーサー様が椅子へ背中を預けます。

「で、あとは罪人を捕らえるだけなんだけど、念のため確認しておこうと思ってね。スラットリー男爵家について、他に知ってることはもうない?」

「はい、スラットリー家に関して言えば問題になるようなことは特にないと思います」

 私がそう言うなり、司書の先生がその場を離れました。恐らく、男爵領へ連絡するのでしょう。これでまた一つ、ストーリーが進みます。

「月が綺麗だ」

 アーサー様が呟きました。


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