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第6話 間一髪、そして再開
しおりを挟むこれで前線で戦うのは私ひとり。竜二も接近戦ができないわけじゃないけど、このレベルだと一撃でやられると思う。
竜二はあくまで「ある程度前線で闘える後方の弓使い」。ポリバレントと呼ばれる状況に応じて役割を変えられるタイプ。前線での実力はせいぜいBランク程度。
打つ手が浮かばず、この場に絶望の雰囲気が漂ってくる。
「俺たちのコンビネーションが全く通用しない」
「どうすればいいのよ……」
後方にいる竜二と優愛の声が、徐々に怯えていくのがわかる。まずい……私が元気づけないと。リーダーの私がうろたえてたら、2人まで動揺がさらに広まっちゃう。
「大丈夫。私がいるから、絶対勝つから──頑張ろ」
根拠は言えなかった。それでも、少しでも勇気づけなきゃ。じっとネフィリムもにらんでいると、ネフィリムがパチパチと拍手してきた。
「なかなかの実力だった、そなたたち──ここまでわれに全力を出させたのはあの男以来伽、褒めてつかわす」
真剣な目つきで、じっとこっちを見ている。褒めてもらったってまったく嬉しくない。
すごい侮辱された気分。ほとんどダメージ食らってなくて余裕なくせに。
「ありがとう、じゃあ負けてくれるの?」
「それは逆にかわいいそうじゃ。貴様たちの強さに敬意を表し、しっかりと全力の力で倒してやる」
そして、ネフィリムはその神々しい剣をこっちに向けてきた。剣からは──今まで感じたことがないくらいの魔力。
この攻撃を止めるすべはない。
こっちに向かってくる。
でかい攻撃が来る前に何とかしないと。リスク覚悟で一気に突っ込む。
私が対応するが、まったく抗しきれない。振り下ろした攻撃を後退しながら受けた瞬間にネフィリムの姿が消えたと思ったら後方から強い衝撃。背後に回られて殴られた?
吹き飛ぶ身体。後ろにある壁に叩きつけられると、ネフィリムはわたしを無視して竜二と優愛に突っ込んできた。
「やべっ!!」
慌てて竜二が対応。しかし、ネフィリムの攻撃は彼では受けきれない。何度か攻撃を受けて、ぼろぼろになった竜二の肉体が吹き飛びそのまま倒れこんだ。
次に優愛へと向かっていく。まずい──優愛は接近戦に関しては素人同然。逃げようと後姿を見せた瞬間に思いっきりけりを入れた。
優愛の身体はそのまま前方に吹き飛んだ。大きな爆発音を上げて壁にたたきつけられる。まったく意識はない。
これで私だけ。
助ける仲間も援護してくれる人もいない。本格的に一人。
孤独となった私は体がびくびくと震え、恐怖心が芽生えてくる。
怖い──自然と両手で腕をつかむ。
現実を直視できなくなって、配信していたスマホのコメントに自然と視線が行く。
:頑張ったよ璃緒ちゃん
:死なないで、早く逃げてよ
:みんな、生きていてほしい。ネフィリム、手加減してくれ
心の中で「みんなありがとう」とささやいて、涙を流す。なんだかんだ、私たちを慕ってくれたいい人ばかりじゃん。こんな人たちに囲まれて、私は幸せだった。
「さあ、これで最後じゃ。そなたの実力──見事なものじゃったぞ」
ネフィリムが大きな剣を振り上げる。
「もうだめだ──」
思わず目をつぶったその時だった。
「させるかぁ」
誰かが、私とネフィリムの間に入ってきた。
剣同士がぶつかる大きな音がすると、そっちに視線を向ける。
彼──さっき最下層に一人でいた配信者君だ。
すげえギリギリだけど、何とか間に合った。
ここまで来るのに、かなり苦労してしまった。まず、敵。ドラゴンとかそれなりに強いやつが数匹いたのだが。
「魔法、通じないの?」
魔法攻撃の通りが悪い。防御が固いタイプかなと思い、接近戦で物理攻撃に切り替えると案外楽に倒せた。
レベルを上げて物理で殴らなきゃいけないのか。
そう思いきや、別の全く色が同じドラゴンはなぜか当たり判定がおかしい。
首や腕を攻撃しても、体に触れた感触がなく素通りしてしまう。何でだと思い胴体に攻撃を当てると普通に切断できた。
こういう仕様なのか──あとで聞いた方がよさそうだ。
これ「エンシェントロマン」は苦戦するかもしれない。こいつら、全体的に癖があってその癖を見抜いて弱点を突かないと苦戦する感じだ。しかしエンシェントロマンは違う。良くも悪くも自分の強さに自信を持っていて、自分たちの戦闘スタイルを貫くタイプ。
ちょっと相性が良くない感じか。
早く奥へ向かおう。
ダンジョンを進むにつれて、戦闘音に悲鳴のような音が奥から聞こえてくる。自然と足音が早くなって、地下神殿のような大掛かりな建物に入って奥へ行くとネフィリムが璃緒をぶん殴ろうとしていた。
見るからにボロボロで、フラフラ。次攻撃を受けたら持たないかもしれないと思い急いで2人のところへ。両足に力を込めて大きく飛んで、2人の間に割って入る。
間一髪でネフィリムの攻撃を受ける。重い──腕1本でトラック1台を受けるとこんな感じなのかなって思う。
そして、ネフィリムと視線が合うなりネフィリムがにやりと笑みを浮かべた。俺と会うことを、待ち望んでいたかのように。
「何とか間に合ったか」
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