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第2章 大輝にようこそ
24 余韻
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尿意を催して目が覚めた。部屋は暗い。悦子は全裸のまま布団にくるまっていた。
あの後……コアラのように大輝にしがみついたまま再び仰向けにされた記憶がうっすらとあった。部屋の中には大輝の姿はなく、ソファーの後ろのドアから光が漏れている。このドアが開いているところは見たことがない。
悦子は、床に落ちていたバスローブを身に着けてノックする。微かに物音がし、カチャリとドアが開いた。そこには、Tシャツとスウェットパンツという姿の大輝がいた。
「起きちゃった?」
「あ……ここ、てっきりクローゼットか何かだと……もう一部屋あったんですね」
「そう。俺の秘密基地。もともとはここが寝室のはずなんだけどね」
書斎風の空間にコーヒーの香りが立ち込めている。正面に本棚、左手にクローゼットらしき引き戸。右手には窓を背にして大きなデスクがあり、パソコンと書類らしきものが広がっていた。
「お仕事……?」
「うーん……まだ仕事じゃないね。そうなったらいいなあと思ってる件」
「寝ない……の?」
「うん、昼間ちょっと寝る」
そういえば、来客中は寝ない主義、と言っていた。大方、寝言でまずいことを言って女とモメたか何かで懲りているのだろう。
「何か飲む?」
悦子が辞退すると、大輝はデスクのそばにある小型の冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して飲み始めた。
「あの……私もしかして、途中で寝ちゃいました?」
大輝がくすっと笑う。
「かわいかったなあ」
悦子は穴があったら入りたかった。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、途中ってわけじゃないよ。今日はいずれにしてもあれが限界。しかし君は、中も外も最っ高に気持ちいいな。正直、期待以上」
「えっ、でも……」
大輝が本来の手順を踏めなかったことは悦子にもわかる。しかし、何がいけなかったのかはわからない。中に入った後は、ちょっと動くだけでも痛かった。「あれが限界」というのはそういう意味だろう。あんなにしたがっていたのに、と思うと、申し訳なかった。
「でも何? 私は痛いばっかりで気持ち良くなかったわ、って?」
「えっ? いえ、そんな……」
大輝に優しく愛撫され、抱き締められてこの上なく幸せだった。手でされている間は気持ち良さも抜群だった。しかし肝心の本編はというと快感とは程遠く、主に痛みだった。
「まだね、ここが慣れてないから」
と言いながら、大輝は悦子の恥骨付近をバスローブ越しにふわっと撫でた。
「でも大丈夫。君はかなり鍛えられてるみたいだから、すぐ楽しめるようになる」
(えっ? 鍛えられて……?)
悦子が初めてだということはあっさりバレていたはずだが……。
「勉強熱心なのはいいことだ」
と、悦子の唇を吸う。悦子が早くから自己処理に励んできたことで知らぬ間に鍛えられていたのなら、ある意味朗報だ。しかし、そんなことまでわかってしまうものなのか、と悦子は赤面した。
悦子がトイレに行った後、再び眠りにつくまで大輝はそばに寄り添ってくれた。
翌朝、大輝は悦子に希望を尋ね、手早く美しい朝食をこしらえた。ハムエッグとプチトマト、小ぶりのトーストが乗ったプレート。ボウルにはフルーツとヨーグルト。それにジュース各種とミルク。おいしいコーヒー。ホテルみたい、と悦子も今度ばかりは口に出した。
大輝と少しでも長く時間を共有したくて、悦子は出社前に自宅に寄ることを諦めた。
夕方、退社前にトイレに行き、膀胱を空にしながらふと見下ろすと、見慣れない下着がこちらを見上げている。直接会社に行くことを告げた悦子に、大輝が着替え用にと出してきてくれたボクサーパンツ。「ただし穿いた姿は見せないでね、マジで萎えるから」と言いながら三枚組のパッケージごと手渡され、黒とグレーと青のうち、悦子は比較的女性物に近い印象を受けたグレーを選んだ。新品とはいえ大輝のプライベートゾーンを覆うはずだった男物の下着だ。それが自分の膝周りに嵌っている光景は、多分にエロティックだった。
もう夕方だというのに、何ともいえない余韻がじんわりと残っていた。あそこに。股の間のズバリあの位置に。そのせいで、自分が昨日までの自分でないことを始終痛感させられる。悦子にいざ穴を開けようとした大輝の真剣な表情が頭から離れなかった。そして、壊れ物を扱うように慎重に奥へと送り込まれた大輝の分身。彼はこれまで、一体何人の女をこうして開通させてきたのだろう。処女の扱いが初めてでないことは、悦子の目にも明らかだった。
雄雌として繋がったまま流した涙を大輝が拭ってくれた瞬間、何か重大な契りでも交わしたような心地にさせられた。この関係を人が何と呼ぼうと、悦子にとって大輝という男が特別な存在になったことは間違いない。しかし、悦子にとってのこの一大事が大輝にとっての日常茶飯事でしかないことは、どうあがいても変えようのない事実だ。大輝にしてみれば何のことはない、いつもの夜が、いや、普段より不完全燃焼な夜が明けただけ。
あの先はどんな風なんだろう。世の人々は一体私の知らない何を味わっているんだろう。否応なしに火を点けられてしまったみだらな好奇心が、腹の底で一日中くすぶっていた。
「あいつとじゃ将来はない、か……」
デモランジュで大輝を初めて見かけた時に、高杉に言われた言葉だ。
(それにしても……よかった、高杉さんが大輝と何もなくて……)
大輝がどこで誰と寝ているかはもちろん未知数だが、身近な人がそのメンバーに含まれるとなると、さすがに気まずい。高杉が過去に一度でも大輝と関係を持っていたら、悦子自身はとてもそんな気にはなれなかっただろう。
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あの後……コアラのように大輝にしがみついたまま再び仰向けにされた記憶がうっすらとあった。部屋の中には大輝の姿はなく、ソファーの後ろのドアから光が漏れている。このドアが開いているところは見たことがない。
悦子は、床に落ちていたバスローブを身に着けてノックする。微かに物音がし、カチャリとドアが開いた。そこには、Tシャツとスウェットパンツという姿の大輝がいた。
「起きちゃった?」
「あ……ここ、てっきりクローゼットか何かだと……もう一部屋あったんですね」
「そう。俺の秘密基地。もともとはここが寝室のはずなんだけどね」
書斎風の空間にコーヒーの香りが立ち込めている。正面に本棚、左手にクローゼットらしき引き戸。右手には窓を背にして大きなデスクがあり、パソコンと書類らしきものが広がっていた。
「お仕事……?」
「うーん……まだ仕事じゃないね。そうなったらいいなあと思ってる件」
「寝ない……の?」
「うん、昼間ちょっと寝る」
そういえば、来客中は寝ない主義、と言っていた。大方、寝言でまずいことを言って女とモメたか何かで懲りているのだろう。
「何か飲む?」
悦子が辞退すると、大輝はデスクのそばにある小型の冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して飲み始めた。
「あの……私もしかして、途中で寝ちゃいました?」
大輝がくすっと笑う。
「かわいかったなあ」
悦子は穴があったら入りたかった。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、途中ってわけじゃないよ。今日はいずれにしてもあれが限界。しかし君は、中も外も最っ高に気持ちいいな。正直、期待以上」
「えっ、でも……」
大輝が本来の手順を踏めなかったことは悦子にもわかる。しかし、何がいけなかったのかはわからない。中に入った後は、ちょっと動くだけでも痛かった。「あれが限界」というのはそういう意味だろう。あんなにしたがっていたのに、と思うと、申し訳なかった。
「でも何? 私は痛いばっかりで気持ち良くなかったわ、って?」
「えっ? いえ、そんな……」
大輝に優しく愛撫され、抱き締められてこの上なく幸せだった。手でされている間は気持ち良さも抜群だった。しかし肝心の本編はというと快感とは程遠く、主に痛みだった。
「まだね、ここが慣れてないから」
と言いながら、大輝は悦子の恥骨付近をバスローブ越しにふわっと撫でた。
「でも大丈夫。君はかなり鍛えられてるみたいだから、すぐ楽しめるようになる」
(えっ? 鍛えられて……?)
悦子が初めてだということはあっさりバレていたはずだが……。
「勉強熱心なのはいいことだ」
と、悦子の唇を吸う。悦子が早くから自己処理に励んできたことで知らぬ間に鍛えられていたのなら、ある意味朗報だ。しかし、そんなことまでわかってしまうものなのか、と悦子は赤面した。
悦子がトイレに行った後、再び眠りにつくまで大輝はそばに寄り添ってくれた。
翌朝、大輝は悦子に希望を尋ね、手早く美しい朝食をこしらえた。ハムエッグとプチトマト、小ぶりのトーストが乗ったプレート。ボウルにはフルーツとヨーグルト。それにジュース各種とミルク。おいしいコーヒー。ホテルみたい、と悦子も今度ばかりは口に出した。
大輝と少しでも長く時間を共有したくて、悦子は出社前に自宅に寄ることを諦めた。
夕方、退社前にトイレに行き、膀胱を空にしながらふと見下ろすと、見慣れない下着がこちらを見上げている。直接会社に行くことを告げた悦子に、大輝が着替え用にと出してきてくれたボクサーパンツ。「ただし穿いた姿は見せないでね、マジで萎えるから」と言いながら三枚組のパッケージごと手渡され、黒とグレーと青のうち、悦子は比較的女性物に近い印象を受けたグレーを選んだ。新品とはいえ大輝のプライベートゾーンを覆うはずだった男物の下着だ。それが自分の膝周りに嵌っている光景は、多分にエロティックだった。
もう夕方だというのに、何ともいえない余韻がじんわりと残っていた。あそこに。股の間のズバリあの位置に。そのせいで、自分が昨日までの自分でないことを始終痛感させられる。悦子にいざ穴を開けようとした大輝の真剣な表情が頭から離れなかった。そして、壊れ物を扱うように慎重に奥へと送り込まれた大輝の分身。彼はこれまで、一体何人の女をこうして開通させてきたのだろう。処女の扱いが初めてでないことは、悦子の目にも明らかだった。
雄雌として繋がったまま流した涙を大輝が拭ってくれた瞬間、何か重大な契りでも交わしたような心地にさせられた。この関係を人が何と呼ぼうと、悦子にとって大輝という男が特別な存在になったことは間違いない。しかし、悦子にとってのこの一大事が大輝にとっての日常茶飯事でしかないことは、どうあがいても変えようのない事実だ。大輝にしてみれば何のことはない、いつもの夜が、いや、普段より不完全燃焼な夜が明けただけ。
あの先はどんな風なんだろう。世の人々は一体私の知らない何を味わっているんだろう。否応なしに火を点けられてしまったみだらな好奇心が、腹の底で一日中くすぶっていた。
「あいつとじゃ将来はない、か……」
デモランジュで大輝を初めて見かけた時に、高杉に言われた言葉だ。
(それにしても……よかった、高杉さんが大輝と何もなくて……)
大輝がどこで誰と寝ているかはもちろん未知数だが、身近な人がそのメンバーに含まれるとなると、さすがに気まずい。高杉が過去に一度でも大輝と関係を持っていたら、悦子自身はとてもそんな気にはなれなかっただろう。
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