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第2章 大輝にようこそ

25 睦み合い

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「その日その日で誰に会うかっていうのは、どうやって決めるの?」

「その時の気分、かな」

「今日は……私の気分?」

「……何かご不満でも?」

「ううん。嬉しい」

「うん。ならいい」

 先日とは別の居酒屋の個室。料理が片付き、酒の方も空いてしまったところだ。

 店を出てエレベーターに乗ると、遠慮のない両腕が絡みついてきた。ビルの三階から一階まで下りる間のわずかな時間を、大輝は最大限有効に使う。悦子は覚えたてのキスを、それを仕込んだ張本人に披露した。酒で得ようとするなら二時間かかる境地に、彼はたった二秒で連れていってくれる。

 外に出ると、大輝はタクシーを止めながら、

「うちでいい?」

と尋ねる。うなずく悦子に迷いはなかった。



 家に着くと、大輝は手早くテーブルにグラスを二つ出し、

「適当にやってて。ジュース系と氷は冷蔵庫ね」

と言い残してシャワーを浴びに行ってしまった。

 悦子は飲み物云々うんぬんよりも、大輝の居住空間で「適当にやる」許可を得たことにニヤけていた。遠慮なくグラスに酒を注ぎ、冷蔵庫を開ける。

(わあ……)

 これも悦子が思い描く男の一人暮らし予想図を大きく裏切る光景だった。大小さまざまなタッパーがずらりと並び、中にはあらゆるお総菜。肉じゃがに根菜の煮物、ビーフシチュー、きのこのマリネ、もやしのナムル、汁に浸かった煮卵、そしてソース風のものが赤、白、緑と各種。主婦でもあるまいに……。一体誰がこれらを作り、管理しているのだろうかと妙な想像を巡らせてしまう。

 悦子がソファーで寛いでいると、間もなくバスローブ姿の大輝が現れ、悦子のカクテルに手を伸ばした。それを傾けたあごのラインに、悦子はつい見とれる。

「オレンジブロッサム……じゃないな。何これ?」

「ちょっとだけアップルが入ってる。あとレモンジュースが結構多め」

と言うと、大輝は驚いたように目を見開き、ぐびぐびと半分ほど飲んでしまった。

「天才か君は。超うま。しかも超濃い、ジン」

「ジンくさーいのが好きで」

「俺も。どうしよう、気が合うね」

 そんなことを言われると、今さらながらドキッとする。シャワー借りるね、とグラスを託すと、大輝はジンくささに満ちたキスで悦子を見送った。



 前回と同様、バスローブに身を包んで洗面所を出ると、ほんの二メートルほど先、リビングの入口で大輝が待ち構えていた。ぐいっと引き寄せられ、荒々しくキスされる。

「待ちくたびれちゃったじゃん。しぼんじゃったらどうしてくれんの」

と、長らくそそり立っていたらしきものを押し付けてくる。大輝は悦子をベッドに連れていくと仰向けに転がし、その上に馬乗りになった。唾液を交えながら全身をほぐされていく。

 悦子は、自分のみっともない乳房を嘲笑あざわらうことなく丁寧に愛撫してくれる大輝の手を崇拝したい気分だった。いつの間にかぷっくりと立ち上がった乳頭が大輝の口に含まれた途端、全身が熱い反応を返した。自分で触れる時はこんなに敏感だったことなどないのに……。

 お互い全裸になってしまうと、大輝はますますエネルギーを増した。この前……初めての時とはどこか違う。落ち着いた動きの中に抑えられた情熱が満ちていた。大輝に欲されていると感じ、それが悦子の興奮をあおった。

 無意識に大輝の股間へと手が伸びる。不意に握られた大輝が喉を鳴らし、ごろんと仰向けになった。悦子は神秘の下腹部を両腕で囲み、しげしげと眺めた。風にしなる椰子やしの木を思わせるその姿に、不思議な愛情が湧いた。

「舐めてみる?」

と言われ、悦子はソフトクリームの斜面を削る時のように舌をとがらせ、怖々と先の方に一瞬触れてみた。そっと顔色をうかがうと、大輝は「それだけ?」と言いたげに眉を上げる。今度は中腹から先へ数センチをおずおずと縦に濡らし、再び指示を仰ぐように見やった。

「何、もしかして拷問得意な人?」

「えっ? あっ……」

 悦子にも一応イメージはあるが、当の大輝が見ていると思うとプレッシャーを感じる。しかし、がっかりされたくはない。先ほど脱がされたバスローブを引っ張り上げ、それに隠れるようにして思い切ってぱくっと含んでみる。

「噛まないでね」

と囁かれ、慌てて歯を引っ込めた。そこからは精一杯の試行錯誤。ちまたの動画を真似まねてはみるものの、想像以上に難儀だった。大輝は一切注文をつけることなく身を任せた。悦子のような下々の者にわざわざ教えなくとも、できる女にさせればよいということなのだろう。

 悦子が素人なりに奮闘していると、大輝は時折悦子の頭を撫でながら、気のせいか心地よさそうにも聞こえる吐息を漏らした。悦子の顔中の筋肉が悲鳴を上げかけた頃、

「ちょっと待って。まだ片付きたくない」

と肩をつかまれ、解放してやると、今度は悦子の方がひっくり返された。

「君のはどんな味かな?」

(え?)

 考える間もなく脚を開かれ、その付け根、きわの際を舌先でツーッと舐められた。気持ちいいやら恥ずかしいやらで妙な声が漏れる。茂みに息がかかり始めると、自分の股の間で男の頭部がうごめく絵面えづらを見ていられなくなり、悦子は羞恥に目をつぶった。

 悦子のつたない舌遣いとは違い、こちらは全てが熟練していた。実験的な要素は微塵みじんも感じられない。人間の舌というのが、これほど自在に形を変え、硬さを変える器官だったとは……。あるいは、峰岸大輝限定の機能なのだろうか。

 スライム状に感じられるような柔らかさで広範囲を温めたかと思えば、不意にしんを持ったかのようにとがり、狭い溝に分け入ってくる。そこに唇や唾液といった付属アイテムが加勢するものだから、自分の手では見出せなかった未知の性感が掘り起こされ、悦子は正気を保つことなどおよそできそうになかった。

 大輝は外陰部全域を長らく徘徊はいかいし、顔をうずめたまま悦子の太腿を引き寄せた。あらゆる細部をくまなく舐め尽くされて悦子が悶えている間、大輝の髪が両の太腿の内側に絶妙なリズムで触れた。

 そっと薄目を開けてみると、大輝はふと顔を上げたところだった。にゅっと舌を突き出して指で一瞬つまみ、その指をベッドの外で擦り合わせる。峰岸大輝が、私の陰毛を吐き出している……。悦子はその光景に自分が恐縮しているのか興奮しているのかわからなくなっていた。
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