恋の駆け出し記念日 ~23歳の地味処女にやたら優しいイケメンは、誰よりも真面目なワケありプレイボーイでした~

生津直

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第3章 女たちの恋模様

32 完遂

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 結局その日、悦子は再び大輝の家で甘美なひとときを与えられた。

 唇と舌とを間断なく吸い尽くされながら悦子の脳裏に浮かんだのは、「前回」の経験だった。ここで、この男に、イかされた自分。大輝の見目美しい容姿を前にして照れや緊張が完全に抜けているわけでもなかったが、再び彼のベッドに横たえられた今、酒の勢いにあの至高の快楽の記憶が加わっては、「この先」を欲する気持ちに勝るものはなかった。

 長らく耳年増を極めた悦子は、これまで専らインターネットで性に関する情報を仕入れてきた。その中で、セックスでは達することができないがゆえに、彼氏がいてもなおオナニー三昧、という女性が相当数存在するという話を読んだことがある。それを考えると、わずか二度目の(実質初めてと言ってもよい)本番にして早くも絶頂へと導かれるなど、奇跡に等しかったのではないか。

 自分の強欲さに嫌悪を覚える暇もなく、悦子は全身をくまなく揉みしだかれ、あっという間に骨までとろけ切っていた。ひたひたとみだらに濡れそぼった膣の中を、大輝の細長い指が行き来しては撫で回す。

 今日の大輝は、悦子に話しかける代わりに、両の乳房に熱心にしゃぶりついた。汗ばんだふもとを舌でなぞり、なだらかな斜面に唇を這わせる。頂を含んで潤しては、ふっと息を吹きかけて悦子を悶えさせた。

 優しい。嬉しい。気持ちいい。それなのに、とてつもなく歯痒はがゆくもあり、気を緩めれば絶叫してしまいそうになる。

「ん……大輝……」

 おのれの声に露骨なおねだり感を聞き取り、悦子は軽蔑されることを恐れた。しかしそれはほんの一瞬のこと。目の前の男は淫靡いんびな笑みを浮かべると、悦子の首筋をベロリと舐め上げた。

「っ……!」


 その舌が悦子の唇をこじ開け、口の中を縦横に這い回る。その味を一秒たりとも逃したくなくて、悦子は必死に舌を絡め返し、力を込めて吸い付いた。次第にほうけ始めた脳をそのまま手放してしまいそうになった時、ピリッという聞き覚えのある開封音が耳に入った。しかし、キスはむどころかむしろ加速していた。口が解放されないまま、明らかに指とは質量の異なるものが下腹を埋め始める。

「んー……んっ」

 そこからはさすがに先日のごとく悦子の反応をうかがい出すのかと思いきや、大輝は何の遠慮もない様子で、そのままリズミカルに腰を振り始めた。悦子には「イきそう」という感覚がすでに訪れていた。

「んんー!」

 喉から懸命に声を発してそれを訴えようとするが、大輝はおかまいなしに悦子の舌を絡め取り、一瞬体勢を立て直したかと思うと、ますますスピードを上げて悦子の中を擦る。

(ヤバイ……もう無理っ!)

 心の中でそう叫びながら、何がどう無理なのかも悦子にはわかっていなかった。そのうち、酸素を欲したらしき大輝が、悦子の唇をようやく放した。押さえ込まれていたあられもない喘ぎを、悦子は漏れるに任せた。間もなくその声すらもかすれ、目尻から一つ、雫がこぼれ落ちた。

(助け……て……)

 そう口に出したわけではなかったが、不意に外側に触れられるのを感じた。大輝がおそらくは指の腹で、悦子の陰核を押し潰している。動きのないその圧迫は悦子にとって未知のものだったが、中での勤勉なピストン運動との絶妙なコンビネーションで偉大な効果を発揮した。そこへさらに、左の乳首を甘噛みされる。その歯の隙間から漏れる大輝の荒い呼吸にあおられるようにして、悦子はここぞとばかりに神経を集中させた。

 脳が真っ先にそれを捉え、あっと思った瞬間、中にいる大輝に膣奥の壁がしがみつく。盛りのついた猫のような叫びが悦子の喉から絞り出されると同時に、腹筋が激しくひくついた。

 余韻なのか最中なのか定かでない心許こころもとなさの中で見上げると、大輝が苦しげにぎゅっと目をつぶるのが見えた。その手が己の根元をつまんだかと思うと、奥底からずるると一気に引き抜く。

「ぁあっっっ!」

 強すぎる刺激に、悦子はこらえる余裕もなく悲鳴を上げた。しかし中身を失ってもなお、悦子の腹の奥は別の生き物のようにビクビクと震え続ける。霧がかかったような意識の片隅で、悦子の目は、ゴムを押し破らんばかりに膨張した男根を映していた。それを持ち主自身の手が数度しごくと、ゴムの中が瞬時に白で満たされた。

「あっぶね」

と、ひたいの汗を拭う大輝。その口元に、どこかあどけないような歯列が覗く。それに見とれながら、悦子はしびれた体をどうしようもなくただ横たえていた。

 ぼんやりと「そういえば」と思う。この前はどうだったのだろう。悦子が頂点に至った後、大輝はすぐに悦子から出ていったような気がするが、その後に今日のようなプロセスを見届けた記憶はない。その前の、正真正銘の初回の時は、動くことすらさせてやれなかった。生まれて初めて本物の男の精を目にしたのは、たった今のことだ。男だって感じていなければイけないのは同じだろう。そう考えると、これまでに味わったことのない独特の感慨があった。

 二人分の乱れた呼吸が、しだいに落ち着いていく。悦子はようやく寝返りが打てるまでに回復すると、無意識に枕を引き寄せ、そこに顔をうずめた。

「あ、ちなみに」

と、大輝の声。

「ん?」

「まだ終わりじゃないからね」

(……え?)
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