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第一学期
金髪の生徒
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始業式から一週間が経った。今日もイジメへの不安と闘いながら勉学に励んでいる。けれどあの以来、教室での嫌がらせはほとんど無くなった。完全にゆかさんのお陰だろう。ゆかさんとは、あの日以来まだ話せていない。なんと声を掛けたらいいのか分からないんだ。臆病者の自分が本当に情けない。
楓華学園のメリットは、選択授業であることだ。生徒一人一人が学びたい科目を選択するため、それぞれ時間割りが違う。学ぶ教室も違うため、嫌なクラスメイトと顔を合わすことが少なくて済むのだ。
デメリットは、一年を通して席替えがないこと。席は出席番号順のため、卒業するまで清盛の後ろ…ホームルームや昼休憩の時間は年中地獄ということだ。それから、選択授業であるが故にクラスメイトと親睦を深めにくいことだ。ゆかさんと同じ授業もないみたいだし、一体どうすれば仲良くなれるのだろうか。なかなかうまくいかないなぁ。
ところで一週間が経った今、気になっていることがある。
それは、まだ一度も登校していないクラスメイトがいること。
名前は確か……月城…ゆえ……だっけ。
同じ声楽科の授業を選択してるみたいだし、ちょっと気になっている。
入院でもしてるのだろうか。どんな人なのだろう。
そうだ!ゆかさんなら知っているかもしれない。あとで聞いてみよう。
そんなことを思いながら次の教室へ向かう途中、金髪の生徒が教員と言い合っている場面に遭遇した。 「なんだね、そのピアスは。今すぐ外しなさい。外さなければ今すぐ没収します。」
「は? ふざけんな! 教師辞めて泥棒にでもなった方が良いんじゃねーの。おい、汚ぇ手で触んな!」
「その爪もなんだ! ネイルも校則で禁止されているだろ。規則を守れないのなら此処に来るんじゃない。」
「は?ならその偉そうな校則を変えればいいだろうが。多様性を受け入れない学び舎があってたまるかよ糞爺!」
僕は驚いた。ここ楓華学園は有名な私立校だ。偏差値も高く、倍率も高い。"未来を約束された学園"とも言われているほど敷居が高く、決して簡単に入れる学校ではないのだ。なのに何故あんな不良みたいな人が此処にいるんだろう?中には授業について行けず、落ちこぼれる人も後を絶たないと聞くが、彼もその内の1人なのだろうか。にしても嫌だなぁ。ああいう人とは関わりたくない。
それにしてもピアスとマニキュアで多様性は酷すぎるよ…変な人だ………。
さて。この日の授業は全て終わり、下校の時間。
僕は勇気を出して声を掛けた。
「あの、ゆかさん!」
「あ、なおくん。お疲れ~。」
「お疲れ様。あの、急だけどゆかさんは月城ゆえ…って人知ってますか?まだ一度も来てないみたいで。」
そう言うと彼女は驚いた様子を見せた。どうやら学園内で彼を知らない人はいないのだとか。そして、彼のことをあれこれ教えてくれた。ファッションモデルであることや、芸能事務所に在籍していること、王子やゆえちというあだ名があること、雑誌やネットでよく目にすること、芸能科や声楽科を選択していること、仕事優先で学校にはあまり来ないこと、母子家庭で弟がいるということまで。
「あはは…よく知ってるんだね。」
知らなかったのは僕だけなのかと落ち込んだけど、学校に来ない理由はよく理解できた。楓華学園の芸能科コースでは、在学中に芸能の仕事が決まると仕事を優先しても構わないとしているのだ。もちろん、上限はあるみたいだけど。
「ほら、見てよ。あれ━━。」
そう言うと彼の席を指さした。
空っぽなはずの机の中には、ファンレターらしき手紙がたくさん入っていた。
「学園内にファンクラブもあるんだよ~。すごいよね。そんなにも愛を貰えるなんて…。」
一瞬、とても悲しげな顔を見せたように感じた。
「……。ゆかさんも彼が好きなの…?」
「ううん違うよ~。私も会ったことないし。」
なんだ違うのか、良かった。と安堵した。けれど何故僕は今安堵したのだろう? 続けて彼女は口を開く。
「こんなこと言うのもアレなんだけどね…私…正直…このまま来ないでほしいな、なんて思っとるんよね~。」
「え?」
「酷いっちゃろ…。けどね、多分きっとそう思っとるんは私だけじゃないんよね。」
そう言うと、悪い噂について話してくれた。どうやら彼は怒りっぽい性格で、よく揉め事を起こしていたそうだ。彼と同じクラスになると毎回雰囲気が悪くなるため、嫌がる生徒もいるのだとか。
「だって、最後の学園生活だよ?せっかく蓮くんとも同じクラスになれたとに…。」
「え?」
「ううん、何でもない。ごめんね~、こんな話は良くないよね。そうだ! そんなに気になるなら、SNS見てみたらよかと思う~。」
「SNS……」
「なお君はSNSしとーと?」
「SNSは何もしてないや…。」
「そっか~。じゃLIMEは?」
「LIMEは一応…。父さんしか友達いないけど……。」
「そっか~。私で良ければLIME交換しない?迷惑じゃなければ。」
「え、本当に? ありがとう、嬉しいや!!」
この日はLIMEの交換をして別れた。気付くと空はオレンジ色に染まっていて、この燃えるような嬉しさを空が表してくれているようだった。踊るような気持ちで帰宅すると、すぐに婆ちゃんに報告した。
「婆ちゃん! 僕友達できたよ!!」
「お友達!? それは良かったわね。どんな子なの?」
「んー。優しい女の子!」
「おっおっ女のコっ……!?」
婆ちゃんは目と口を大きく開けて動揺した様子だった。するとすぐに興奮した様子で、「明日その子に果物を持っていきなさい」とか「家に連れてきなさい」「よろしく伝えないとね」などと言う婆ちゃんを鎮めるのは大変だったけれど、自分事の様に喜んでくれる婆ちゃん姿を見て、とても嬉しかったんだ。少しは安心させられることができただろうか。
夜━━。僕はまた彼を思い出していた。月城ゆえ……。ゆえち………か。人気者なのか嫌われ者なのか、よく分からなかったな。一体どんな人なんだろう。「SNS見てみたらよかと思う~」という言葉を思い出し、スマホで検索をした。すると……僕の目は大きく見開いた。
「………こ……これって…………!!」
そこには、廊下で先生と言い合っていた、あの金髪の生徒が写っていたのだ。
「あ…あの時の彼が……月城………………ゆえ…??」
あまりにも衝撃だった僕は、無我夢中に彼のSNSやHPを見漁っていた。そこには、クールな表情から可愛い表情までを完璧にこなす、昼間の彼とは思えない姿で溢れていた。
「すごいな…これが同級生だなんて…芸能科はすごいんだなぁ。」などと感心していると「このまま来ないでほしい」というゆかさんの言葉を思い出した。
はっ! これはゆかさんに伝えないと!
昼間、学園で見かけたって!
やばい。話したいことがあるって、こんなにもワクワクするんだ!早く。早く明日にならないかな……!
━━この時の僕は、LIMEの存在を忘れていた。
楓華学園のメリットは、選択授業であることだ。生徒一人一人が学びたい科目を選択するため、それぞれ時間割りが違う。学ぶ教室も違うため、嫌なクラスメイトと顔を合わすことが少なくて済むのだ。
デメリットは、一年を通して席替えがないこと。席は出席番号順のため、卒業するまで清盛の後ろ…ホームルームや昼休憩の時間は年中地獄ということだ。それから、選択授業であるが故にクラスメイトと親睦を深めにくいことだ。ゆかさんと同じ授業もないみたいだし、一体どうすれば仲良くなれるのだろうか。なかなかうまくいかないなぁ。
ところで一週間が経った今、気になっていることがある。
それは、まだ一度も登校していないクラスメイトがいること。
名前は確か……月城…ゆえ……だっけ。
同じ声楽科の授業を選択してるみたいだし、ちょっと気になっている。
入院でもしてるのだろうか。どんな人なのだろう。
そうだ!ゆかさんなら知っているかもしれない。あとで聞いてみよう。
そんなことを思いながら次の教室へ向かう途中、金髪の生徒が教員と言い合っている場面に遭遇した。 「なんだね、そのピアスは。今すぐ外しなさい。外さなければ今すぐ没収します。」
「は? ふざけんな! 教師辞めて泥棒にでもなった方が良いんじゃねーの。おい、汚ぇ手で触んな!」
「その爪もなんだ! ネイルも校則で禁止されているだろ。規則を守れないのなら此処に来るんじゃない。」
「は?ならその偉そうな校則を変えればいいだろうが。多様性を受け入れない学び舎があってたまるかよ糞爺!」
僕は驚いた。ここ楓華学園は有名な私立校だ。偏差値も高く、倍率も高い。"未来を約束された学園"とも言われているほど敷居が高く、決して簡単に入れる学校ではないのだ。なのに何故あんな不良みたいな人が此処にいるんだろう?中には授業について行けず、落ちこぼれる人も後を絶たないと聞くが、彼もその内の1人なのだろうか。にしても嫌だなぁ。ああいう人とは関わりたくない。
それにしてもピアスとマニキュアで多様性は酷すぎるよ…変な人だ………。
さて。この日の授業は全て終わり、下校の時間。
僕は勇気を出して声を掛けた。
「あの、ゆかさん!」
「あ、なおくん。お疲れ~。」
「お疲れ様。あの、急だけどゆかさんは月城ゆえ…って人知ってますか?まだ一度も来てないみたいで。」
そう言うと彼女は驚いた様子を見せた。どうやら学園内で彼を知らない人はいないのだとか。そして、彼のことをあれこれ教えてくれた。ファッションモデルであることや、芸能事務所に在籍していること、王子やゆえちというあだ名があること、雑誌やネットでよく目にすること、芸能科や声楽科を選択していること、仕事優先で学校にはあまり来ないこと、母子家庭で弟がいるということまで。
「あはは…よく知ってるんだね。」
知らなかったのは僕だけなのかと落ち込んだけど、学校に来ない理由はよく理解できた。楓華学園の芸能科コースでは、在学中に芸能の仕事が決まると仕事を優先しても構わないとしているのだ。もちろん、上限はあるみたいだけど。
「ほら、見てよ。あれ━━。」
そう言うと彼の席を指さした。
空っぽなはずの机の中には、ファンレターらしき手紙がたくさん入っていた。
「学園内にファンクラブもあるんだよ~。すごいよね。そんなにも愛を貰えるなんて…。」
一瞬、とても悲しげな顔を見せたように感じた。
「……。ゆかさんも彼が好きなの…?」
「ううん違うよ~。私も会ったことないし。」
なんだ違うのか、良かった。と安堵した。けれど何故僕は今安堵したのだろう? 続けて彼女は口を開く。
「こんなこと言うのもアレなんだけどね…私…正直…このまま来ないでほしいな、なんて思っとるんよね~。」
「え?」
「酷いっちゃろ…。けどね、多分きっとそう思っとるんは私だけじゃないんよね。」
そう言うと、悪い噂について話してくれた。どうやら彼は怒りっぽい性格で、よく揉め事を起こしていたそうだ。彼と同じクラスになると毎回雰囲気が悪くなるため、嫌がる生徒もいるのだとか。
「だって、最後の学園生活だよ?せっかく蓮くんとも同じクラスになれたとに…。」
「え?」
「ううん、何でもない。ごめんね~、こんな話は良くないよね。そうだ! そんなに気になるなら、SNS見てみたらよかと思う~。」
「SNS……」
「なお君はSNSしとーと?」
「SNSは何もしてないや…。」
「そっか~。じゃLIMEは?」
「LIMEは一応…。父さんしか友達いないけど……。」
「そっか~。私で良ければLIME交換しない?迷惑じゃなければ。」
「え、本当に? ありがとう、嬉しいや!!」
この日はLIMEの交換をして別れた。気付くと空はオレンジ色に染まっていて、この燃えるような嬉しさを空が表してくれているようだった。踊るような気持ちで帰宅すると、すぐに婆ちゃんに報告した。
「婆ちゃん! 僕友達できたよ!!」
「お友達!? それは良かったわね。どんな子なの?」
「んー。優しい女の子!」
「おっおっ女のコっ……!?」
婆ちゃんは目と口を大きく開けて動揺した様子だった。するとすぐに興奮した様子で、「明日その子に果物を持っていきなさい」とか「家に連れてきなさい」「よろしく伝えないとね」などと言う婆ちゃんを鎮めるのは大変だったけれど、自分事の様に喜んでくれる婆ちゃん姿を見て、とても嬉しかったんだ。少しは安心させられることができただろうか。
夜━━。僕はまた彼を思い出していた。月城ゆえ……。ゆえち………か。人気者なのか嫌われ者なのか、よく分からなかったな。一体どんな人なんだろう。「SNS見てみたらよかと思う~」という言葉を思い出し、スマホで検索をした。すると……僕の目は大きく見開いた。
「………こ……これって…………!!」
そこには、廊下で先生と言い合っていた、あの金髪の生徒が写っていたのだ。
「あ…あの時の彼が……月城………………ゆえ…??」
あまりにも衝撃だった僕は、無我夢中に彼のSNSやHPを見漁っていた。そこには、クールな表情から可愛い表情までを完璧にこなす、昼間の彼とは思えない姿で溢れていた。
「すごいな…これが同級生だなんて…芸能科はすごいんだなぁ。」などと感心していると「このまま来ないでほしい」というゆかさんの言葉を思い出した。
はっ! これはゆかさんに伝えないと!
昼間、学園で見かけたって!
やばい。話したいことがあるって、こんなにもワクワクするんだ!早く。早く明日にならないかな……!
━━この時の僕は、LIMEの存在を忘れていた。
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