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9・王宮のお茶会と王太子殿下(2) ゼノSIDE
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『ゼノーーっ!!』
瞳を閉じて思い浮かべるのは、麗らかな春の日差しを浴びて笑う僕の相棒―ルーファ。
あの時に冒険者ギルドで出会い、一瞬にして彼女が僕の"番"だと分かった。彼女の周りの空気だけ甘い香りがしたのだ。それはかつてお父様から聞いていた話と全く同じで―。
(嗚呼、まさかこんなにも早く番に会えるだなんて…思ってもいなかった)
普通"獣人"や"竜人"といった獣の血を受け継いでいる者には〈番〉なる運命の相手が存在する。それは長い時を生きる僕たち竜人の中で何時会えるか分からない存在なのだ。
(はぁ。番を見つけた僕に婚約者決め茶会なんて必要ないのに…)
あと半刻もしない内に始まるであろうお茶会を想像しながらため息をつく。何が悲しくて好きでもない女に囲まれなくてはいけないのか…。
「―はぁぁ」
王宮の庭を一瞥してもう一度ため息をつく。
「クリスティア=ゼノ皇太子殿下。この三分間で十七回目の溜息です」
聞き慣れた彼の声を聞いて、ゆっくりと振り返る。
「―セイル、僕にはルーファという運命の相手がいるんだ。ため息もつきたくなるさ…」
ノックもなしに入ってきた(しかも三分も前からいたらしい)相手―四大公爵ウィット公爵の長男"セイリシオン"へ向かって苦笑を零す。
「―まぁ、確かにアイツは変わっているよな。女なのに男みたいだし、何よりあの無自覚の戦闘狂モードはヤバい」
いや、お前の公私分別もすごいよ。もはや別人だよ。さっきまでしっかりした爽やかな次期宰相だったのに、今は不良少年だよ。
心の中で幼馴染へ突っ込みながら話を続ける。
「あぁ、あのチョーカーの意味も気になる…。あれは四大公爵家のように先祖が"特殊"じゃないと使わないものだ。…ルーファはどこかの公爵分家の隠し子、なのか?」
このクライドハルト帝国は四つの王国を取り込んで出来た大国である。
一つ、ブラット王国。魔物と魔法使い達によって形成された国で高い魔力を持つ。
二つ、ウィット王国。エルフによって形成された国で高い知能を持つ。
三つ、アルマット王国。獣人によって形成された国で高い身体能力を持つ。
四つ、ヒュラット王国。人族によって形成された国で高い協調性を持つ。
上記の四つの国が"竜族"であるクライドハルト王族によって統括され、かつての王族が今の四大公爵と名をはせているわけである。そして彼らの子孫にも同じような特徴がある。
現にエルフ族の末裔であるセイルはハーフエルフであり、遠視や古精霊術などが使える。
他にも、幼馴染である近衛騎士の"アラン"は虎の耳が映えている上、素手でモンスターを倒せる。
後は今日の茶会にも来る「深窓の令嬢」こと"ルーファリア嬢"はサキュバスの〈魅了〉魔法でやらかしたらしい。
―まぁ、等々あるわけで。
先祖返りだったりして、特性が強く出てしまった場合に力がコントロールできるようになるまで〈黒チョーカー〉こと〈特性能力抑制魔導具〉がつけられる。
それを四大公爵家でもない平民のルーファが着けていた―。
…いや、でも彼女は本当に平民なのか?そういえば肌はいつも綺麗だった。
「…あとは、そうだな。お前みたいに"本当は貴族だけど~お忍びで~"とか」
どうやらセイルも同じ結論に達したらしい。だが、ソレはないだろう。
「あぁ、それもあるかもしれんが可能性のある相手は公爵家だぞ?まさかアイツが公爵令嬢とか…」
「「ないないない」」
あんなに自由奔放な公爵令嬢がいるなら見てみたいものだ―。
と、そう言って僕はお茶会の準備に取り掛かった。
***
((ここにいたわ。自由奔放な公爵令嬢))
悲しいかな始まった茶会で、一人の少女を前に僕とセイルはハモった。
「!?」
きょとん、と色の違う大きな瞳を輝かせて彼女も僕と同じことに気が付いたらしい。
(どうしてここに―――っ!?!?)
淑女の仮面を剥がして困惑した彼女はそう語っていた。
いや、本当に…。
どうして君がここにいるんだい、ルーファ。
瞳を閉じて思い浮かべるのは、麗らかな春の日差しを浴びて笑う僕の相棒―ルーファ。
あの時に冒険者ギルドで出会い、一瞬にして彼女が僕の"番"だと分かった。彼女の周りの空気だけ甘い香りがしたのだ。それはかつてお父様から聞いていた話と全く同じで―。
(嗚呼、まさかこんなにも早く番に会えるだなんて…思ってもいなかった)
普通"獣人"や"竜人"といった獣の血を受け継いでいる者には〈番〉なる運命の相手が存在する。それは長い時を生きる僕たち竜人の中で何時会えるか分からない存在なのだ。
(はぁ。番を見つけた僕に婚約者決め茶会なんて必要ないのに…)
あと半刻もしない内に始まるであろうお茶会を想像しながらため息をつく。何が悲しくて好きでもない女に囲まれなくてはいけないのか…。
「―はぁぁ」
王宮の庭を一瞥してもう一度ため息をつく。
「クリスティア=ゼノ皇太子殿下。この三分間で十七回目の溜息です」
聞き慣れた彼の声を聞いて、ゆっくりと振り返る。
「―セイル、僕にはルーファという運命の相手がいるんだ。ため息もつきたくなるさ…」
ノックもなしに入ってきた(しかも三分も前からいたらしい)相手―四大公爵ウィット公爵の長男"セイリシオン"へ向かって苦笑を零す。
「―まぁ、確かにアイツは変わっているよな。女なのに男みたいだし、何よりあの無自覚の戦闘狂モードはヤバい」
いや、お前の公私分別もすごいよ。もはや別人だよ。さっきまでしっかりした爽やかな次期宰相だったのに、今は不良少年だよ。
心の中で幼馴染へ突っ込みながら話を続ける。
「あぁ、あのチョーカーの意味も気になる…。あれは四大公爵家のように先祖が"特殊"じゃないと使わないものだ。…ルーファはどこかの公爵分家の隠し子、なのか?」
このクライドハルト帝国は四つの王国を取り込んで出来た大国である。
一つ、ブラット王国。魔物と魔法使い達によって形成された国で高い魔力を持つ。
二つ、ウィット王国。エルフによって形成された国で高い知能を持つ。
三つ、アルマット王国。獣人によって形成された国で高い身体能力を持つ。
四つ、ヒュラット王国。人族によって形成された国で高い協調性を持つ。
上記の四つの国が"竜族"であるクライドハルト王族によって統括され、かつての王族が今の四大公爵と名をはせているわけである。そして彼らの子孫にも同じような特徴がある。
現にエルフ族の末裔であるセイルはハーフエルフであり、遠視や古精霊術などが使える。
他にも、幼馴染である近衛騎士の"アラン"は虎の耳が映えている上、素手でモンスターを倒せる。
後は今日の茶会にも来る「深窓の令嬢」こと"ルーファリア嬢"はサキュバスの〈魅了〉魔法でやらかしたらしい。
―まぁ、等々あるわけで。
先祖返りだったりして、特性が強く出てしまった場合に力がコントロールできるようになるまで〈黒チョーカー〉こと〈特性能力抑制魔導具〉がつけられる。
それを四大公爵家でもない平民のルーファが着けていた―。
…いや、でも彼女は本当に平民なのか?そういえば肌はいつも綺麗だった。
「…あとは、そうだな。お前みたいに"本当は貴族だけど~お忍びで~"とか」
どうやらセイルも同じ結論に達したらしい。だが、ソレはないだろう。
「あぁ、それもあるかもしれんが可能性のある相手は公爵家だぞ?まさかアイツが公爵令嬢とか…」
「「ないないない」」
あんなに自由奔放な公爵令嬢がいるなら見てみたいものだ―。
と、そう言って僕はお茶会の準備に取り掛かった。
***
((ここにいたわ。自由奔放な公爵令嬢))
悲しいかな始まった茶会で、一人の少女を前に僕とセイルはハモった。
「!?」
きょとん、と色の違う大きな瞳を輝かせて彼女も僕と同じことに気が付いたらしい。
(どうしてここに―――っ!?!?)
淑女の仮面を剥がして困惑した彼女はそう語っていた。
いや、本当に…。
どうして君がここにいるんだい、ルーファ。
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