上 下
16 / 20
夢から覚めて

1,夢から目覚めて

しおりを挟む
 声のする方までアウスはくると、閉じていた瞳を開け、目を覚ました。
 次第にアウスの瞳の中には光が入り、自分が先ほどまで眠って、夢を見ていたことに気づいた。
 それでも,先ほどまで見ていた悪夢の恐怖は消えているなんてことはなかった。
 目には大粒の涙が溜まり、視界はぼやけ、目の前にある全ての事柄がはっきりとはしなかったのだ。そして、全身は小刻みに震え、過呼吸へとなっていた。
 そんな状況で、アウス自身は動くことは愚か、声を出すこともできず、ただ、生きるために、ひたすら、息を吸っては吐いてを繰り返し行なっていく。
 そんな時、再び、アウスの耳に、アクラムの声が響いた。

「大丈夫か?」

 その声は、アウスの耳へとよく響いて、アウスの意識をより現実へと誘った。そして、アウスは、ぼやけている視界で、どうにか頭を動かし、アクラムの声が聞こえる方へと向く。
 そこには、視界がぼやけていてもわかる、不安そうな表情をしたアクラムがいた。

(え……?)

 アウスはアクラムの表情に驚きながら、声を出そうとする。けれど、声など出るはずもなく、空気には触れず消えていく。

(声でない……)

 アウスがそう不安になっているとアクラムがもう一度、言葉を紡いだ。

「怖かったな……」

 アクラムは、そう言って、アウスの震えている身体に触れ、頭を撫で始めた。

(ん? 温かい?)

「大丈夫だ。俺がいるからな……」

 数分間の間、アクラムはアウスの頭を撫で続け、落ち着かせていく。そうしていくうちに、アウスの呼吸も次第に落ち着きを取り戻し、視界もクリアになっていった。

「……あり、がとう」

 アウスは、思ったことを言葉に出してみた。先ほどとは違い、ちゃんと声が空気を伝って、アクラムへと伝わった。

「ん……気にするな……それより、身体触って平気だったか?」

 アクラムは、アウスが目を覚ました時のことを思い出して、聞いたのだった。
 
「うん……」

 声と共にアウスは頷き、表情を明るくする。

「そうか……ならもう少し、さわっていてもいいか?」

 アクラムは、そう言いながら、水の中に入っていた、タオルを取り出した。
 アウスはそれをみながら何をされるのか分からなくて、身構える。それでも、拒絶することはできなかった。
 アウスなりに、大丈夫だと思えたのだ。

「……うん」

 ほんの少しの間、考えてからアウスは了承した。

「わかった……」

 アクラムがそう言った瞬間、ほんのりと温かいタオルがアウスに触れ、涙の跡や全身から出ていた汗をアクラムは拭いていく。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,112pt お気に入り:95

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:29

ピクン、ピクン、あん…っ♡

BL / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:43

無頓着な彼は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,776pt お気に入り:433

薪割りむすめと氷霜の狩人~夫婦で最強の魔法具職人目指します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:11

ファントムペイン

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:38

踏み出した一歩の行方

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:65

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:9,687pt お気に入り:1,013

俺の愛娘(悪役令嬢)を陥れる者共に制裁を!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14,959pt お気に入り:4,310

極道達に閉じ込められる少年〜監獄

BL / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:551

処理中です...