現実世界でも異世界でも最弱の俺が最強として扱われているのはどう考えてもおかしい。

友樹 みこと

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異世界旅行の始まり

白龍が強すぎるからといって、主人公の出番が本当に1回もないなんてどう考えてもおかしい。

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雲に覆われた重い空の下、高く澄み渡る声で夜を明るく照らす生物の名は、白龍。

あらゆるものを跳ね除ける硬く白い逆鱗、鋼鉄をも切り裂く3本の爪、何人も近づけさせぬ美しい双翼、そして直視すれば死を覚悟せざる負えない爬虫類を思わせる鋭い金色の目を持つ、全長5mの巨龍それが白龍である。

胸には本来ないはずの、ひし形のエメラルドが埋め込まれていた。

龍の口から放たれた白い光線はコンマ数秒でコロシアムに直撃するスピードだ。

ジェードは呪文を唱え魔神の手で会場を覆い、クラリス姉妹は双剣で切り付けようと虚空を切る。

それでも一番早く反応したのは元国王とライリだった。

「行くぞライリ」「はい、お父様」

自分の体と同じ高さを持つ正方形の黒の障壁を上空に出し、ライリが光線と障壁をラインブレードで結んだ。

その瞬間光線の軌道が90度曲がり、障壁を一瞬で打ち砕きそのまま直線上に飛んでいく。

「障壁があんなにもたやすく……」「仕方がない、龍の特性【粉砕】があるからな」

アロハシャツを着た、さらさらの金髪と純粋無垢な青眼を持つ、RPGの主人公風な美少年がライリとクリムの前に現れる。

「お父様……アロハシャツは若すぎますよ」
「むっ、何を言う。私はまだ456歳だ。」

吸血鬼はある一定の年齢を過ぎると肉体年齢が止まる。元国王クリムゾンの場合18だったので、見た目だけで言うとクリムより幼い。

「言っている場合では無さそうです……!」

白龍は、白い閃光が大きく逸れたのを見て原因を探るべくもう1度閃光を吐き出した。

「ライリ行けるか!?」「まだ魔力が溜まってません」

クリムがデモンメアを抜き魔力を蓄えたが、クリムゾンが剣を片手で抑え込む。

「粉砕されるだけだ」「ですが……!」

ジェードとクラリス姉妹は、アイコンタクトを取り魔神の手で2人を掴むと真上に放り投げた。

2人4本の剣で直接、白い閃光粉砕の迫撃ブレイクバーストを切りつけた。

粉砕の迫撃は真っ二つに割れ、コロシアムの外に直撃した。その瞬間、4本の剣は砕け霧散する。
2人は粉砕の迫撃の勢いに押され高速で落下、それをジェードの魔神の手が受け止める。

「あなたたち、一瞬でやられたわね」

「かったぁあい!」「やはり、粉砕はやっかい。」

塵と化した4本の剣はすぐに、元の形に戻り主の元へかえっていく。

「クラリア!あれいこう!」「うん」

クラリスとクラリアは魔族の突然変異種だ。

本来魔族には魔属性、神聖な龍や天使には聖属性がつき、互いに弱点となる。

しかし、クラリスとクラリアには両方の属性が備わっていた。そのため、他人から友から両親から国から恐れられ、彼女達は旅人となったのだった。

彼女達の生きざまを表す4本の双剣は白と黒、つがいとなっているが本来は2本の剣だ。


そして、2人もまた……。


2人は向かい合い、手を絡ませる。額と額合わせ願う。


ただ、この世界に平穏な闇がありますようにと。


彼女達を光が包み込むと体は一つとなる。

髪型はクラリアのボーイッシュなピンク色のショートヘア、表情はクラリスの女の子っぽい無邪気な笑み、服装は2人の白のワンピース、何よりの変化は──

白銀の片翼と漆黒の片翼が現れたことだ。

そして、その手に握りられている剣は2本。剣を縦に割る白黒2色。彼女達の願いを具現化した白黒の双剣へと変化した。

「その姿が一番好きよ、クラリアスちゃん」

「ありがとう、ジェードねぇさん」

そう、クラリアの声で答え、

「まあ、共存の夢ヴァイスシュバルツメアということで!行くよ、白龍!」

クラリスの声で飛び立つ。

白龍に向け、一直線に放たれた白黒の矢は巨体に突き刺さる。

キィイイイン!

しかし、その白の巨体には傷一つつかない。

「!!やっぱり、魔族性の攻撃が跳ね除けられる!」「クラリス……僕が前に出る」「悔しいけど任せる!」

クラリアスの体を白い光が包み込み、ピンク色のショートヘアが白く変わり、白黒だった双剣双翼は、黒の部分がみるみるうちに白に染まっていった。
全身を聖属性で覆い尽くし、魔属性を封じ込めたのだ。

クラリアはクラリスが眠りにつく事で、クラリスの魔力を聖属性のものとして変換し、体内の魔属性をほぼゼロに近い値にした。

つまり今この瞬間クラリアは、半魔族ではなく純正の天使族だ。

聖と魔は、互いに弱点であるが強すぎる聖属性に魔属性は跳ね除けられることがある。

魔のせいで攻撃が通らないのであれば、魔を隠せばいい。2人はそう考えた。

翼を強く羽ばたかせ、一瞬で龍の懐に入り込むと、素早く切りつける。

肉を切る心地よい感触と共に、×状に逆鱗が砕かれた。

キィィィィィン!

「これでいけないはずないよね。だって同族の暴走を抑えられなくなる」

すかさず、もう一撃をいれようとするが白龍は自分の体の周りに見えない球体状の結界を張り巡らせた。

結界の外に追い出されたクラリアスは空中で二転三転し、白い翼でバランスを取り直す。

「結界か…龍族なのに魔法も使えるなんてずるいね」
クラリアスはため息をついて、剣を握り直した。

                    ***

「やはり、白龍には魔属性の攻撃は効かんようだ。後はあの姉妹に任せよう。ここを出るぞ」

「ですがお父様!私たちが逃げ出してよいのですか!?ここは私達の国ですよ!」

クリムは大声で訴えた。白龍に国の危機にさらされているのに他国の者に頼りきりになるのが許せなかったのだ。

「逃げはせん。視野を広く持ってみろ、翼竜だって沢山降りてきているぞ。市民を守るのだ」

アロハシャツの吸血鬼は、子供っぽい笑みを浮かべるとライリに目線を送る。

ライリは頷くと、クリムに一言「クリム様民を守りましょう」と口添えして父と共に走っていった。

「それはそうだが…!」

クリムは下唇を噛み、コロシアムの外を見た。
すると、数百の翼竜が舞い降り街を破壊しているのが見える。

アンティークな西洋の街並みがことごとく翼竜たちの白い閃光によって砕かれていく。

「…!このままではグランドレッドは無くなってしまう!」

クリムは恐怖し、己を叱咤した。

今はプライドなどどうでもいい。やるべき事をやるだけだ。

眼前に7色7つの虹の炎を浮かべ、黄色と緑の炎をデモンメアで切る。

緑炎狐グリンフレムフォックス黄火鳥イエロフレムフェニックス!私に力を貸してくれ!」

炎はそれぞれ大きく燃え盛り、体長40センチほどの緑の炎を纏う翡翠の狐と3メートルほどの黄色のフェニックスが現れた。

どちらも体から炎を出しているようで、火の粉がちらつき体の炎はゆらゆらと揺らいでいた。

「クリム、俺を呼ぶなんていつぶりだ?余程の状況なんだろうな」

「おや、クリムちゃん!大きくなったのねぇ!」

「イエロおととい一緒に飛んだじゃないか…グリン狐火を借りるぞ見ての通り最悪の事態だ」

「……なるほどな、そりゃ俺とこのアホが適任だ」

「誰がアホよ!あんたはチビのくせに!」

「喧嘩はいい!とにかく噴水の方に飛んでくれ!片っ端からいく!」

クリムはイエロに飛び乗り、グリンはクリムの肩の上に座った。

「噴水の方に行けばいいのね!ふぅー!久しぶりのクリムちゃんとの散歩だわー!」
「散歩?足ついてないだろ」「なんですって、グリン。あんただけ落とすわよ」「いいからいけぇー!」

クリムが叫ぶと、渋々イエロは飛び立った。

グリンは、クリムの肩の上で目をつぶり街全体に魔力を拡散をさせていく。

「クリム、全員に回すには魔力がちっとも足りん。借りるぞ」

「好きなだけ使ってくれ!皆を守りたい」

「やってみせよう。」

狐は、クリムの魔力を吸い上げ、バスケットボールほどの緑色の狐火を至る所に拡散していく。

屋根の上、街頭の中、路地裏、あらゆる所に緑の炎を散らし、真っ暗な街を緑の炎で照らしていった。

「おお!これはクリム様の炎だ!」

街で戦っていた吸血鬼たちは、狐火を掴むと倒れている者たちの背中から体内に入れ込んだ。

「うう……」

彼らの体を優しい炎が包み込み、体を傷つく元の状態に戻していく。

それを見た職人のドワーフが踊り子のフェアリーを助け、不良のゴブリンが貴族の吸血鬼に火を与えていた。

「不思議な光景だな」

「元来、魔族は打算的だ。これも戦力の補強としか見てないだろう。俺もそうだしな」

「だが、この光景が世界中に広がれば争いは無くなるのではないか?」

「さあな。ただ、俺は人間は愚かな種族だったと思っている。」

「私はそうは思わん…恐ろしいとは思うが……」

(難しく考えなくていいのにねぇ)

イエロは何も言わず、国を飛び回った。

                    ***

「ライリ!魔力は溜まったか!?」「いつでも行けます」

狐火が街を緑光で照らす中、ライリはラインブレードに魔力を注ぎ込む。

透明の厚さ数ミリの剣は薄くほのかに輝き、ライリと元国王クリムゾンに、白い線を引きその線をグランドレッド城へと繋いだ。

「一気に行きます!」「行け!」

剣を振ると、ライリとクリムゾンは糸に引っ張られ城の国王室までワープした。

赤を基調にした美しい城で、国王は強大な魔力の黒塊を作り出す。
ライリが黒塊とクリムゾンをラインブレードで結ぶと、クリムゾンはそれを両手で潰し目を閉じた。

影の操り人形ラインマリオネット

ライリは魔力を使い果たし、膝をつく。

クリムゾンは一言、ご苦労だった。といい、国中に影の人形を召喚した。

およそ1000体の影の人形と、神経を繋ぎ、救助、援護、攻撃を自在にこなすクリムゾン。その魔力量は魔界でも3本の指に入る。

「全く、アロハシャツ姿の人形が国中で暴れ回っていると思うとちょっと吐き気がしますね」

「アロハシャツをバカにするなよ、人間の唯一の賞賛するべき遺産だ」

「くだらない遺産の一つだと思います」

ライリは、目をつむり命運をアロハシャツの元国王に託した。

                    ***

グランドレッドには奇妙な光景が広がっていた。

2mクラスの翼竜達が次々と街を破壊していく中、国民達が眷属であるコウモリたちを群がらせたり、剣や銃、結界、ファイヤーボールなどの魔法を使い激しい攻防を繰り広げていた。

種族を超える共闘は長い魔界での歴史でそう見れるものではない。

フェアリーが歌でコウモリの魔力を増大させ翼竜を食いちぎる、ドワーフの斧を借りデュラハンが翼竜を粉砕する、小人たちがレッドスライムをバネにし翼竜に飛び乗り神経に針を刺して麻痺させる、人に布をかけたようなゴーストが翼竜の行く手を阻み巨大なゴーレムが翼竜を押しつぶす。

これらは本来、確執深い種族間では見られない光景、龍という共通の敵が現れ彼らは一時的な休戦をしたのだ。

「まさに、奇跡ね」

ジェードはコロシアムの中央で呟いた。

魔神の目を使い、範囲内であれば好きな光景を彼女は見ることができるのだ。

緑色の長髪に黒の露出度の高い水着が特徴的な彼女は、自分を縛っていた鎖が完全にとれていたことに気づく。

「あら、普通に逃げるチャンスかしら」

鎖を繋ぐ主人の行方もわからず、ただコロシアムの中央に取り残されたジェード。辺りを見回しても誰もいない。ジェードのすることといえば時々翼竜がコロシアムに入ってくるのでそれを魔神の手で握り潰すくらいだ。

「かといって帰る場所があるわけでもないし。ちゃっちゃとこの戦いを終わらせましょう」

クラリアス、クリム、キャンディ。この3人とジェードは仲がいい。

魔界ランキングが高いと魔界最高裁判所に呼び出され犯罪者を制圧するための抑止力として、駆り出されることがある。その時に顔を合わし、幾度と話すうちに裁判が憂鬱ではなくなった。

「あの子達と会えなくなるのは寂しいものね、特にクラリアスちゃんは小さくて抱きしめるとすっぽり収まって可愛いし♡」

ジェードはクラリアスの戦況が拮抗しているのを見て、自分に出来ることがない事をすでに悟っていた。

「白龍は無理でも翼竜くらいなら何とかなるかしら。」

ジェードは重く暗い雲を見上げる。

「この翼竜の量ということは、何かがここに呼び出してる可能性が高いわね。ちょっと行ってみようかしら」

ジェードは、魔神の手をつかい、自らの体を次元の狭間へと引きづりこむ。行先は、雲の上だ。

                    ***

「やっぱ無理だった……」

クラリアの身体は限界を迎えていた。

聖属性の攻撃を浴びせ続け結界を破壊してもまた結界を貼り直し、時々撃ってくる【粉砕の迫撃】を街に当たらないように上空で回避しつつ結界を割って懐に潜り込んでは、斬りつける。

単純なことだが消費する魔力の量が多すぎる。魔族が聖属性を身に纏っているこの状況は毒を全身に浴びているようなもので、白龍の逆鱗も4箇所ほど×字の切り傷をつけることが出来たが、これ以上この状態を維持できなかった。

「クラリス、僕もう無理そう。最後、突っ込んでくれる?」

「わかった!私やる!」

クラリアが眠りにつくと、クラリスが身体の主導権を握る。髪と瞳そして双翼双剣を黒く染め、ユニコーンの角が生えた。

今現在クラリスは完全なる魔族だ。元来の姿のこの状態ではジェードに引けを取らない異次元の強さを誇る。

そして、彼女の能力【悪魔の音響】が本領を発揮する。

「クリム聞いて!白龍を倒すにはどうしてもキャンディのお菓子が必要になる!クラリアの攻撃だけじゃ撃ち砕けない!私達魔族はみんな硬属性で【粉砕の迫撃】を跳ね返せないけど、キャンディの菓子なら跳ね返せる!」

クラリアは音を司る悪魔だ。目で見た範囲内のものに音の振動によって攻撃することができる。その能力を拡張させ、遥か遠くにいるクリムにまで声を届けた。返事を聞くことは出来ないが、おそらく行動してくれるはずだ。

「ここからは、私が相手よ!白龍!」

黒い邪気を纏う双剣で虚空切ると、見えない音の振動が飛んでいく。空気によって振動が伝わり、結界に当たると一瞬で砕かれる。その瞬間にクラリアは×字の傷がある腹にめがけて矢のような鋭い波長の音を送る。

しかし、白龍は音を察知し翼で音の波動をうけ【粉砕】した。

魔族の攻撃の殆どには硬属性があり、白龍の逆鱗には硬属性を打ち砕く【粉砕】という特性がある。それにより、クラリスの【悪魔の音響】が防がれてしまったのだ。

「腹を狙えば行けるはずなんだけど……!」

クラリアのつけた傷の位置には逆鱗が剥がれ、赤い血肉が見える。そこには【粉砕】の特性はない。
×字傷に攻撃を当てることが今クラリスにある、唯一の勝機だった。

白龍は、天を見た。未だにやってくる、数多もの翼竜たち。

もう、終わりにしよう。

白龍の頭に声が響き、白龍は【粉砕の迫撃】を貯め始める。

その光景にクラリスは絶望した。伝わってくる魔力の量が格段にあがった。あれは今までの規模ではない。この国ごと消し飛ばすほどの威力だ。

「やばい!……あれを打たれたら終わり!」

クラリスは、国中の人に向けて【悪魔の囁き】を送った。


その直後───クラリスの目の前を人影が上から下に通過した。


クラリスは慌ててその身体を受け止める。

「ジェード!!?」「……しくじったわ……」

魔界ランキング1位の実力を持つ彼女をここまで追い詰める者が近くにいる。クラリスは手が震えた。

そして非情にも、目の前を真っ白な壁が襲いかかって来る。

視界すべてを覆う白はグランドレッドという国を破壊すべく一直線に進んでいった。


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